「請求書の支払期限って、何日に設定すればいいんだろう」
「月末締め翌月末払いと翌々月末払い、どちらが一般的なの」
フリーランスとして独立したばかりの方や、経理担当になったばかりの方なら、こうした疑問を抱えているのではないでしょうか?
請求書の支払期限には、法律で「この日でなければならない」という規定はありません。ただし、下請法やフリーランス新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法/正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では「60日以内」という上限が定められています。
これを超える支払期限を設定すると法律違反となるケースがあります。
本記事では、請求書の支払期限について、法律上のルールから業界の慣行、トラブルを防ぐための具体的な書き方まで、実務で使える知識を解説します。
この記事でわかること
- 下請法・フリーランス新法の60日ルールと違反時のリスク
- 業界で一般的な支払期限パターンと選び方の基準
- 支払遅延・未払いトラブルを防ぐ請求書の書き方
- 【テンプレあり】今すぐ使える請求書・催促メール文面集
- 【ケーススタディ】実際の支払トラブルと解決事例
- 【セルフ診断】あなたの取引リスク度チェック
▼テンプレだけ見たい方はこちら
- 請求書の支払条件(標準) → 「テンプレート①:標準的な月末締め翌月末払い(最も推奨)」へ
- 契約書の支払条件(詳細版) → 「テンプレート③:契約書に記載する支払条件(詳細版)」へ
- 1回目の確認メール(やわらかめ) → 「【段階1】やわらかい確認メール(支払期限から3〜5日後)」へ
- 2回目以降の催促メール → 「【段階2】明確な督促メール(支払期限から2週間後)」へ
- 法的措置を示唆する督促状 → 「【段階3】法的措置を示唆する督促状(支払期限から1ヶ月後)」へ
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の状況により適用が異なる場合があるため、重要な判断の際は弁護士などの専門家にご相談ください。
今すぐ使える!請求書の支払条件テンプレート
まずは、そのままコピーして使える支払条件の記載例をご紹介します。状況に応じて選んでください。
テンプレート①:標準的な月末締め翌月末払い(最も推奨)
【お支払条件】
締め日:毎月末日
お支払期限:翌月末日
振込先:○○銀行 ○○支店 普通 1234567 カ)○○○○
※振込手数料は貴社ご負担にてお願いいたします
※お支払期限が金融機関休業日の場合は、前営業日をお支払日といたします
テンプレート②:20日締め翌月末払い
【お支払条件】
締め日:毎月20日
お支払期限:翌月末日
振込先:○○銀行 ○○支店 普通 1234567 カ)○○○○
※振込手数料は貴社ご負担にてお願いいたします
テンプレート③:契約書に記載する支払条件(詳細版)
第○条(支払条件)
1.甲は、毎月末日を締め日とし、翌月末日までに乙の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。
2.支払期日が金融機関の休業日に当たる場合は、その前営業日を支払期日とする。
3.振込手数料は甲の負担とする。
4.甲が支払期日までに支払いを行わない場合、乙は支払期日の翌日から完済日まで年14.6%の割合による遅延損害金を請求できるものとする。
テンプレート④:新規取引先への支払条件確認メール
件名:お取引条件のご確認のお願い
○○株式会社
○○様
お世話になっております。○○の△△でございます。
このたびはお取引のご検討をいただき、誠にありがとうございます。
つきましては、お取引開始に先立ち、以下の点をご確認させていただければ幸いです。
【確認事項】
1.御社のお支払サイト(締め日・支払日)
2.発注書・契約書の発行有無
3.請求書の送付方法(郵送/メール/システム経由)
弊社は、原則として月末締め翌月末払いでのお取引をお願いしております。
ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
なぜこのテンプレートがベストなのか?
詳細は後述の「支払期限に関する法律ルール」で解説します。
支払確認・催促メールテンプレート集
支払期限を過ぎても入金がない場合に使えるメールテンプレートです。段階に応じて使い分けてください。
【段階1】やわらかい確認メール(支払期限から3〜5日後)
件名:お支払いのご確認のお願い(請求書No.○○○)
○○株式会社
経理ご担当者様
いつもお世話になっております。○○の△△でございます。
さて、○月○日付にてお送りいたしました請求書(No.○○○、金額○○円)につきまして、
お支払期限の○月○日を経過しておりますが、弊社にてご入金の確認が取れておりません。
お忙しいところ恐れ入りますが、お手続き状況をご確認いただけますでしょうか。
なお、行き違いにてすでにお振込みいただいている場合は、何卒ご容赦ください。
【該当請求書】
・請求書番号:○○○
・請求金額:○○○,○○○円
・お支払期限:2025年○月○日
・振込先:○○銀行 ○○支店 普通 1234567
ご不明点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
何卒よろしくお願いいたします。
【段階2】明確な督促メール(支払期限から2週間後)
件名:【再送】お支払いのお願い(請求書No.○○○)
○○株式会社
経理ご担当者様
お世話になっております。○○の△△でございます。
○月○日に、下記請求書についてご確認のお願いをお送りいたしましたが、
本日時点でご入金の確認が取れておりません。
【該当請求書】
・請求書番号:○○○
・請求金額:○○○,○○○円
・当初お支払期限:2025年○月○日
ご事情がおありでしたら、ご一報いただけますと幸いです。
お支払い予定日をお知らせいただくか、○月○日までにお振込みいただけますようお願い申し上げます。
恐れ入りますが、何卒ご対応のほどよろしくお願いいたします。
【段階3】法的措置を示唆する督促状(支払期限から1ヶ月後)
件名:【重要】お支払いに関する最終のお願い(請求書No.○○○)
○○株式会社
代表取締役 ○○様
拝啓
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、弊社より○月○日付にてご請求申し上げました下記代金につきまして、
再三にわたりお支払いのお願いを申し上げておりますが、本日に至るまでご入金を確認できておりません。
【請求内容】
・請求書番号:○○○
・請求金額:○○○,○○○円
・当初お支払期限:2025年○月○日
・経過日数:○日
つきましては、○月○日までに上記金額を弊社指定口座にお振込みいただきますようお願い申し上げます。
万一、上記期日までにお支払いがない場合は、誠に遺憾ながら法的措置を含めた対応を検討せざるを得ません。
何卒ご理解いただき、早急のご対応を賜りますようお願い申し上げます。
敬具
請求書の支払期限は「月末締め翌月末払い」が最も無難
請求書の支払期限は「月末締め翌月末払い」に設定するのが最も安全です。この設定であれば、下請法やフリーランス新法の「60日ルール」に抵触しません。
多くの企業で採用されている標準的なサイクルであるため、取引先からも受け入れられやすくなります。
月末締め翌月末払いの具体例
たとえば、7月1日に成果物を納品した場合を考えてみましょう。7月末日締めとして翌月8月31日が支払期限となります。下請法・フリーランス新法では「受領後60日以内」を「受領後2か月以内」として運用しているため、この設定であれば法律違反とはなりません。
一方、「月末締め翌々月末払い」を設定している場合は注意が必要です。月初に納品した案件は、支払期限までに60日を超えてしまう可能性があります。下請法やフリーランス新法の対象取引では法律違反となります。
主な支払期限パターンの比較
では、なぜ60日という数字が重要なのか。法律の詳細を見ていきましょう。
CHECK
月末締め翌月末払いが60日ルールに適合する最も安全な設定
翌々月末払いは月初納品で60日を超え法律違反リスクあり
支払サイトは30日前後が業界標準
支払期限に関する法律ルール|60日ルールを正しく理解する

請求書の支払期限について、法律で「必ずこの日に設定しなさい」という規定はありません。ただし、取引の種類によっては、下請法やフリーランス新法によって「60日以内」という上限が設けられています。
この法律ルールを知らずに取引を行うと、発注者側が法律違反となるだけでなく、受注者側も不利益を被る可能性があります。
下請法の60日ルール|親事業者の義務
下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、資本金規模の大きい親事業者が、下請事業者に対して不当に支払いを遅らせることを防ぐための法律です。親事業者は「給付を受領した日から起算して60日以内」に支払期日を定めなければなりません。
ここで重要なのは、「給付を受領した日」の解釈です。これは検収日ではなく、成果物を実際に受け取った日(占有下に置いた日)を指します。
たとえば、7月10日に製品が納品され、検収が7月25日に完了したとしても、60日のカウントは7月10日から始まります。検収に時間がかかったとしても、支払期限を遅らせる正当な理由にはなりません。
下請法が適用される取引(資本金要件)
下請法が適用されるかどうかは、親事業者と下請事業者の資本金によって決まります。
製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の場合
- 親事業者の資本金が3億円超で、下請事業者の資本金が3億円以下(または個人事業主)
- 親事業者の資本金が1,000万円超3億円以下で、下請事業者の資本金が1,000万円以下(または個人事業主)
下請法では、この規定に違反した場合、年率14.6%の遅延利息を支払う義務が発生します(下請法第4条の2)。加えて、公正取引委員会から指導や勧告を受ける可能性があります。勧告を受けた場合は企業名が公表されます。
フリーランス新法の60日ルール|2024年11月施行
フリーランス新法は、下請法の対象外だったフリーランスとの取引にも、60日ルールを適用するものです。
フリーランス新法では、従業員を雇用している発注事業者(特定業務委託事業者)が、フリーランス(従業員を使用しない個人事業者・一人法人)に業務を委託する場合、「給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内」に支払期日を定めなければなりません。
フリーランス新法には下請法のような遅延利息(年率14.6%)に関する直接の規定はありません。ただし、違反した場合は行政指導・勧告の対象となります。勧告に従わない場合は企業名の公表や、命令違反に対する罰金(50万円以下)の対象となる可能性があります。
特に注意すべきは、現在「月末締め翌々月末払い」を採用している場合です。たとえば、7月1日に成果物を納品し、翌々月末の9月30日に支払う場合、納品から支払いまで92日かかることになり、法律違反となります。
フリーランス新法の60日ルールのポイント
- 起算日は「給付を受領した日」であり、その日を1日目としてカウント
- 支払期日を定めなかった場合は、受領した日が支払期日とみなされる(即日払いが必要)
- 60日を超える支払期日を定めた場合は、受領日から60日目が支払期日とみなされる
- 再委託の場合は、元委託者からの支払期日から30日以内という例外がある
60日と「2か月」の運用上の違い
下請法およびフリーランス新法では、実務上「受領後60日以内」を「受領後2か月以内」として運用しています。これは、31日ある月も30日までしかない月も、同じく「1か月」として計算するという意味です。
たとえば、「毎月末日締め翌月末日支払い」を設定している場合、7月1日に受領した案件は8月31日に支払われることになります。これは「2か月以内」の運用に収まるため、法律違反とはなりません。
金融機関休業日の取り扱い
支払期限が金融機関の休業日に当たる場合の取り扱いも重要です。支払いを翌営業日に順延する場合は、順延期間が2日以内であり、あらかじめ書面または電磁的方法(メールなど)で合意している必要があります。
年末年始やゴールデンウィークなど、3日以上の連休にかかる場合は、前営業日に支払うよう設定しておくのが安全です。
CHECK
下請法は資本金要件を満たす取引に適用、違反時は年率14.6%の遅延利息
フリーランス新法は2024年11月施行、遅延利息規定はないが行政指導・罰金対象
「給付を受領した日」は検収日ではなく実際に成果物を受け取った日
【ケーススタディ】支払期限をめぐる実際のトラブルと解決事例

抽象的なルール説明だけでは、実際の場面でどう動けばいいか分かりにくいものです。ここでは、フリーランス・中小企業がよく遭遇する3つのケースを詳しく見ていきましょう。
ケース1:翌々月末払いを交渉で翌月末に変更できた例(Webデザイナー・独立3年目)
背景・状況
Aさん(32歳・Webデザイナー)は、都内の中堅広告代理店から新規案件の打診を受けました。案件規模は50万円、制作期間は約1ヶ月。取引条件を確認したところ、「月末締め翌々月末払い」と言われました。
時系列の流れ
| 日付 | 出来事 |
| 6月15日 | 広告代理店から案件打診。「翌々月末払いです」と言われる |
| 6月16日 | Aさん「フリーランス新法で60日ルールがあると聞きました」とメールで確認 |
| 6月18日 | 先方担当「確認します」と返信 |
| 6月22日 | 先方経理部から「ご指摘のとおり、翌月末払いに変更可能です」と連絡 |
| 6月25日 | 契約書に「月末締め翌月末払い」と明記して正式契約 |
実際のやりとり(Aさんが送ったメール抜粋)
○○様
お取引条件についてご確認させてください。御社の「月末締め翌々月末払い」について、2024年11月施行のフリーランス新法では、フリーランスへの支払いは「納品から60日以内」と定められております。
月初に納品した場合、翌々月末では60日を超えてしまう可能性がございます。つきましては、「月末締め翌月末払い」への変更をご検討いただけないでしょうか。
長くお付き合いさせていただきたく、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
Aさんの当時の心境
「正直、新規取引先に法律の話を持ち出すのは勇気がいりました。『面倒なフリーランスだ』と思われて仕事がなくなるんじゃないかと…。でも、毎回60日以上待たされるストレスを考えると、最初にはっきり言っておくほうがいいと判断しました」
結果と学び
- 先方は「法改正を把握していなかった」とのことで、すんなり変更してもらえた
- その後も継続的に仕事をもらえており、関係は良好
- 【学び】法律を根拠に伝えれば、感情的な対立にならずに交渉できる
ケース2:支払遅延が3回続き、取引を終了した例(ライター・独立5年目)
背景・状況
Bさん(40歳・ライター)は、スタートアップ企業Cのオウンドメディア記事を月10万円で受注していました。当初は翌月末払いで問題なく入金されていましたが、半年ほど経った頃から支払いが遅れ始めました。
時系列の流れ
| 日付 | 出来事 |
| 1月末 | 12月分の請求に対し、入金なし |
| 2月3日 | Bさんがメールで確認。「経理処理が遅れた」と説明、2月10日に入金 |
| 2月末 | 1月分の請求に対し、また入金なし |
| 3月5日 | 電話で確認。「資金繰りが厳しく…」と説明、3月15日に入金 |
| 3月末 | 2月分の請求に対し、入金なし |
| 4月10日 | 督促メール送付。「今月中には必ず」との返答 |
| 4月30日 | 入金なし |
| 5月1日 | Bさんから契約終了の意思を伝達。5月分の原稿は納品せず |
| 5月20日 | 2月分・3月分がまとめて入金される |
Bさんが最後に送ったメール抜粋
○○様
これまで3回にわたりお支払いの遅延が続いております。弊社としても資金繰りに影響が出ており、誠に残念ではございますが、今月をもってお取引を終了させていただきたく存じます。
なお、2月分・3月分の未払い金○○円については、5月15日までにお支払いいただけない場合、法的措置を含めた対応を検討せざるを得ません。
何卒ご理解のほどお願い申し上げます。
Bさんの当時の心境
「最初の遅延のとき、もっと強く言っておけばよかったと後悔しています。『1回くらいなら…』と思って流してしまったのが失敗でした。2回目の時点で『次は契約見直しです』くらい言っておくべきだった」
結果と学び
- 未払い金は回収できたが、約2ヶ月分の機会損失が発生
- 取引終了後、別の制作会社経由で新規クライアントを獲得
- 【学び】2回目の遅延時点で契約条件の見直しor終了を検討すべき
ケース3:支払条件を口頭合意だけで進めてトラブルになった例(初心者フリーランス)
背景・状況
Dさん(28歳・動画編集者)は、知人の紹介で個人経営の飲食店オーナーEさんからPR動画制作を受注しました。報酬は15万円。「支払いは動画完成後でいいよ」との口頭合意で作業を開始しました。
時系列の流れ
| 日付 | 出来事 |
| 8月1日 | 知人紹介で案件受注。「完成後に払う」と口頭合意 |
| 8月15日 | 動画完成、納品。「今月中に払うね」とEさん |
| 8月31日 | 入金なし。LINEで確認すると「来月には」と返答 |
| 9月30日 | 入金なし。電話すると「売上が厳しくて…分割でもいい?」 |
| 10月15日 | 5万円のみ入金 |
| 11月〜12月 | 何度も催促するが、「もう少し待って」の繰り返し |
| 1月 | 知人に仲裁を依頼。残り10万円を3回分割で支払う合意 |
| 3月 | ようやく全額回収完了 |
Dさんの振り返り
「紹介だからと安心して、契約書も請求書も支払期限もあいまいにしてしまいました。相手に悪気はなかったと思うんですが、書面がないと『いつまでに払う』という約束を守らせる根拠がない。15万円を回収するのに7ヶ月かかりました」
結果と学び
- 全額回収には成功したが、時間と精神的コストが大きかった
- 知人との関係も気まずくなった
- 【学び】紹介案件・小規模案件でも必ず書面で支払条件を明記する
【セルフ診断】あなたの支払トラブルリスク度チェック
以下のチェックリストで、あなたの取引がトラブルに発展しやすい状態かどうかを確認してみましょう。当てはまる項目に✓を入れてください。
チェックリスト
□1.契約書や発注書なしで作業を開始することがある
→「言った・言わない」の水掛け論になるリスク大
□2.支払条件を口頭やチャットだけで合意している
→相手が「忘れた」「そんな約束はしていない」と言えてしまう
□3.請求書に具体的な支払期限(日付)を記載していない
→「いつまでに払えばいいか分からなかった」と言い訳される
□4.新規取引先の支払サイトを事前確認せずに受注している
→後から「うちは翌々月末です」と言われても交渉しにくい
□5.取引先の支払サイトが60日を超えているが、そのまま受け入れている
→フリーランス新法違反。将来的に法律変更で不利になる可能性も
□6.一度でも支払遅延があった取引先と、条件変更せずに継続している
→「この人は待ってくれる」と認識され、遅延が常態化しやすい
□7.入金確認を翌月の経理作業まで行っていない
→遅延に気づくのが遅れ、督促のタイミングを逃す
□8.催促メールを送ることに心理的抵抗がある
→遅延を放置してしまい、相手に「甘い」と思われる
□9.着手金や中間金なしで、完成後一括払いの案件が多い
→全額未払いリスクを一人で背負っている状態
□10.同じクライアントへの売上依存度が50%を超えている
→そのクライアントの支払いが止まると、事業継続が危うくなる
診断結果
0〜2個:低リスク
基本的なリスク管理ができています。現在の運用を継続しつつ、定期的にチェックリストを見直しましょう。
3〜5個:中リスク
いくつかの穴があります。特に1〜3の項目に当てはまる場合は、契約書・請求書のテンプレートを見直し、すべての取引で書面を残す習慣をつけましょう。
6個以上:高リスク
早急な改善が必要です。まずは現在進行中の案件すべてについて、契約条件を書面で再確認してください。支払遅延が発生している案件があれば、本記事の督促テンプレートを使って対応を開始しましょう。
業界別・状況別の支払期限の決め方
支払期限の設定は、法律の範囲内であれば当事者間で自由に決められます。ただし、業界や取引の性質によって「暗黙の標準」があり、これを大きく外れた設定は取引先との関係悪化を招くこともあります。
フリーランス・個人事業主として請求する場合
フリーランスや個人事業主が企業に請求書を発行する場合、支払期限は発注者である企業側のルールに合わせるのが一般的です。多くの企業は「月末締め翌月末払い」または「月末締め翌々月末払い」のどちらかを採用しています。
ただし、2024年11月のフリーランス新法施行以降、翌々月末払いは法律違反となる可能性があるため、取引先に確認することをおすすめします。
取引を始める前に「御社の支払サイトを教えていただけますか」と確認し、60日を超える設定になっていないかチェックしましょう。
フリーランスが支払期限を交渉する際のポイント
- 取引開始前に支払サイトを確認し、契約書に明記してもらう
- 月末締め翌月末払いを希望する場合は、その理由(資金繰りなど)を伝える
- 長期の取引実績ができたら、支払サイト短縮を交渉する余地もある
発注者として支払期限を設定する場合
発注者として支払期限を設定する場合は、自社の経理処理サイクルを考慮しつつ、法律の上限を超えないよう注意が必要です。下請法やフリーランス新法の適用対象となる取引では、「月末締め翌月末払い」を標準とするのが最も安全です。
支払期限の設定でよくある失敗は、「検収完了後◯日以内」という設定です。この書き方では、検収が遅れると支払いも連動して遅れることになり、結果的に法律上の60日を超えてしまうリスクがあります。
法律では「検収日」ではなく「受領日」が起算点となるため、検収プロセスとは切り離して支払期限を設定する必要があります。
新規取引先との支払期限の取り決め方
新規取引先と支払期限を取り決める際は、契約書や発注書に具体的な日付または計算方法を明記することが重要です。口頭での合意だけでは、後々「言った・言わない」のトラブルになりかねません。
契約書に記載すべき支払条件の例
- 「甲は、毎月末日を締め日とし、翌月末日までに乙の指定口座に振り込む方法により支払う」
- 「支払期日が金融機関の休業日に当たる場合は、その前営業日を支払期日とする」
- 「振込手数料は甲の負担とする」
CHECK
フリーランスは取引開始前に支払サイトを確認し契約書に明記
発注者は「検収完了後◯日」ではなく「受領後◯日」で設定
新規取引は口頭合意ではなく契約書・発注書で明文化
請求書への支払期限の書き方|トラブルを防ぐ記載のポイント
支払期限は請求書に明記することで、取引先に支払いのタイミングを明確に伝えられます。ここでは、トラブルを防ぐための具体的な記載方法を解説します。
支払期限の正しい記載例
請求書に支払期限を記載する際は、具体的な日付で明記することが最も重要です。「翌月末まで」「30日以内」といった相対的な表現は、誤解を招く原因となります。
記載例(推奨)
- お支払期限:2025年2月28日
- 振込期日:2025年2月28日(金曜日)
記載例(避けるべき)
- 請求書発行日から30日以内→起算日の解釈でトラブルになりやすい
- 速やかにお支払いください→具体的な期日が不明
- 翌月末日まで→年またぎの場合に誤解が生じやすい
支払期限の記載位置
支払期限は、請求書の目立つ位置に記載することで、見落としを防げます。一般的には、以下の位置に記載されることが多いです。
- 請求金額の直下:金額と合わせて確認しやすい
- 振込先口座情報の近く:振込作業時に確認しやすい
- 請求書上部(発行日の近く):一目で確認できる
どの位置に記載するにしても、他の情報に埋もれないよう、太字にしたり枠で囲んだりする工夫が効果的です。
支払期限が土日祝日の場合の対応
支払期限を月末や特定の日に固定していると、その日が土日祝日や年末年始に当たることがあります。金融機関が休業している日には振込ができないため、あらかじめ対応ルールを決めておくことが重要です。
一般的な対応パターン
| 対応方法 | 内容 | 適用場面 |
| 前営業日払い | 支払期限が休業日の場合、その前の営業日を支払日とする | 年末年始・GWなど連休が長い場合 |
| 翌営業日払い | 支払期限が休業日の場合、翌営業日を支払日とする | 通常の土日祝日 |
下請法・フリーランス新法の対象取引では、翌営業日に順延する場合、順延期間が2日以内であり、かつ書面または電磁的方法(メールなど)で事前合意していることが条件となります。
年末年始やゴールデンウィークなど連休が長い場合は、前営業日払いを選択するか、そもそも連休にかからない日を支払期限とするのが安全です。
CHECK
支払期限は「2025年2月28日」のように具体的な日付で明記
「翌月末」「30日以内」など相対的な表現は誤解の原因
土日祝日の対応ルールは契約書で事前合意
支払期限を過ぎても入金がない場合の対処法

請求書を発行したにもかかわらず、支払期限を過ぎても入金がない場合は、段階的に対応を進めていく必要があります。いきなり強硬な態度を取ると取引関係が悪化するため、まずは事実確認から始めましょう。
STEP1:自社の請求内容を確認する
まずは自社側に問題がないかを確認します。請求書の送付漏れ、宛先間違い、金額の誤記載、支払期限の未記載などがないか、発送記録や控えをチェックしましょう。
自社のミスで支払いが遅れている可能性を排除してから、取引先に連絡することが重要です。
STEP2:取引先に確認の連絡を入れる
自社側に問題がないことを確認したら、メールまたは電話で取引先に連絡します。最初の連絡では「催促」ではなく「確認」のトーンで行うのがポイントです。
担当者の処理漏れや、請求書の紛失といった単純なミスが原因であることも多く、連絡すればすぐに対応してもらえるケースがほとんどです。
STEP3:督促状を送付する
メールや電話での連絡後も支払いがない場合は、書面で督促状を送付します。督促状には、請求書の内容、支払期限、延滞している旨、新たな支払期限を明記します。
この段階では、今後の法的措置の可能性を示唆することで、相手に支払いを促す効果があります。
STEP4:内容証明郵便・法的措置を検討する
督促状を送付しても対応がない場合は、内容証明郵便による請求、支払督促の申立て、少額訴訟(60万円以下の場合)などの法的措置を検討します。この段階に至る前に、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
売掛金の消滅時効に注意
請求書に基づく売掛金(債権)には消滅時効があります。民法改正により、2020年4月1日以降に発生した債権については、原則として「権利を行使できることを知った時から5年」で時効となります(民法第166条第1項第1号)。
(参考)e-Gov法令検索「民法」
時効が成立すると法的に請求できなくなるため、支払いが遅れている場合は早めに対応しましょう。
CHECK
未払い対応は「確認→連絡→督促→法的措置」の4段階で進める
最初の連絡は「催促」ではなく「確認」のトーンで
売掛金の消滅時効は原則5年、早めの対応が必要
【判断軸】どこまで粘り、どこで線を引くか
支払いが遅れている取引先に対して、どこまで待つべきか、どの時点で取引を見直すべきか。この判断は、フリーランスや中小企業の経営者にとって悩ましい問題です。
すべてのケースで粘り続けることが正解ではありません。ここでは、「あえて諦める・線を引く」ための判断軸を整理します。
時間コストと回収見込みのバランス
判断の目安
| 回収にかかる時間(累計) | 判断の方向性 |
| 〜5時間 | 通常の督促対応で継続 |
| 5〜10時間 | 専門家(弁護士・司法書士)への相談を検討 |
| 10時間〜 | 回収コストと未回収金額を比較し、継続か損切りか判断 |
たとえば、5万円の未払い金を回収するために、催促メール・電話・書面作成に累計10時間かけているとしたら、時給換算で5,000円以下になります。その時間で新規案件を獲得できる可能性を考えると、損切りして前に進むほうが合理的な場合もあります。
繰り返しの遅延に対する対応基準
支払遅延が1回なら「たまたま」かもしれません。しかし、2回以上続いた場合は「構造的な問題」と捉えるべきです。
線引きの目安
- 1回目:やわらかく確認し、原因を把握。相手の説明に納得できれば継続
- 2回目:支払条件の見直し(前払い・分割・着手金導入など)を交渉。応じなければ新規受注を停止
- 3回目:取引終了を検討。未払い分は督促・法的措置で回収
長期的な関係性vs短期的な売上
「このクライアントとは長く付き合いたい」という思いから、無理な条件を受け入れてしまうケースがあります。しかし、不利な条件を飲み続けることで、かえって関係が対等でなくなり、長期的には悪影響となることもあります。
健全な取引関係のサイン
- 支払条件について対等に話し合える
- 遅延があっても、誠実に説明・対応してくれる
- 自社の都合だけでなく、相手の事情も考慮してくれる
見直しを検討すべきサイン
- 支払条件の交渉を一方的に拒否される
- 遅延の説明がない、または毎回違う理由を言われる
- 「今回だけ特別に」が何度も繰り返される
「諦める」ことで守れるもの
回収を諦めることは、負けではありません。以下のものを守るための戦略的撤退と考えましょう。
- 時間:その時間を新規開拓や既存の優良顧客への対応に使える
- 精神的エネルギー:ストレスフルな交渉から解放される
- 事業全体のキャッシュフロー:一つの不良債権に固執して他の業務がおろそかになるリスクを避けられる
CHECK
回収に10時間以上かかるなら、専門家相談か損切りを検討
支払遅延2回目で条件見直し交渉、3回目で取引終了を視野に
「諦める」は負けではなく、時間・精神・キャッシュフローを守る戦略的判断
よくある質問(FAQ)
Q:請求書に支払期限を記載しなかった場合、どうなりますか?
請求書に支払期限が記載されていない場合、取引先が「いつまでに支払えばよいかわからない」という状態になり、支払いが遅れる原因になります。
フリーランス新法では、支払期日を定めなかった場合は「給付を受領した日」が支払期日とみなされ、即日払いが必要となります。トラブル防止のためにも、必ず具体的な日付を記載してください。
Q:取引先から「翌々月末払い」を指定されました。変更を依頼できますか?
2024年11月施行のフリーランス新法により、フリーランスへの支払いは「60日以内」が義務化されています。
月初に納品した案件が翌々月末払いになると60日を超える可能性があるため、法律違反のリスクを取引先に伝え、「月末締め翌月末払い」への変更を交渉することをおすすめします。
Q:請求書に基づく売掛金の時効はいつまでですか?
請求書自体には有効期限はありませんが、請求書に基づく「売掛金(債権)」には消滅時効があります。
民法改正後の2020年4月1日以降に発生した債権については、原則として権利を行使できることを知った時から5年で時効となります(民法第166条第1項第1号)。時効が成立すると法的な請求ができなくなるため、支払いが遅れている場合は早めに対応してください。
【状況別】あなたが今日取るべき一歩
最後に、あなたの状況に応じて「今日・明日にできる具体的なアクション」を1つだけ提案します。
状況A:まだ支払トラブルを経験したことがない人
今のうちに予防策を整えましょう。
今日やること
本記事の「テンプレート③:契約書に記載する支払条件(詳細版)」をコピーし、自分用にカスタマイズして保存する
状況B:すでに1〜2件の支払遅延を経験している人
遅延パターンを分析し、再発防止策を講じましょう。
今日やること
過去の遅延案件について「なぜ起きたか(契約書なし?確認不足?)」を1件ずつメモに書き出す。共通点が見つかれば、そこがあなたの「穴」
状況C:現在進行形で未払い案件を抱えている人
まず動くことが大事です。
今日やること
本記事の「【段階1】やわらかい確認メール」を参考に、今日中に1通だけ送信する。送ることで状況が動き出す
状況D:複数の未払い・遅延案件が積み上がっている人
全体像を把握することが最優先です。
今日やること
Excelやスプレッドシートで「取引先名/金額/支払期限/経過日数/対応状況」の一覧表を作成する。優先度は「金額×経過日数」で判断
まとめ:請求書の支払期限は60日ルールを押さえて設定
請求書の支払期限について、本記事では法律ルールから実務的な書き方まで解説しました。下請法・フリーランス新法では「給付受領日から60日以内(2か月以内)」に支払期日を定める義務があり、「月末締め翌月末払い」が最も安全な設定です。
支払期限を設定する際は、「2025年2月28日」のように具体的な日付で明記し、土日祝日の対応ルールも契約書で事前に取り決めておきましょう。
今日から実践できる3つのアクション
- 既存の契約書を確認:現在の支払サイトが60日を超えていないかチェックし、超えている場合は取引先と再交渉
- 請求書テンプレートを更新:支払期限を具体的な日付で記載し、目立つ位置に配置
- 新規取引の支払条件を明文化:口頭合意ではなく契約書や発注書に支払条件を明記
請求書の支払期限を適切に設定することで、資金繰りの安定と円滑な取引関係を実現できます。
出典・参照元
本記事は以下の情報源をもとに作成されています。
- 公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法」
- 公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」
- 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」
- 厚生労働省「フリーランスの取引に関する新しい法律について」
- e-Gov法令検索「民法」
※記事内容は2025年12月7日時点の税制・法令に基づいています。税制改正等により内容が変更される場合がありますので、最新情報は国税庁または弁護士にご確認ください。
