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フリ転編集部

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事業主貸が膨らんで困っていないでしょうか?

結論、事業主貸を減らすには「事業用口座とプライベート口座の完全分離」がもっとも大切です。

事業主貸が膨らむと元入金がマイナスになります。すると債務超過状態と見なされ、融資審査で大きく不利になってしまいます。さらに困ったことに、法人化する際もスタート時点から債務超過でハンデを背負うリスクがあります。

この記事では、税理士の解説をもとに次の内容を具体的に説明します。

事業主貸が増える仕組みと融資・税務調査への影響
事業主貸を確実に減らす3つの実践方法
法人化前に必ずやるべき元入金対策

    目次

    事業主貸とは?個人事業主特有の勘定科目を理解する

    事業主貸とは、事業資金をプライベート目的で使った際に計上する勘定科目です。

    法人でいう「役員貸付金」に相当し、決算書の貸借対照表(青色申告決算書4ページ目)の資産の部に記載します。事業用口座から個人的な支出を行うと、この金額が自動的に積み上がっていきます。

    個人事業主は法人と違って、事業主自身への「役員報酬」という概念がありません。そのため、生活費を引き出すたびに事業主貸として処理されるわけです。これ自体は違法ではなく、むしろ自然な会計処理になります。

    でも問題は、この残高が大きくなりすぎると、融資審査や税務調査で深刻なマイナス評価を受ける点にあります。では、どんな場面で事業主貸は発生するのでしょうか。

    事業主貸が発生する主なケース

    事業主貸は日常的に発生するもので、代表的なケースとして以下のようなものがあります。

    生活費の引き出し

    生活費の引き出しは、最も頻繁に発生するパターンですね。事業用口座から現金や預金を引き出して生活費に充てると、その都度事業主貸として計上されます。

    たとえば月20万円から40万円を生活費として引き出せば、年間で240万円から480万円の事業主貸が積み上がります。

    個人の保険料・共済掛金の支払い

    個人の保険料・共済掛金の支払いも事業主貸の対象です。生命保険料や小規模企業共済の掛金を事業用口座から支払うと、これらは経費として認められないため事業主貸で処理します。

    家事関連費の自己否認分

    家事関連費の自己否認分も見逃せません。家賃や通信費など、事業とプライベートで共用している経費のうち、プライベート部分として否認した金額も事業主貸に計上されます。

    このように、真面目に事業を行っていても事業主貸は自然に増加します。問題は、その増加をコントロールせず放置することです。

    事業主貸が増えすぎると何が起こるのか?

    事業主貸の残高が膨らむと、元入金がマイナスになり「債務超過状態」と判断されます。

    元入金とは個人事業主における資本金のようなもの。翌年には前年の元入金・当期利益・事業主貸・事業主借が自動的に相殺されて新しい元入金額が決まります。

    具体例で見てみましょう。元入金が500万円、当期利益が400万円あっても、事業主貸が2,000万円(事業主借を差し引いた純額)あれば、翌年の元入金は▲1,100万円(マイナス)になります。これが債務超過です。

    融資審査で致命的なマイナス評価を受ける

    金融機関は融資審査において、単年度の利益以上に「純資産がプラスか、債務超過か」を重視します。

    債務超過の状態は「負債が資産を上回っている」ことを意味します。これは返済能力に深刻な疑念を抱かせます。たとえ毎年黒字であっても、事業主貸の積み上がりで元入金がマイナスになっていれば、融資は極めて困難になります。

    実際、銀行担当者は貸借対照表の元入金欄を必ずチェックします。そこでマイナスであることがわかると、融資姿勢は一気に消極的になってしまうでしょう。

    税務調査で脱税を疑われるリスク

    事業主貸ほどではありませんが、事業主借が異常に膨らんでいる場合も注意が必要です。

    事業主借とは、プライベート資金で事業経費を立て替えた際に使う勘定科目ですね。これが大きく膨らんでいると、「本来は売上に計上すべき入金を、事業主借でごまかしているのでは?」と税務署に疑われる可能性があります。

    国税庁の「令和4事務年度所得税及び消費税調査等の状況」によると、個人事業主を対象とした実地調査は約4万6,000件実施されました。そのうち約83%にあたる約3万8,000件で申告漏れなどの違反が発見されています。

    売上に計上していないのに多額の入金があるのは不自然です。税務調査官はそうした異常値に注目する傾向があります。

    法人化時に債務超過でスタートする最悪のシナリオ

    個人事業から法人成りする際、通常は個人事業の財産を法人に引き継ぎます。

    このとき、元入金がマイナス(債務超過)だと、新設法人が債務超過の状態でスタートすることになります。法人設立直後から融資が受けられず、取引先の与信審査でも不利になるという最悪の事態を招くわけです。

    「もっと早く対策しておけば良かった」と後悔する経営者は少なくありません。実際に、私がサポートしたクライアントの中にも、個人事業主時代に元入金管理を怠ったために、法人化後の資金調達で苦労したケースが複数あります。

    個人事業主のうちに、元入金をプラスに保つ習慣を身につけることが極めて大切です。

    事業主貸を確実に減らす3つの実践方法

    事業主貸を減らすには、「事業用とプライベート用の口座を完全に分離する」ことがもっとも重要です。

    理由は明確ですね。事業用口座からプライベートな支出をしなければ、事業主貸は原則として発生しません。逆に、口座が混在していると、あらゆる支出が事業主貸の対象になり得ます。

    以下、具体的な3つの対策を解説します。

    対策①:事業用口座とプライベート口座を物理的に分離する

    最優先で実行すべきは、口座の完全分離です。

    事業用口座には、売上入金・経費支払い・事業関連の取引のみを集約します。一方、生活費・個人の保険・趣味の支出などは、すべてプライベート口座で管理しましょう。

    具体的な運用方法

    ステップ内容ポイント
    1事業用口座を新規開設既存口座は混在しやすいため新規がベター
    2月1回定額を生活費として移動例:毎月25日に30万円をプライベート口座へ
    3移動分のみ事業主貸で処理帳簿がシンプルになる
    4プライベート支出は全てプライベート口座で事業用口座には一切触れない

    この方法なら、事業主貸は「月1回の生活費移動分」が主体となり、帳簿も大幅にシンプルになります。ただし、家事按分などで多少の事業主貸は発生しますね。たとえば月30万円を移すだけなら、年間360万円の事業主貸で済むわけです。

    対策②:小規模企業共済・保険料はプライベート口座から支払う

    所得控除対象の支出も、プライベート口座から支払うことで事業主貸を回避できます。

    小規模企業共済や生命保険料は、確定申告で所得控除の対象になりますが、経費ではありません。そのため、事業用口座から支払うと事業主貸として処理されてしまうんですね。

    これを避けるには、プライベート口座から引き落とし設定をします。これにより、事業用の帳簿には一切記載されず、事業主貸が膨らむ原因を根本から排除できるでしょう。

    確定申告時には、プライベート口座の通帳や証明書をもとに所得控除を申請すれば問題ありません。帳簿処理と確定申告は別の話として整理することがポイントです。

    たとえば、小規模企業共済の掛金が月7万円、生命保険料が月2万円の場合、年間で108万円の事業主貸削減になります。これだけで元入金への影響を大きく抑えられるわけですね。

    対策③:事業主借で相殺する(一時的な対処法)

    どうしても事業口座でプライベート支出をした場合、後から事業主借で相殺する方法があります。

    相殺の仕訳例

    ケース借方金額貸方金額摘要
    支出時事業主貸30,000円普通預金30,000円小規模企業共済
    入金時普通預金30,000円事業主借30,000円個人資金を戻す

    この結果、事業主貸30,000円と事業主借30,000円が相殺され、決算書への影響がゼロになります。

    ただし、これはあくまで一時的な対処法です。毎回このような処理をするのは煩雑で、ミスも起こりやすくなります。根本的には対策①と②を徹底すべきですね。

    事業主貸を減らすための帳簿管理のコツ

    事業主貸を適切にコントロールするには、日々の帳簿管理で「見える化」することが大切です。

    帳簿をつけていても、事業主貸の残高を定期的にチェックしていない事業主は少なくありません。気づいたときには元入金がマイナスになっていた、というケースもあります。

    クラウド会計ソフトで残高を常時モニタリング

    クラウド会計ソフトを使えば、事業主貸の残高がリアルタイムで確認できます。

    毎月末に貸借対照表を確認し、事業主貸の金額が適正範囲内かをチェックする習慣をつけましょう。目安としては、元入金がマイナス(債務超過)にならない範囲に収めることが重要です。

    もし事業主貸が元入金を上回りそうな場合は、翌月以降の生活費引き出しを減らす、あるいは個人資金を事業用口座に入れて事業主借で相殺するなどの対応が必要になります。

    家事按分は厳密に行い、自己否認分を最小化する

    家賃・通信費・車両費など、事業とプライベートで共用している経費は、適切な按分比率を設定しましょう。

    按分比率が不適切だと、税務調査で否認されるリスクが高まります。否認された部分は事業主貸として処理されるため、結果的に事業主貸が膨らんでしまうんですね。

    按分比率は、実態に即して合理的に設定し、説明可能な根拠を持つことが大切です。たとえば自宅兼事務所の家賃なら、「床面積の30%を事業用として使用」といった明確な根拠が必要になります。

    生活費の引き出しは計画的に

    毎月の生活費引き出し額を固定化することで、事業主貸の増加ペースを予測可能にできます。

    たとえば、年間利益が500万円と見込まれる場合、生活費として月30万円(年360万円)を引き出せば、年末の元入金は前年比でプラスになりますね。逆に、利益を超える額を引き出し続けると、確実に債務超過に向かいます。

    事業の収益力と生活費のバランスを常に意識し、計画的な資金管理を心がけましょう。

    法人化前に必ずやるべき元入金対策

    法人化を検討している場合、個人事業のうちに元入金をプラスに戻しておくことが絶対条件です。

    法人成りの際、個人事業の財産を法人に引き継ぐのが一般的ですね。このとき、元入金がマイナスだと、新設法人が債務超過でスタートすることになります。

    債務超過の法人は、設立直後から融資が困難になり、取引先からの信用も得にくくなります。せっかく法人化したのに、資金繰りで苦しむという本末転倒な事態を避けるため、以下の対策を実行しましょう。

    法人化1年前から元入金をプラスに保つ

    法人化を決めたら、最低でも1年前から元入金の改善に取り組みます。

    具体的には、事業主貸の発生を極力抑え、利益を蓄積します。必要なら、個人資金を事業用口座に入れて事業主借を計上し、元入金をプラスに転じさせましょう。

    元入金が十分にプラスになった状態で法人化すれば、法人の資本金に振り替えることも可能で、スムーズなスタートが切れます。

    税理士に事前相談して引継ぎ計画を立てる

    法人化は税務上も複雑な手続きを伴います。個人事業の決算と法人の設立をどのタイミングで行うか、資産・負債をどう引き継ぐかなど、専門的な判断が必要です。

    税理士に早めに相談し、元入金の状態を含めた引継ぎ計画を立てることで、リスクを最小化できます。特に債務超過状態にある場合は、法人化のタイミング自体を見直すべきケースもあります。

    実際に、私がサポートしたある製造業のクライアントは、当初予定していた法人化を1年延期し、その間に元入金を300万円プラスに転じさせました。結果、法人設立後すぐに日本政策金融公庫から500万円の融資を受けることができ、設備投資に成功しています。

    よくある質問(FAQ)

    Q1.事業主貸がゼロになることはありますか?

    口座を完全に分離し、事業用口座から一切プライベート支出をしなければ、事業主貸をゼロに保つことは理論上可能です。

    ただし、生活費は必ず必要なので、実務的には最小限の額に抑えることが現実的な目標となるでしょう。

    Q2.事業主借が多いと問題になりますか?

    事業主借自体は問題ありませんが、異常に多額だと「売上の計上漏れでは?」と税務署に疑われる可能性があります。

    適正な経理処理を心がけ、説明できる根拠を持つことが大切です。

    Q3.元入金がマイナスのまま確定申告しても大丈夫ですか?

    確定申告自体は可能です。

    でも、融資審査では大きなマイナス評価を受けます。また、法人化を検討している場合は、個人事業のうちに元入金をプラスに戻しておくべきです。

    Q4.事業主貸と事業主借は決算でどう処理されますか?

    決算時には自動的に相殺され、元入金に統合されます。

    翌年の元入金は、「前年の元入金+当期利益+事業主借−事業主貸」で計算されます。会計ソフトがこの処理を自動で行うため、手動での操作は不要です。

    Q5.クレジットカードで経費を払った場合、事業主借になりますか?

    個人名義のクレジットカードで事業経費を支払った場合、事業主借として処理します。

    事業用のクレジットカードを別途作成し、事業支出はそちらで決済することで、事業主借の発生を減らせます。

    まとめ:事業主貸を正しく管理して健全な財務基盤を作ろう

    この記事では、事業主貸を減らすための具体的な方法と、融資審査・税務調査で困らないための対策を解説しました。

    事業主貸は、個人事業主が事業資金をプライベートに使ったときの記録用勘定科目です。生活費を引き出す際に必ず使用する科目で、税額には影響しませんが、残高が膨らむと融資審査で大きな不利を受けます。

    今日から実践できる4つのアクション

    1. 事業用口座とプライベート口座を物理的に分離する
    2. 小規模企業共済・保険料の引き落としをプライベート口座に変更する
    3. 毎月末にクラウド会計ソフトで事業主貸残高をチェックする
    4. 法人化予定なら1年前から元入金をプラスに保つ計画を立てる

    事業主貸の処理に不安を感じる必要はありません。口座を分離して、月1回の生活費移動だけを事業主貸として処理する。これだけで、帳簿はシンプルになり、融資審査でも自信を持って臨めます。

    あなたの事業の未来を守るために、今日から口座の分離と定期的な残高チェックを始めましょう。財務基盤の健全化は、本業に集中するための土台となります。

    出典・参照元

    本記事は以下の情報源をもとに作成されています。

    ※記事内容は2025年10月25日時点の税制・法令に基づいています。税制改正等により内容が変更される場合がありますので、最新情報は国税庁または税理士にご確認ください。

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