フリーランスとして活動していると、クレジットカードの申し込みや住宅ローンの審査、賃貸契約などの際に「年収はいくらですか?」と聞かれることがあります。しかし、会社員とは異なり、フリーランスの「年収」は状況によって答え方が変わるため、多くの方が戸惑ってしまいます。
また、間違った年収を申告してしまうと、審査に通らなかったり、後でトラブルになったりする可能性があるため、フリーランスの年収は確定申告書の所得金額を基準とし、シーンに応じて適切に回答することが必須です。
クレジットカードやローンでは所得金額を、賃貸契約では手取りベースで答えます。虚偽申告は絶対に避け、正確な収入証明書類を準備することで審査通過率を高めることができます。
フリーランスの年収とは何か?基本的な考え方を理解する
フリーランスには「給与」の概念がない
会社員の場合、年収といえば給与所得を指しますが、フリーランスには「給与」という概念がありません。フリーランスの収入は事業所得として扱われ、売上から経費を差し引いた金額が所得となります。
このため、フリーランスが「年収」を答える際は、相手が何を求めているかを理解することが重要です。同じ「年収」という言葉でも、文脈によって指す金額が異なるためです。
年収の3つのパターン
フリーランスの年収には、主に以下の3つのパターンがあります。
売上全体を指すパターン(年商)
1年間の売上総額のことで、経費を差し引く前の金額です。事業の規模を表す指標として使われることが多く、「年商」とも呼ばれます。
経費を引いた収入を答えるパターン
売上から必要経費を差し引いた金額で、税務上の「所得」に相当します。多くの場合、「年収」として求められるのはこの金額です。
所得から税金も引いた手残りの所得を答えるパターン
所得から所得税や住民税、社会保険料を差し引いた実際の手取り金額です。会社員の手取り年収に近い概念です。
確定申告書で年収を確認する方法
フリーランスの年収は、確定申告書の内容で確認できます。確定申告書第一表の「所得金額等」の欄に記載されている「営業等」の金額が、一般的に年収として扱われる所得金額です。
青色申告を行っている場合は青色申告決算書、白色申告の場合は収支内訳書と合わせて確認することで、より詳細な収入構造を把握できます。
平均年収と計算方法
フリーランスの平均年収は約473万円とされています。ただし、業種や経験年数によって大きく異なるため、あくまで参考値として捉えましょう。
年収の計算は以下の式で行います:
- 税込年収 = 1年間の売上 – 売上原価 – 1年間の必要経費
- 手取り年収 = 税込年収 – 税金 – 社会保険料
CHECK
・フリーランスの年収は給与でなく事業所得で決まる
・年収は年商、所得、手取りの3種類に分かれる
・年収確認は確定申告書や決算書を基準にする
シーン別でのフリーランスの年収の正しい答え方
クレジットカード申し込み時の年収
クレジットカードの申し込みでは、「額面の年収」を求められることが一般的です。これは所得税や住民税を差し引く前の金額、つまり売上から経費を差し引いた所得金額を指します。
確定申告書第一表の「所得金額等」の「営業等」欄に記載された金額を回答すれば問題ありません。虚偽の申告は審査に悪影響を与えるため、正確な金額を記載することが重要です。
住宅ローン・各種ローン審査時の年収
住宅ローンやカードローンなどの審査では、「年間の売上から経費を差し引いた収入」を年収として申告します。これもクレジットカードと同様に、確定申告書の所得金額を基準とします。
金融機関によっては、過去2〜3年分の確定申告書の提出を求められることがあります。年収の安定性も審査の重要な要素となるため、複数年にわたって一定の収入を維持していることが有利になります。
賃貸契約時の年収
賃貸契約の際は、家賃の支払い能力を判断するため、手取りに近い実質的な年収を求められることが多いです。所得から税金を差し引いた後の金額、または手取り年収を基準として考えましょう。
不動産会社によって基準が異なる場合があるため、事前に確認することをおすすめします。また、収入証明書として確定申告書の控えの提出を求められることが一般的です。
保育園入園申請時の年収
保育園の入園申請では、世帯収入の合計を基に保育料が決定されます。この場合は所得税額を基準とした「課税所得」を用いることが多く、住民税課税証明書や所得証明書が必要になります。
自治体によって計算方法が異なるため、申請前に各自治体の規定を確認することが重要です。
CHECK
・クレカやローン審査では経費控除後の所得額を答える
・賃貸契約では税金控除後の手取り額を求められることが多い
・保育園申請は課税所得を基準に自治体規定を確認する
収入証明と手残りを増やす方法
フリーランスの収入証明書類
フリーランスは会社員と比べて与信が低く評価されがちですが、適切な収入証明書類を準備することで信頼性を高めることができます。
証明書類 | 用途 | 特徴 |
確定申告書控え | 各種審査、契約 | 最も一般的な収入証明 |
青色申告決算書控え | 詳細な収支確認 | 青色申告者のみ利用可能 |
納税証明書 | 税金の納付状況確認 | 税務署で発行 |
課税証明書・所得証明書 | 住民税関連の手続き | 市区町村で発行 |
支払調書 | 特定の取引先からの収入証明 | 支払者が発行 |
年収別の税金と手取り一覧
フリーランスの年収別の税金負担と手取り金額の目安を以下の表にまとめました。
年収(所得) | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 | 手取り概算 |
100万円 | 約2万円 | 約5万円 | 約15万円 | 約78万円 |
300万円 | 約10万円 | 約15万円 | 約45万円 | 約230万円 |
500万円 | 約25万円 | 約30万円 | 約75万円 | 約370万円 |
800万円 | 約65万円 | 約50万円 | 約120万円 | 約565万円 |
1000万円 | 約95万円 | 約65万円 | 約150万円 | 約690万円 |
1200万円 | 約135万円 | 約80万円 | 約180万円 | 約805万円 |
1500万円 | 約195万円 | 約105万円 | 約225万円 | 約975万円 |
2000万円 | 約295万円 | 約145万円 | 約300万円 | 約1260万円 |
※概算値であり、控除額や地域によって異なります。
手残りを増やすための節税方法
フリーランスは適切な節税対策により、手残りを増やすことができます。以下の方法を検討しましょう。
必要経費の適切な計上
事業に関連する支出を漏れなく経費として計上することで、課税所得を減らし節税効果を得られます。家賃や車両費の一部も事業利用分は経費として計上可能です。
各種控除の活用
基礎控除、社会保険料控除、生命保険料控除など、利用可能な控除を最大限活用することで税負担を軽減できます。
青色申告制度の利用
青色申告特別控除(最大65万円)を受けることで、大幅な節税効果が期待できます。また、青色事業専従者給与制度を活用すれば、家族への給与支払いを経費として計上できます。
マイクロ法人化とセーフティ共済
収入が一定額を超える場合、マイクロ法人の設立や小規模企業共済への加入により、さらなる節税効果を得られる可能性があります。
CHECK
・適切な収入証明書類を用意すれば与信評価を高められる
・年収別に税金負担と手取りの目安を把握しておく必要がある
・経費計上や控除活用で節税し手残りを増やす方法が有効になる
フリーランスが年収を聞かれた際は、相手が何を求めているかを理解し、適切な金額を回答することが重要です。クレジットカードや住宅ローンの申し込みでは確定申告書の所得金額を、賃貸契約では手取りに近い実質年収を基準とするなど、シーンに応じて使い分けましょう。
また、適切な収入証明書類を準備し、可能な節税対策を実施することで、フリーランスとしての信頼性向上と手残りの増加を図ることができます。正確な年収の把握と適切な申告により、スムーズな審査通過と安定した事業運営を実現しましょう。