節税目的の法人化は得か損か?マイクロ法人のリアルな維持コストと収益目安

サラリーマンの副業解禁や働き方改革の流れを受け、個人事業主として活動する方が増えています。そんな中、「節税のために法人化した方がいい」という話を耳にする機会も多いのではないでしょうか。今回は、マイクロ法人化による節税効果について、メリット・デメリットを含めて詳しく解説していきます。

マイクロ法人化は年間利益800万円超が目安です。その目安以下では維持コストと社会保険料の負担が重く、節税効果は相殺されます。事務負担も大きいため、安易な法人化は避け、個人事業主のままでの事業継続を基本とすべきです。

基礎知識。マイクロ法人とは

マイクロ法人の定義

マイクロ法人とは、個人事業主が法人化した小規模な会社を指します。具体的には、従業員がいない、または少数で運営される法人のことです。1人でも法人を設立・運営できる制度を活用した事業形態といえます。

メリットとデメリット

まず、法人化には大きな節税効果が期待できます。

法人税率が所得税率より低く設定されているため、節税が可能です。

また、経費計上の幅が広がるため、より多くの経費を経費として認められる点も魅力です。

次に、法人化することで社会的信用力が向上します。取引先からの信用度がアップし、融資を受けやすくなるなどのメリットがあります。

さらに、法人化によって経営者の個人財産が保護されます。法人の借金が個人に及びにくくなり、事業上のリスクを軽減できる点も重要なメリットです。

一方で、法人化にはいくつかのデメリットも存在します。

まず、事務負担が大幅に増加します。毎月の経理処理や各種届出書の提出、そして決算書の作成が必要となるため、事務作業が増えることは避けられません。

また、法人の維持にはコストが発生します。例えば、税理士費用は年間30万〜50万円程度かかるほか、登記費用や社会保険料の増加もあります。

さらに、法人化することで税務調査のリスクが増加します。個人事業主よりも税務調査を受けやすく、より厳密な経理処理が求められる点も考慮する必要があります。

節税のメカニズム

個人事業主の場合、所得税は累進課税で最高税率が45%に設定されており、住民税は約10%であるため、合計税率は最高で約55%となります。

一方、法人の場合は年間所得が800万円以下の法人税が15%に設定されており、住民税・事業税は約10%となるため、合計税率は約25%程度となります。

また、法人化すると、原則として社会保険への加入が必要となります。

これにより、健康保険料の増加、厚生年金保険料の負担、雇用保険料の発生が生じます。ただし、将来の年金受給額が増加するというメリットもあります。

維持コストの実態

法人設立時の費用としては、登記費用が15〜20万円かかり、定款認証料が約5万円程度、さらにその他の諸経費が5〜10万円ほど発生します。

そのほか、年間維持費用には、税理士顧問料が30〜50万円程度、社会保険料は年収に応じて変動し、また登記の更新費用は必要に応じて発生します。

さらに、経理ソフトの費用として数万円が必要となります。

CHECK

・少人数で運営される法人形態で、メリット・デメリットあり
・税率が最大55%から25%に下がり、大きな節税効果
・設立時と維持に多額の費用負担が必要

法人化の判断材料の収益性と注意点

法人成りが有利となる収入の目安

個人事業主として年間利益が500万円以下の場合、法人化の維持コストが負担となり、節税効果よりも経費の増加が上回るため、個人事業主の方が有利です。

一方、年間利益が500万円から1,000万円の範囲にある場合は判断が分かれるグレーゾーンとなり、諸条件によって決定が左右されるため、専門家への相談が推奨されます。

そして、年間利益が1,000万円以上の場合には、法人化が有利となります。法人化による節税効果が維持コストを上回り、さらに社会的信用度の向上という大きなメリットも得られるためです。

ペーパーカンパニーに関する注意点

法人化する際に違法となるケースには、実体のない会社を設立したり、架空の経費を計上したり、脱税を目的とした法人化が含まれます。

このような行為を避けるためには、事業実態を証明し、適切な帳簿管理を行い、定期的に収支が発生していることを証明する必要があります。

法人化の判断基準のまとめ

法人化の検討にあたっては、いくつかの重要な観点から慎重な判断が必要となります。まず注目すべきは収入規模です。

年間1,000万円以上の収入がある場合、もしくは近い将来にそのレベルまでの収入増加が見込める場合に、法人化は本格的な検討に値します。

また、事務処理体制の整備も重要な要素となります。経理業務への対応力や税理士との連携体制が整っているかを確認する必要があります。

さらに、法人維持に必要なコストや社会保険料などの固定費を継続的に負担できる資金的な余裕も不可欠です。

加えて、事業の将来性も重要な判断材料となります。持続的な収益が見込めるか、また事業拡大の可能性があるかを見極める必要があります。

法人化は単なる節税対策としてではなく、事業の成長戦略の一環として捉えることが重要で、特に年間利益が1,000万円を超えるケースでは、積極的な検討が推奨されます。

ただし、安易な判断での法人化は却って負担増につながる可能性があります。そのため、必ず税理士などの専門家に相談し、自身の事業状況に照らして慎重に判断することが賢明です。

CHECK

・年間利益に応じた法人化の判断基準と節税効果
・違法なペーパーカンパニー防止と適切な運営管理
・収入・体制・将来性を考慮した総合的な判断が必要

マイクロ法人化は、年間利益1,000万円以上で真剣な検討に値する選択肢です。税率が最大55%から25%に下がる節税効果が魅力ですが、維持費用や事務負担の増加も伴います。安易な判断は避け、収入規模、事務体制、将来性を総合的に判断し、専門家に相談した上で決定することが重要です。

法人化の分岐点!合同会社と株式会社、あなたの未来を左右する選択

フリーランスとして活動している方が法人化を検討する際、最初に悩むのが「合同会社」と「株式会社」のどちらを選ぶべきかという点です。法人化には節税や社会的信用の向上といったメリットがありますが、会社の形態によって設立費用や運営の仕組みが異なります。

本記事では、合同会社と株式会社の違いを比較し、それぞれに適したケースを解説します。自分の事業に最適な法人形態を選ぶための参考にしてください。

法人化を検討する際は、初期費用や運営の柔軟性を重視する場合は合同会社を、社会的信用や資金調達の可能性を優先する場合は株式会社を選ぶべきです。事業の規模や将来の展望を考え、最適な形態を選択しましょう。

フリーランスが法人化で得られるメリット

法人化することで、フリーランスには多くのメリットがあります。

節税効果が期待できる

フリーランスが法人化するメリットとして最も重要なのが「節税効果」です。個人事業主と比較して、法人化することでさまざまな税制上の優遇措置を活用できるようになります。法人化による節税効果は、主に以下の4つに分けることができます。それぞれの特徴を理解して、効率的な資金運用に役立てましょう。

【役員報酬を経費に計上できる】

フリーランスが法人化すると、自身を役員として給与(役員報酬)を支払うことができます。この役員報酬は法人の経費として計上でき、法人税の課税対象となる利益を減らせます。

【経費の幅が広がる】

個人事業主として認められにくい経費も、法人であれば計上しやすくなります。たとえば、接待交際費や福利厚生費などが該当します。

【長期間にわたって欠損金の繰越控除を受けられる】

法人は赤字(欠損金)を最大10年間繰り越すことができ、将来の黒字と相殺できます。個人事業主の場合は3年間のため、長期的な節税計画が立てやすくなります。

【消費税の納付を2年間免除される】

新設法人は設立から2期間、原則として消費税の納税義務が免除されます。これにより、事業開始時の資金繰りが楽になります。

社会的信用を獲得

法人化することで、取引先や金融機関からの信頼度が高まります。特に大企業との取引では、法人であることが取引条件になっているケースもあります。

有限責任にできる

株式会社も合同会社も有限責任制度を採用しているため、万が一事業が失敗しても、出資額以上の責任を負わなくて済みます。個人事業主の場合は無限責任であり、事業の債務に対して個人の財産まで責任を負うことになります。

決算期を選べる

法人は決算期を自由に設定できるため、繁忙期を避けて決算業務を行うことができます。

CHECK

・節税効果があり、役員報酬や経費計上の幅が広がる
・社会的信用が向上し、取引先や金融機関の信頼を得やすい
・責任が限定され、個人財産への影響を抑えられる

フリーランスが法人化するベストなタイミングは?

法人化のタイミングについては、以下のポイントを考慮すると良いでしょう

  • 年間の所得が300万円を超えてきた時
  • 将来的に事業拡大を考えている時
  • 大手企業との取引が増えてきた時
  • 複数人でのビジネス展開を視野に入れている時
  • 個人の資産を守る必要性を感じ始めた時

合同会社・株式会社どちらを選ぶべきか

株式会社がおすすめのケース

株式会社は、株式を発行して資本を集め、株主と経営者が分離可能な会社形態です。

おすすめのケース

  • 将来的に事業拡大や上場を目指している
  • 外部から資金調達をする予定がある
  • 社会的信用度を最大限に高めたい
  • 従業員を多く雇用する予定がある
  • 株式による事業承継を考えている

合同会社がおすすめのケース

合同会社は、2006年の会社法改正で導入された比較的新しい会社形態で、出資者(社員)が経営に参加する形態です。

おすすめのケース

  • 少人数での経営を予定している
  • 設立・運営コストを抑えたい
  • 経営の自由度を高く保ちたい
  • 当面は小規模での事業展開を考えている
  • 内部留保を増やしたい

株式会社と合同会社の特徴をまとめた表がこちらです。

株式会社合同会社
設立費用高コスト(登録免許税15万円など)比較的低コスト(登録免許税6万円など)
運営の柔軟性取締役会や株主総会など、法定の機関設置が必要で手続きが複雑出資者全員が業務執行権を持ち、意思決定が迅速
社会的信用度高い株式会社に比べるとやや低い
利益配分原則として出資比率に応じて配分出資比率に関係なく、自由に設定可能
資金調達株式発行により広く資金調達が可能出資者からの増資が主な手段
決算公告義務ありなし

設立ハードルの違い

株式会社と合同会社を設立する際には、手続きや費用面で大きな違いがあります。これらの違いは、特に創業初期の資金が限られているフリーランスや小規模事業者にとって重要な検討材料となります。

株式会社の設立には、公証人による定款認証が必須で約5万円の手数料がかかります。設立登記時には資本金の0.7%(最低15万円)の登録免許税が必要です。組織面では最低1名の取締役設置が義務付けられており、場合によっては取締役会や監査役の設置も検討する必要があります。

一方、合同会社は定款認証が不要で、その分約5万円のコスト削減になります。登録免許税も最低6万円と低額です。組織構造も「業務執行社員」の設置のみで十分なため、運営負担が軽減されます。

運用ハードルの違い

株式会社と合同会社は設立時のハードルだけでなく、設立後の運用面においても重要な違いがあります。長期的な事業運営を考える上で、これらの違いを理解しておくことは非常に重要です。

株式会社は年一度の株主総会開催が義務付けられ、議事録作成・保管も必要です。取締役会や監査役などの機関設置も可能ですが、運営コストが増加します。計算書類の公告義務があり、役員変更時には法務局での登記手続きが必要です。

合同会社は社員総会開催の法的義務がなく、出資者間の合意で意思決定できます。組織構造がシンプルで運営コストを抑えられます。多くの場合、計算書類の公告義務もありません。

業務執行社員変更時には登記手続きが必要ですが、通常は役員数が少ないため変更頻度も低くなります。

CHECK

・株式会社は株式発行で資金調達が可能で社会的信用度が高い
・合同会社は少人数経営に適し設立・運営コストが低く柔軟性が高い
・設立時の手続きと費用は株式会社が複雑高額、合同会社が簡素低額

会社形態を決めるときのポイント比較

会社形態を選ぶ際は、設立費用や運営のしやすさ、社会的信用度など、さまざまなポイントを考慮する必要があります。それぞれの違いを分かりやすく比較できるよう、ポイント別にまとめました。

ポイント株式会社合同会社
設立コスト高い低い
運営の柔軟性低い高い
社会的信用度高いやや低い
資金調達柔軟制限あり
利益配分出資比率に応じる自由
決算公告義務ありなし

編集部記者おすすめの選択

フリーランスからの法人化を考える場合、初期段階では合同会社がおすすめです。その理由は以下の通りです。

  1. コスト面のメリット:設立費用が安く、運営も比較的シンプルで、小規模事業者には負担が少ない
  2. 経営の自由度:意思決定が柔軟で、外部からの干渉が少ない
  3. 将来の選択肢:必要に応じて後から株式会社へ組織変更することも可能

ただし、以下のような場合は株式会社を検討されるべきでしょう。

  • 事業規模が大きく、対外的な信用が特に重要な場合
  • 将来的に上場や大規模な資金調達を視野に入れている場合
  • 複数の投資家から出資を募る予定がある場合

最終的には、ご自身のビジネスプランや将来展望に合わせて選択することが重要です。税理士や専門家に相談しながら、最適な選択をされることをお勧めします。

CHECK

・株式会社は資金調達しやすく社会的信用度が高い
・合同会社は設立・運営コストが低く柔軟性が高い
・事業規模や将来展望に応じた選択が重要

合同会社と株式会社はそれぞれ特徴が異なります。法人化により節税効果や社会的信用向上、有限責任化などのメリットが得られます。

株式会社は社会的信用が高く資金調達に有利ですが、合同会社は設立・運営コストが低く柔軟な経営が可能です。事業計画や将来ビジョンに合わせて、最適な会社形態を選ぶことが大切です。

フリーランスの節税につながる経費計上|具体例で経費にできる・できないの判断基準や注意点を解説

フリーランスは税金の手続き等も全て自分でしなくてはなりません。経費を上手に活用することで、節税に繋がるので経費はきちんと管理しましょう。

頑張って稼いだ収入から、できる限り税金で引かれる金額を減らすようにするのが節税対策で、フリーランスとして上手く対処したいところです。正しい知識と適切な対処法を知り、確定申告を節税のチャンスとして活用できると良いですね。

フリーランス活動にかかる税金の仕組み

フリーランスは個人事業主として、所得税、消費税、住民税、個人事業税などの税金を自分で管理・納税します。なかでも所得税は確定申告によって毎年申告が必要なものです。

所得税は、「年間の総収入から必要経費を差し引いた所得」に対して課税されるため、経費の管理が非常に重要になってきます。

収入から必要経費や各種控除を引いた課税所得に税金がかかる

所得税は稼いだ売上額ではなく、利益の額に対して課税されます。「総収入(売上)」「経費」「控除」「事業所得(利益)」それぞれの違いを理解することで上手く節税対策しましょう。

  • 総収入(売上)= 仕事の報酬で受け取る金額
  • 経費= 事業に関連する支出
  • 控除=基礎控除、扶養控除、医療費控除など
  • 事業所得(利益)= 収入-経費
  • 課税所得= 所得-所得控除

正しい経費計上で節税につながったり還付金が返ってくる

還付金とは、確定申告で必要よりも多くの税額を払っている場合に税務署から過剰分を払い戻しされることです。事業に関する経費を適切に計上することで課税所得が減り、過剰に支払った税金が還付されることがあります。

CHECK

・フリーランスは納税も自分で行わなければならない
・「総収入(売上)」「経費」「控除」「事業所得(利益)」の違いを理解しておこう
・正しい経費計上で節税につながったり還付金が返ってくる

フリーランスの経費の原則は業務上利用したものだけに適用される

なんでもかんでも経費に出来るわけではなく、業務に直接関連する支出のみ経費として扱えます。不適切な経費計上は税務署から指摘される可能性もあるため気を付けましょう。

売上や収入がなくても経費があるなら確定申告で計上可能

フリーランスの場合、売上や収入がなくても経費があれば確定申告で計上することができます。申告しておくことで、青色申告特別控除の適用など、将来的に利益が出たときにメリットを得られるためです。

フリーランスが計上できる勘定科目と経費になる例・ならない例一覧 

用途 科目 計上できる例計上できない例
事業関連外注費営業やマーケティング関連業務などの外注料金やライターやデザイナーへの報酬家事代行など業務とは無関係な代行
 広告宣伝費インターネット広告、チラシ広告、SNSやインフルエンサーとのコラボ費用や名刺作成費用など
 通信費事業用の電話代、インターネット代、モバイル通信費用家の固定回線など業務では使わないもの
 事務用品費事務所で使用する文房具や消耗品、コピー用紙などプライベートで利用するもの
 消耗品費電池、事務用品など業務で使うものプライベートで利用するもの
 接待交際費クライアントとの打ち合わせカフェ代や会食費、贈答品業務に関係ない飲食代
 交通費業務に関連する電車代やタクシー代、ガソリン代個人的な移動の交通費
 旅費交通費出張費用としての飛行機や新幹線、宿泊費用個人的な観光などの費用
オフィス関連家賃事務所/自宅兼事務所(家事按分が必要)
 光熱費事務所/自宅兼事務所(家事按分が必要)
 保険料事業用の損害保険や生命保険事業主自身の保険料
 設備投資パソコンやオフィス家具、カメラ機材など、事業に必要なものプライベートで利用するもの
 ソフトウェア費用業務で使用するソフトウェアの購入費用やサブスクリプション費用プライベートで利用するもの
人件費給与社員やアルバイトへの給与
 社会保険料雇用保険や健康保険、年金などの社会保険料
教育・研修関連研修費業務やスキルアップに関連する研修やセミナーの参加費用
 書籍費業務に役立つ書籍や資料購入代金個人の趣味で購入したもの

場合により経費にできる業種や職業によっても変わる費用の例一覧

  • ライター:取材での飲食代や、サービスの体験利用料など
  • フォトグラファー:カメラやレンズなどの購入費、撮影スタジオの利用料
  • デザイナー:デザインツールのソフトウェアライセンス料
  • Webデザイナー:サーバーレンタル費やクラウドサービス利用料

経費として計上できるかどうか迷いやすい費用の例

 項目計上できる場合計上できない場合
バッグ仕事で使うバッグプライベートで使うバッグ
手帳スケジュール管理など業務で使用しているもの日記など業務に関係なく使っているもの
スーツ取引先に訪問したり、業務内で着用する服仕事の際には着用しないプライベートのもの
タクシー代業務内での利用。行先やその目的など利用履歴を残しておくと良い休日の利用や旅行時などに利用したもの
車のガソリン代業務内での利用。行先やその目的など利用履歴を残しておくと良い休日の利用や旅行時などに利用したもの
カフェ取引先との打ち合わせや作業のための利用個人的な利用
保険料国民健康保険は計上できる自身の生命保険料は計上不可
病院の治療費なし治療費は一定額以上で「医療費控除」の対象

CHECK

・不適切な経費計上は税務署から指摘される可能性もある
・売上や収入がなくても経費があれば確定申告で計上できる
・業種や職種、状況によって経費として計上出来るものと出来ないものがある

個人事業主やフリーランスの経費は家事按分が可能

家事按分(かじあんぶん)とは、フリーランスが自宅で仕事をしている場合など、仕事とプライベートの両方で使っているものを仕事で使用している割合と家庭で使用している割合に分けて経費計上することです。

按分の計算方法としては、利用しているスペースの「面積」で計算する方法や、使っている「時間」の割合をもとに計算する方法があります。

自宅オフィスの場合は家賃や光熱費・通信費などの一部を経費に計上できる

フリーランスの家事按分経費の対象となるものの例は、家賃、水道光熱費、通信費、交際費、交通費などが挙げられます。それぞれ仕事で使用している割合と家庭で使用している割合に分けて経費として計上します。

家事按分の勘定科目と家事按分の仕訳の例 

①家賃を家事按分する場合の仕訳例

家賃10万円、床面積が100㎡の家のうち、25㎡の部屋をオフィスとして事業用で利用している場合

按分計算(面積):按分の割合は25÷100=25%

仕訳の入力方法

事業として使った分を「地代家賃」、プライベートとして使った分を「事業主貸」で記入

 日付借方貸方
地代家賃 25,000普通預金 100,000
 事業主貸 75,000

②インターネット代を家事按分する場合の仕訳例

1ヶ月のインターネット使用料が15,000円、毎月200時間仕事をしてネットを使っている場合

按分計算(時間):按分の割合は200÷720(1ケ月あたりの時間)=28%

仕訳の入力方法

勘定科目「通信費」と、プライベート分を「事業主貸」で記入

 日付借方貸方
通信費 4,200普通預金 15,000
 事業主貸 10,800

生活費を何でも経費にしてしまうと怪しまれて税務調査の対象に

経費として計上できるのはフリーランスとして売上をあげるために支出した費用のみです。私的な生活費や個人的な支出などなんでも経費で落とそうとすると税務署からの指摘を受けたり、ペナルティを課せられる可能性もありますので、十分に注意しましょう。

CHECK

・個人事業主の経費は家事按分が可能
・家賃、水道光熱費、通信費、交際費、交通費などを按分できる
・生活費のすべてを按分できるわけではないので注意

経費にできるかどうか迷ったときの判断基準

経費になるかならないかには、はっきりとした線引きがなくあいまいです。フリーランスが経費として計上できるかどうか迷った場合、以下の判断基準を参考にすると良いでしょう。

事業との関連性があるか

業務上必要なパソコンソフトやツール、電話や、デザイナーの場合はデザインツールなど、それがないと仕事ができないものかどうか、で判断します。

個人的な支出ではないか

フリーランスの場合、どこまでが経費でどこまでがプライベートか迷うことが多くあります。自宅オフィスなどプライベートと共通して使っている場合は按分して経費計算をします。

家族の旅行代や個人の趣味の買い物などはくれぐれも計上してはいけません。

経費として常識の範囲内の金額であるであるか

事業規模に対して適切な割合かどうか、という視点も重要です。大量の備品購入や高級車の利用など、過剰な支出は避けましょう。

税務署から指摘を受けた際に説明できるか

経費として計上するためには領収書、請求書、振込明細書など証拠として示せる書類が必要です。税務署から指摘を受けた際に、それらの経費が事業に関連していることを説明できるようにしておきます。

経費の割合が50%を超えないか

フリーランスの売上に対する経費の割合は50%前後が目安です。上限が定められているわけではありませんが、経費の割合が高過ぎると税務からの調査が入る恐れがあります。

CHECK

・経費にできるかどうかの明確な基準は定められていない
・事業を行うに必要な支出かどうかで判断する
・フリーランスの売上に対する経費の割合は50%前後が目安

経費の領収書の取り扱い方法

領収書は経費として支出をした証明をするために欠かせない書類であり、税務署から決められたルールに基づいて管理をしなければなりません。

領収書は7年間保存が義務に

個人事業主の場合、領収書の保管期限は原則7年間と定められています。紙と電子のそれぞれ、なくさない保管方法で保存しておき、税務署から求められた際にいつでも開示できるようにしておきます。

領収書を紛失した際は出金伝票を用意しておく

領収書が見当たらなくなった場合は、代替証拠となるものをそろえる必要があります。その際に使えるのが出金伝票です。

出金伝票とは取引に関連する支払内容を記録する書類で、領収書が発行されない取引の際に使われるものですが、領収書の代わりとして使うこともできます。

あくまで領収書やレシートがない場合の代替方法なので、多用は避けましょう。

経費計算アプリでこまめに電子データで管理をしておく

会計ソフトのアプリや経費管理アプリを使うと、電子取引データの自動取り込みやレシートのスキャン機能を使い経費データの管理を手軽に行うことができます。ツールを活用して効率的に経費処理が出来て便利です。

CHECK

・領収書は経費として支出をした証明をする大切な書類
・経費の領収書は7年間保存する義務がある
・経費計算アプリを活用してうまくデータ管理を行おう

フリーランスが経費を計上する際の注意点

フリーランスが経費を計上する際に注意することとしては、まずプライベートとの線引きが大きなポイントになります。

自宅オフィスやインターネット料金は按分して業務利用分のみを経費として計上しましょう。

電子取引の領収書やレシートは電子データのまま保存

紙での領収書だけでなく、近年では電子領収書としてPDFファイルや画像データで領収書を受け取ることも多くなっています。

電子領収書が改ざんされていないことを証明するために、受け取った電子領収書はそのままのかたちで保存が必要です。

経費計上に誤りがあり脱税とみなされると重いペナルティに

申告漏れや不正確な申告をしたとみなされた場合はペナルティが課されます。

過少申告加算税

税額を納めるべき金額よりも過少に申告したと判断された場合にその差額に対して課される追加の税金。

重加算税

”故意に”税額を少なく申告した場合に課される税金。過少申告加算税よりも高い税率が課されます。

経費・確定申告など税務に関する相談は迷わず税理士へ

フリーランスだからと言って経費処理や確定申告をすべて自分でしなければならない訳ではありません。大きなトラブルを防止するために、不安なことや分からないことがあれば税理士に相談すると良いでしょう。

CHECK

・フリーランスが経費を計上する際にはプライベートとの線引きがポイント
・電子取引の領収書やレシートは電子データのまま保存する
・わからないことは気軽に税理士に相談しよう

フリーランスが事業をうまく回すためには経費のポイントをしっかり押さておくことが非常に大切です。どこまでが経費の対象になるのか、家事按分の割合など、あとから指摘を受けることがないようにうまく管理して計上しましょう。

フリーランスの会計処理を効率化|経費管理・確定申告・節税対策に役立つクレジットカードの選び方

フリーランスとして独立すると決めたらまず作っておきたいのがクレジットカード。独立後ではなく独立前の準備段階で作ってしまいましょう。

独立前にこそフリーランスはクレジットカードを作るべき

開業準備時にはさまざまなものが必要になります。オフィスを借りる、家具や備品を購入するなど、物を買う機会が出てくる独立前にこそ、クレジットカードを作っておくとポイント利用ができて経費削減につながります。確定申告をしようと思ったら開業時の領収書が見つからないといったことにならないように、独立前に1枚はクレジットカードを作っておいた方がよいでしょう。

プライベートで使うクレジットカードと事業用に使うクレジットカードは別々にするのがおすすめです。事業用のクレジットカードを独立して持つことで、ビジネスにまつわる会計処理がぐっと楽になりますよ!

フリーランスがクレジットカードを使う理由

フリーランスとして事業用クレジットカードを作るべき理由は多くあります。プライベート用と事業用でカードを分けることで、経費の管理や確定申告などの会計処理がスムーズになるのが大きなメリットです。

経費管理の効率化

収支を管理するために使われている会計ソフトには、クレジットカードとの連携機能があります。カード支払いを行った際に自動でデータが蓄積されるため、領収書をもらって会計ソフトに手入力する手間を省くことが出来ます。

確定申告の手続き簡素化

確定申告をスムーズに行うには、日々の収支の記録をいかにわかりやすくまとめているかが重要です。会計ソフトとクレジットカードを連携させて取引明細を自動処理することで、確定申告の書類作成が楽になります。

節税対策(年会費の経費計上、ポイント還元)

事業用クレジットカードの年会費は「支払手数料」として経費計上できます。また、事業に関連する支払いは大きな額のものも多くポイントがたまりやすくなります。貯めたポイントを交換したりキャッシュバックしながら経費節減につなげましょう。

ビジネスに役立つ特典の利用

法人用のクレジットカードにはビジネスシーンを応援するサービスが充実しています。チケット優待サービス、空港ラウンジ利用、会計ソフトの料金優遇、福利厚生サービスの優待利用など、カードごとにさまざまな特典があるので比較検討してみましょう。

キャッシュフローの改善

法人用のクレジットカードは個人向けのクレジットカードと比べて利用限度額が高く設定されており資金繰りに役立ちます。また、カード利用日から実際の支払いまで時間のゆとりがあるので、キャッシュフローをコントロールしやすいのもメリットです。クレジットカードでの支払い設定をすることで、家賃、光熱費、税金などバラバラな経費の支払日も固定化することが出来、支払いの見通しを立てやすくなります。

CHECK

独立準備段階でクレジットカードを作っておくのがおすすめ
ビジネス用のクレジットカードを作ることで経費管理や確定申告の手続きが楽になります
法人カードによってはビジネスシーンに役立つ特典があるので要チェック

フリーランスはビジネスカードを必ずしも選ばなくても良い

クレジットカードには「個人カード」と「法人カード(ビジネスカード)」の2種類が存在します。法人カードは経営者の信用情報に加え、法人としての信用力も審査対象となります。

個人事業主として持っておきたいクレジットカードとしては個人用でも法人用でもどちらでも問題ありません。クレジットカードを使う目的を整理して、ポイントを絞って自分に合ったカードを選びましょう。

フリーランスがクレジットカードを選ぶポイント

クレジットカードを作る際には、次の項目をチェックしながら自分に合ったカードを選ぶことが大切です。

  • 年会費
  • 利用限度額
  • 付帯サービス
  • ポイント還元率
  • 飲食店などの割引サービス

独立したばかりの場合は、年会費無料のカードから始めるのが無難です。事業用の経費が高額になる場合は利用限度額が高いもの、経費削減を意識したい場合はポイント還元率の良いものを選びましょう。

年会費無料のおすすめカード

楽天カード

年会費が永年無料で、楽天市場などの楽天グループでのサービスで利用すると高い還元率でポイントが貯まります。

ポイント高還元のクレジットカード

PayPayカード

最大1.5%のポイント還元を狙える、特典でもらえるポイントが多い、公共料金の支払いでもポイントが貯まる、無期限でポイントを利用できるといったポイントの使いやすさが魅力のカード。

リクルートカード

常時還元率が1.2%と高還元率でポイントがすぐ貯まる、貯まったポイントがPonta・dポイントに即時交換できるところが人気のカード。

旅行保険が充実したカード

エポスカード

取材などで出張が多い人は是非考慮したい旅行保険付きのクレジットカード。海外旅行保険の利用付帯、手厚い補償内容、エポスカード海外サポートデスクが世界各国にありトラブル時も現地で日本語対応が可能です。

付帯サービスがあるカード

クレジットカードの付帯サービスには様々なものがあります。自分の利用シーンに合った特典がついているカードを選びましょう。

特典例

  • ショッピング割引や特典
  • 人気のホテルや旅館にお得に宿泊
  • 空港ラウンジの無料利用
  • 航空マイルやポイントプログラム
  • 割引やキャッシュバック
  • 各種保険

経費管理機能があるカード 

日々の帳簿や確定申告の手続きを楽にしたい場合は、会計ソフト会社が出しているクレジットカードがおすすめ。会計ソフトとのスムーズな連携により、経理の処理にかかる時間を大幅に削減できるだけでなく、年会費・発行手数料無料、開業直後のカード発行可能など使いやすいポイントが詰まっています。

freeeカード Unlimited

マネーフォワード ビジネスカード

分割払いやリボ払いの選択があるカード

分割払い(利用金額の支払回数を指定して支払う方式)やリボ払い(設定した一定の金額を毎月支払う方式)をする可能性があるのであれば、条件や手数料をきちんと確認してカードを選びましょう。リボ払い専用カードというのもあります。

CHECK

クレジットカードには個人用カードと法人用カードがある
法人用カード(ビジネスカード)はビジネスに特化した特典がついている
年会費やポイント還元率などを比較し自身のビジネスサイズに合ったカードを選ぼう

フリーランス向けビジネスにも使えるクレジットカード

法人向けのビジネスカードの大きな魅力は利用限度額が大きいところ。事業用のクレジットカードを作った場合、フリーランス運営に関わるあらゆる経費を支払うことになるのでクレジットカードの利用限度額が大きいほうが安心です。

限度額だけでなく、ビジネスシーンに役立つ特典や優待サービスが多くあるのがビジネスカードの特徴なので、ご自身のビジネス規模や支払いサイクルに合わせて検討しましょう。

三井住友カード ビジネスオーナーズ

スタートアップ企業や副業・フリーランス向けの法人カード。申込時の登記簿謄本などの書類提出が不要で気軽に作りやすい法人カードです。東海道新幹線のネット予約&チケットレスサービスや福利厚生代行サービスなど付帯サービスも充実しています。スタートアップ企業や副業・フリーランス向けの法人カード。申込時の登記簿謄本などの書類提出が不要で気軽に作りやすい法人カードです。東海道新幹線のネット予約&チケットレスサービスや福利厚生代行サービスなど付帯サービスも充実しています。

JCB CARD Biz

個人事業主特化型JCBカード。インターネットで申し込み完結でき、法人カードにも関わらず個人与信なので本人確認書類のみで申請可能です。フリーランスがひとりで使う法人カードとして人気があります。

楽天カード

楽天プレミアムカードの特典に加え、接待・出張・オフィス環境の充実・ビジネスツールなどに使える多彩なサービスが利用可能。ETCカードを複数枚作れるところも魅力です。

セゾンコバルト・アメリカン・エキスプレスカード

個人事業主やスタートアップ企業のために特化した法人カードで、登記簿謄本などの提出不要で開業前でも気軽に申し込めます。レンタルサーバーやクラウドサービスの優待利用などビジネスに特化した特典があります。

オリコ EX Gold for Biz S

フリーランスなど個人事業主向けのオリコ法人カードです。オリコの証書貸付やローンカードの金利が優遇されるサービスがある他、freee会計の有料プランが3ヶ月分お得になります。


フリーランスのクレジットカードに関するFAQ

申し込むカードが決まった後、実際にカードの申し込みをした後によく出てくる疑問への答えをまとめました。

申込時の職業・勤務先はどのように書くべき?

職業欄には「屋号」、勤務先欄には「就業している場所の住所」を記入します。屋号がない場合は個人名や個人事業主と記載することも可能ですが、一般的に屋号がある方が信用度が上がると言われています。

審査に落ちた場合はどうするべき?

すぐにクレジットを使う必要がない場合は、数ヶ月期間を空けてから再度申し込んでみましょう。収入や実績が向上していれば再審査で通る可能性があります。

すぐにでも使いたい場合はクレジットカードではなくデビットカードの検討がおすすめです。デビットカードとは利用と同時に引き落とし口座から利用代金が引き落とされるもので、与信審査がなく作りやすいのがメリットです。

フリーランスは複数枚持つべき?

1人で事業を行っている限り、ビジネス用のクレジットカードは1枚で十分です。カードごとに異なるさまざまな特典や優待サービスを受けたい場合はプライベート用のカードとして契約しましょう。

法人化して社員を雇用する場合は、法人カードのサービス内の追加カードとして社員用に新たにカードを追加できます。

キャッシング機能はつけるべき?

フリーランスがクレジットカードを使う大きな目的は資金調達と会計処理の効率化です。

分割やリボ払いと同じようにキャッシング機能は手数料もかかるため積極的な活用はおすすめしません。

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登記簿謄本などの提出不要で本人確認のみでつくれるビジネスカードはフリーランスでも作りやすくておすすめ
分割払い、リボ払い、キャッシング機能など手数料がかさむサービスは極力使わない
クレジットカードの審査が通らなかった場合はデビットカードも選択肢に

個人事業主やフリーランスに特化したビジネスカードがあるほど、フリーランスにとって必要不可欠なクレジットカード。ビジネスを加速させ、効率化アップをさせてくれる頼もしい存在です。

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