知らないと損する?電子帳簿保存法の保存義務、フリーランスが取るべき対応とは

2023年10月にはインボイス制度の開始、2024年1月には電子帳簿保存法の義務化、そして2024年10月にはフリーランス新法の施行など、ここ数年、フリーランスを取り巻く制度が次々と整備されています。

こうした目まぐるしい変化は、自由な働き方を支える一方で、各制度への理解や実務対応をフリーランスにも強く求めるシーンも増えています。特に「電子取引データの保存義務」は、対応が遅れがちにもかかわらず、見落とせない義務の1つです。

この記事では、「電子取引における保存ってなに?」「結局、自分に何が必要なの?」といった疑問に答えながら、フリーランスがやるべきことや対応のコツについて、わかりやすく解説します。

電子取引におけるデータ保存義務って何?

電子取引における「データ保存義務」とは、請求書や領収書などをメールやWebでやりとりした場合に、そのデータを電子のまま保存しなければならないというルールです。これは、2022年の電子帳簿保存法改正により義務化され、2024年1月から本格的に運用が始まりました。

紙に印刷して保存する方法は認められないため、対象者はデータのまま保存する必要があります。取引の電子化が進む中で、税務調査への対応を効率化する目的で制定されました。データ保存義務に違反した場合、罰則もあります

ここでは、フリーランスならおさえておきたい、データ保存義務の対象者や違反した場合の罰則について見ていきましょう。

データ保存義務はフリーランスも対象?

請求書や領収書をメールやWebで受け取っているなら、フリーランスでも電子取引の保存義務が発生します。「個人だから関係ない」と思っていると、実は対象だった…なんてケースも少なくありません。

違反すると、青色申告の取り消しや加算税などのリスクもあるため、油断は禁物です。まずは、自分が対象かどうかをしっかり確認しておきましょう。

データ保存義務に違反するとどうなる?

電子取引データの保存を怠ると、税務署に注意されるどころでは済みません。最悪の場合、青色申告の取消や経費の否認、重加算税の対象になるなど、フリーランスにとって大きな痛手となる可能性があります。

たとえば、データ保存が不十分だと、「帳簿が信頼できない」と判断され、推計課税の対象になります。経費計上も認められず、実際より多くの税金を支払うハメになるケースもあるでしょう。

さらに、悪質だとみなされれば、重加算税(最大50%上乗せ)の適用もあります。つまり、保存ミス1つが数十万円〜百万円単位の損失につながるリスクがあるということです。

「データ保存ぐらい、あとでやればいいや」と放置してしまうと、税務調査で一気に不利になるかもしれません。

そのため、日頃から適切に保存・管理することが、自分の身を守る一番の対策になります。

CHECK

・フリーランスも対象になる可能性がある
・違反すると、重い税務リスクにつながる
・日頃から適切に保存・管理する必要がある

データ保存義務の実態は?

電子帳簿保存法の義務化により、多くの企業や個人が対応を進めていますが、現場では「手間が増えた」「複雑で分かりにくい」といった声も少なくありません。

ここでは、実際の対応状況や現場のリアルな声をもとに、データ保存義務の「今」を見ていきましょう。

多くの人や企業が負担を感じている

電子帳簿保存法の義務化により、多くの企業が対応を進める一方で、実務面での負担感も無視できません。たとえば、リコージャパンの調査によると、全国の中堅・中小企業のうち86%がすでに対応を進めているものの、93%が「業務効率化が必要」と回答しています

また、Sansan株式会社の調査では、経理担当者は月4.5時間、非経理担当者も月4.1時間の業務増という結果が出ており、導入後の作業負担が深刻化していることがわかります。

実際、ネットでも「電子取引のチェックが4つも増えて地獄のようだ」「システムに自動取り込みしてほしい」といった声が散見されており、現場では対応して終わりでは済まない状況です。

フリーランスの場合も、請求書や領収書のやり取りがメールやチャットなどで完結するケースが多いため、対象になっている可能性は十分にあります。

そのため、対応を後回しにするのではなく、「どのようなデータを、どのように保存すればいいか」を今のうちに確認しておくことが大切です。

参照:
電帳法対応に関する調査を実施、93%の企業が「業務効率化が必要」と回答 | リコーグループ 企業・IR | リコー

Sansan、「電子帳簿保存法に関する実態調査」を実施〜電帳法対応で、経理担当者の業務が一人あたり月4.5時間増加。紙と電子の混在による業務負担増が明らかに〜 | Sansan株式会社

CHECK

・義務化が進む一方で、現場では作業負担が増加
・多くの人や企業が業務効率化の必要性を感じているのが現状
・対応を後回しにせず、今のうちに準備を始めることが大切

フリーランスは具体的に何をすればいい?

電子取引データの保存義務があるとわかっても、実際に何をすればいいのか分からないというフリーランスもいるのではないでしょうか。

ここでは、フリーランスが最低限やっておくべき対応について、簡潔に紹介します。

より詳細な実践方法については、以下の記事も参考にしてください。

インボイス登録した課税事業者の場合は?

インボイス制度に登録した課税事業者の場合、電子取引データの保存義務に加えて、保存対象となるデータの範囲や形式にも注意が必要です。

たとえば、仕入税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)をデータで保存し、その形式や検索性などが要件を満たしている必要があります。

保存すべきデータって?

電子帳簿保存法では、請求書や領収書、契約書、見積書など、従来紙で保存していた書類に相当する電子データを保存する必要があります。

具体的には、メールやWeb上で受け取った請求書・領収書、ECサイトでの購入履歴、クラウドサービスからのダウンロードデータなどが該当します。

これらのデータは、受け取った場合だけでなく、送信した場合も保存対象となります。保存形式は問いません。PDFやスクリーンショットでも問題ないでしょう。

参照:電子取引データ|国税庁

保存方法は?どうやってやればいいの?

電子取引データは、改ざん防止のためのいずれかの措置を講じて保存する必要があります。具体的には、以下の方法のいずれかで対応可能です。

  • タイムスタンプを付けて保存する
  • 訂正・削除の履歴が残るクラウドサービスなどで保存する
  • 改ざん防止に関する事務処理規程を整備し、その手順に沿って保存する

また、「日付・金額・取引先」で検索できるようにしておくことも求められています。専用システムがなくても、ファイル名を統一ルールで付ける、Excelで索引簿を作成するといった方法で対応可能です。

税務調査などでデータを提示できるよう、モニターやプリンターの準備も必要です。対応を後回しにせず、今のうちに保存方法を見直しておきましょう。

参照:電子取引データ|国税庁

どんなツールが便利?選び方は?

電子取引データの保存には、改ざん防止や検索性の確保といった要件を満たす必要があります。これらの条件をクリアするためには、電子帳簿保存法に対応したクラウド会計ソフトや請求書管理ツールを活用するのが有効です。

たとえば、freeeやマネーフォワードなどの主要な会計ソフトは、タイムスタンプの付与や訂正削除履歴の保存、検索機能の確保に対応しています。導入にあたっては、ツールが「電子帳簿保存法対応」と明記されているかを確認することが重要です。

対応の手順としては、まず自社の取引形式を整理し、必要な保存機能を明確にしたうえで、対応可能なツールを選定する流れが基本となります。複数のサービスを併用している場合は、保存場所やファイル名のルールを統一することで、業務の属人化や検索漏れのリスクを防ぐことが可能です。

CHECK

・対象となる保存データを把握する
・正しい保存方法を選定する
・自分に合ったツールを導入する

フリーランスが保存時に気をつけるべきことは?

電子取引データの保存には、いくつかのルールや注意点があります。ここでは、フリーランスがとくに意識すべきポイントを3つに分けて紹介します。

改ざん防止の要件

電子取引データは、タイムスタンプを付けて保存するか、訂正・削除の履歴が残るシステムで保存する必要があります。事務処理規程を作成・運用する方法でも対応可能です。

検索性の確保

保存したデータは「日付・金額・取引先」で検索できるようにしておくことが求められます。前述したクラウド会計ソフトなど、対応機能を備えたツールを活用すると便利です。

紙での保存との違い

電子で受け取ったデータを、印刷して保存するだけではNGです。紙で受け取った書類は、紙保存でも問題ありませんが、スキャンして電子保存する方法も認められる場合があります。

CHECK

・タイムスタンプや履歴機能で改ざん防止に対応する
・「日付・金額・取引先」で検索できるように整理する
・電子で受け取ったものは電子のまま保存する必要がある

めんどくさいけど…やらなかったらどうなる?

電子取引データの保存は、「やっていないからすぐに罰則を受ける」という性質のものではありません。しかし、対応を後回しにしていたことが、税務調査の場面で思わぬリスクとして跳ね返ってくる可能性があります。

ここでは、保存義務を行った際の税務調査・経費否認リスクなどについて解説します。

税務調査で「帳簿の信頼性」が疑われる

税務調査では、帳簿や領収書、請求書の保存状況が厳しくチェックされます。

とくに、電子取引に関するデータについては、「紙に印刷して保管しているだけ」「改ざん防止措置が取られていない」といった状態では、帳簿の信頼性に欠けると判断されるリスクがあります。

このように判断された場合、調査官から「本来の取引内容が正確に記録されていない」とされ、経費としての否認や推計課税といった不利益な対応につながる可能性があるでしょう。

経費として否認されるケースもある

電子取引に関する保存要件を満たしていないと、たとえ実際に事業のために支出した費用であっても、「証拠不十分」として経費として認められないケースがあります

たとえば、クラウドサービスで取得した請求書をPDFで保存していたものの、タイムスタンプも履歴も残っていなかった場合、「このデータは改ざんされていないと証明できない」と判断され、経費から除外されるおそれがあります

特にフリーランスの場合、1つひとつの経費が事業利益に直結するため、少額の否認でも税額に大きな影響が出る可能性があるでしょう。

帳簿全体の否認=加算税リスクの引き金になる可能性がある

一部のデータ保存の不備がきっかけとなり、帳簿全体の信頼性が疑われると、さらに大きな税務リスクが発生します。

たとえば、保存が不十分な取引が複数見つかった場合、「意図的な隠ぺいまたは仮装」とみなされ、重加算税(本来の税額に最大50%上乗せ)の対象になる可能性もあります

つまり、保存方法1つのミスが、帳簿全体の信頼を揺るがす要因となりかねないため、注意しましょう。

CHECK

・帳簿の信頼性が疑われる可能性がある
・経費として否認される恐れがある
・帳簿全体が加算税対象になるリスクがある

めんどうな保管、ちょっとでもラクにするには?

電子帳簿保存法への対応が求められるなか、どのようにすれば効率よく保存できるか、頭を悩ませているフリーランスも少なくありません。「すべてデータで残せばいいのでは?」と考え、領収書や請求書をまるごとデータ管理するフリーランスも見られます。

こうしたデータ管理の手段としては、会計ソフトの活用が代表的です。たとえば、会計ソフトに連携することで、クラウド上に取引情報を一元管理し、紙での管理を最小限に抑えるケースなどがその一例として挙げられます。

すべての取引を電子化する必要はありませんが、「データで受け取れるものは電子で受け取り、紙の場合もすぐにスキャンする」といった対応を意識することで、保存漏れや手続き忘れのリスクを大幅に減らすことができます。

ここでは、保存をスムーズにするための工夫について、具体的に見ていきましょう。

そもそも電子化された状態で受け取る

保存の手間を減らすには、受け取る時点ですでにデータ化されていることが重要なポイントになります。

たとえば、取引先から届く請求書や契約書がPDFなどの形式で送られてくれば、社内でスキャンや変換をする必要もなく、そのまま保存要件に沿った対応がしやすくなります。

もちろん、すべての取引が電子化されている必要はありません。郵送などで届いた紙の書類でも、受領後すぐにスキャンしてデータとして保管すれば、対応可能です。

受け取る書類をなるべく電子化しておくことで、支払い漏れや保存漏れといった業務上のリスクも最小限に抑えることができます。

現場で迷わないためのルールを作る

業務を効率的に進めるには、「何をどう保存するか」の判断基準を明文化しておくことが効果的です。

たとえば、「FAXで届いた書類はすべて自動でPDF化する」「契約書は可能な限り電子締結を推奨する」といったルールを設定しておけば、書類ごとの対応をその都度判断する必要がなくなります。

さらに、「紙での保存が必要なものには『紙保存』と記載したシールを貼り、保管場所を統一する」といった具体策を講じることで、担当者間での認識のズレを防ぐことも可能です。

ルールが整備されていれば、フリーランス本人だけでなく、将来的にチームで作業する場面でも、情報の取り扱いがブレなくなるため、対応が進めやすくなります。

CHECK

・会計ソフトなどでデータ管理を効率化
・書類は受領時点で電子化しておくと便利
・保存ルールを明文化すれば、迷わず対応可能に

まだまだ課題やグレーゾーンもたくさん…

実務の現場では、電子帳簿保存法への対応に関してさまざまな課題やグレーゾーンが存在しています。ここでは、現場でよく挙がる具体的な課題と、今後の展望についてチェックしていきましょう。

紙書類と電子取引データが混在している

現場では、郵送で届く紙の請求書とPDFの電子データが混在し、整理が難しいという声が多く聞かれます。

特に税務関連では、同じ内容が紙と電子の両方で届くこともあるため、「どちらを保存すべきか」「重複しないようにどう管理するか」といった悩みも多い傾向です。

また、制度が過渡期にある中、「すべてを電子で管理するのは現実的に難しい」という声も少なくありません。高齢の事業者やITに不慣れな層では対応が困難な場面も多く、超高齢化が進んでいる日本において、スキル格差や負担感の大きさが課題になっています。

会計ソフトの導入・運用が進まない

また、会計ソフトの導入や運用に関しても、コストや操作性の問題から導入が進まないケースもあります。これらの課題に対して、税理士や専門家の意見を参考にしながら、適切な対応策を検討することが求められています。

明確なガイドラインがない

たとえば、取引メールの本文やSNSのDMなど、正式な書類以外のやり取りが保存対象となるかどうかについては、明確なガイドラインがないため、対応に苦慮している事業者も多いようです。

「電子帳簿保存法の対策セミナーでも、取引メールの保存範囲が十分に説明されていない」といった声もあり、たとえば売上計上に関係するやり取りを削除していた場合には、帳簿不備とみなされ重加算税のリスクが高まるという懸念も出ています。

しかし、実際には「DMやメールをすべて保存するのは現実的でない」という声も多く、「どこまで保存すれば十分か」という基準の不明確さが、現場の混乱を招いています。

現場や専門家の声から見る、今後の電子帳簿保存法

電子帳簿保存法への対応は、制度の整備だけでなく、現場のIT環境や業務の変化にも密接に関わっています。税理士や経理担当者、会計ソフト企業など、さまざまな立場の声からも、今後の方向性が少しずつ見えてきています。

たとえば、会計ソフト「freee」では、インボイス番号を自動で読み取り、事業者情報を検索・表示できる機能が実装されるなど、保存の“手間”を減らす自動化の流れが加速しています。

また、税理士の中からは「これからは税務もデジタル化に強くないと対応できない時代が来る」との声もあり、電子帳簿保存法は単なる「保存義務」ではなく、業務全体のデジタル対応の一環と捉える視点が広がっています。

一方、実務では「メールで請求書を受け取って印刷保存しているが、将来的にNGになるのでは?」という不安の声も散見されます。現時点では認められている対応でも、将来的なルール変更やガイドラインの見直しがある可能性は否定できません。

このように、現場や専門家のリアルな声からも、「効率化」と「ルールの明確化」への期待と課題が交錯しており、今後の動向を注視していく必要がありそうです。

令和7年度税制改正で見直しの方針も明示されている

2024年(令和6年)7月に公開された「令和7年度税制改正の大綱」では、電子取引における電磁的記録の保存制度に関する見直しが正式に盛り込まれました。これは、今後の電子帳簿保存法の運用に大きな影響を与える可能性があります。

たとえば、重加算税の加重措置に関しては、保存要件を満たした「特定電磁的記録」については対象外とする方向で見直しが進められています。この「特定電磁的記録」には、訂正・削除の履歴が確認できるシステムで保存されたデータや、帳簿との相互関連性が確保されているデータなどが該当します。

さらに、青色申告特別控除(65万円)の適用要件についても、帳簿の電磁的保存だけでなく、こうした一定のシステム要件を満たした電子保存をしていれば要件を満たすとする方向での緩和が予定されています。

これらの改正案は、2027年(令和9年)以降に適用が開始される見通しです。中小企業やフリーランスにとっては、ツールやシステムの整備によって、より実務に即した柔軟な運用が可能になることが期待されています。

CHECK

・紙と電子の混在やIT格差が混乱を招いている
・会計ソフト導入や保存範囲の判断が難しい
・令和7年度改正で制度の見直しが進められている

電子帳簿保存法は、私たちフリーランスにとって決して他人事ではありません。

インボイス制度、フリーランス新法、そして電子帳簿保存法の義務化…。制度が次々と変わる中で、何をどうすればいいのか分からず、後回しにしてしまっている人も多いのではないでしょうか。

しかし、電子帳簿保存法は、私たちフリーランスにとって、税務上のリスクから身を守るための「備え」です。

難しく感じるからこそ、「まずはここから」という入り口を見つけて、1つずつ整えていくことが大切です。最初は完璧じゃなくても問題ありません。少しずつ対応を始めておくことで、後々のリスクを防ぐことができます。

また、義務だからといやいや対応するのではなく、仕組みを理解し、自分の仕事のスタイルに合った方法でコツコツ整えていくことで、将来のトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。

ただ言われるがままに従うのではなく、制度の内容を正しく知り、自分自身で考えて選ぶ姿勢こそが、これからのフリーランスにはますます求められるのではないでしょうか。

フリーランス新法のリアルを調査!トラブル回避のために知っておきたいことを解説

フリーランスとして働くうえで、突然の報酬未払いや一方的な契約解除などのトラブルに遭遇した経験がある人は、決して珍しくありません。とはいえ、発注者との関係性を重んじて「声を上げにくい」「泣き寝入りするしかない」と感じたことがある人も多いのではないでしょうか。

そのような背景の中、2024年10月に施行されたのが「フリーランス・事業者間取引適正化等法(通称:フリーランス新法)」です。フリーランス新法は、これまでグレーだった取引のあり方に一定の基準を設けるもので、フリーランスにとって大きな転換点といえます。

しかし、実際のところ、フリーランス新法の中身や実態はどうなっているのでしょうか。本記事では、フリーランス新法の基本知識をはじめ、フリーランス新法施行後の実態、発注側のクライアントや受注側のフリーランスがそれぞれ取るべき行動、実際にどのような契約トラブルが防げるのかなどについて解説します。

フリーランス新法はフリーランスを守るための法律

2024年10月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法(通称:フリーランス新法)」は、フリーランスと発注者の間で起こりやすい契約トラブルを防ぐために制定されました。

この法律では、契約条件の明示や報酬の支払い期日など、発注者に対して具体的な義務が課されます。違反があった場合には、公正取引委員会が是正勧告や命令を出すことができ、従わなければ企業名と違反内容が公表される仕組みです。

フリーランス協会が公開している『フリーランス白書 2024』でも、最も期待されている行政対応として「違反事例の公開」が挙げられており、透明性の確保への関心が高まっています。

最大のメリットは、フリーランスが一方的な契約変更や報酬の未払いといったトラブルから守られる点です。明文化されたルールがあることで、声を上げづらい立場にある人でも法的な後ろ盾を得やすくなりました。

また、後ほど詳しく解説しますが、適用されるのは法人だけでなく、発注者が個人事業主であっても、事業者であれば対象になります

今のフリーランスの実態は?

それでは、実際のところ、今フリーランスとして働く人たちはどんな状況に置かれているのでしょうか。ここでは、現場の声やデータをもとに、その実情を見ていきましょう。

低賃金かつ過酷な労働

フリーランスの中には、「下請け」として正当な対価が支払われないまま、重い業務を抱えている人も少なくありません。中には実質的に雇用と変わらない働き方を強いられ、偽装請負のような状態になっているケースも見受けられます

実際、『フリーランス白書 2024』によると、今の働き方「全般」に対して満足している人は約7割いる一方で、「収入」「社会的地位」に満足している人は約3割に留まっています。

また、内閣官房の『令和4年度フリーランス実態調査結果』によると、「主な契約の発注者が一方的な都合により、『今回は、当初に取り決めた報酬の額の8割しか支払えない』と伝えてきた場合」の対応について、約3割ものフリーランスが「そのまま受け入れる(受け入れないと、今後の取引が切られる又は減らされるおそれがあったため)」と回答しているのが現状です。

フリーランス新法では、契約内容の明示義務や報酬の支払いルールが整備され、こうした不公平な扱いを是正することが期待されています。

報酬の未払い

フリーランス新法では、報酬の支払い期日を明示する義務が発注者側に課されているため、遅延トラブルの予防につながることが期待できます。

報酬が約束の期日に支払われず、何度も催促してようやく振り込まれるといった経験をしたことのあるフリーランスも少なくありません。実際に、内閣官房の『令和4年度フリーランス実態調査結果』でも、契約書に記載するべき事項として「支払期日」を重視する人は約半数にのぼっており、報酬の遅延や未払いがフリーランスにとって大きな不安要素であることが分かります。

契約条件の不透明さ

フリーランス新法では、発注者に契約条件の明示が義務づけられており、曖昧なまま業務が始まることを防ぐ効果が期待されています。業務内容や報酬、納期など、契約の根幹となる条件が曖昧なまま仕事が始まるケースは今も少なくありません。

『令和4年度フリーランス実態調査結果』では、「取引条件が十分示されなかった」と答えた人が23.0%、交渉できないまま契約した人は57.9%にのぼっています。

フリーランス同士の取引によるトラブルも少なくない

フリーランス同士の取引によるトラブルも珍しくありません。主なトラブルとして、納期遅延や契約不履行、報酬の未払い、事前合意のない作業追加などが挙げられています。

このような取引もフリーランス新法の対象となり得ることから、フリーランス同士の取引によるトラブルの減少が期待されます。『フリーランス白書 2024』によると、発注時・受注時ともに、約1割のフリーランスが他のフリーランスとの契約トラブルを経験しているのが実情です。

一方で、実際には形式的な対応にとどまり、形骸化してしまうリスクもあるのが現実です。制度に頼るだけでなく、フリーランス自身が自らを守る意識を持つことも、今後いっそう重要になっていくでしょう。

フリーランス新法の認知度は?

フリーランス新法が施行されてから、しばらく経ちます。それでは、フリーランス新法は、一体どの程度浸透しているのでしょうか。

フリーランス新法の認知度は8割

『フリーランス白書 2024』によると、「フリーランス新法」という名称を見聞きしたことがある人は83.6%にのぼります。この結果を見ると、法律名自体はかなり広く知られており、フリーランスの間でも一定の認知は進んでいるといえるでしょう。

一方、内容を理解している人は少ない

認知度が8割以上にのぼる一方で、同調査によると、新法の内容をある程度理解しているフリーランスは、33.7%にとどまっています。さらに、「あまりよく知らない」が約半数、「見聞きしたことがない」も16%近く存在するのが現状です。つまり、名称だけが一人歩きし、制度の中身までは浸透していないといえるでしょう。

フリーランス新法に期待することは?

フリーランス新法への期待は、賛否が分かれています。

『フリーランス白書 2024』によると、フリーランス新法によって契約トラブルが軽減されることに「期待している」と答えた人(10段階評価で6以上)は、全体の6割にのぼります。一方で、4割は「それほど期待していない」(5以下)と回答しており、評価は分かれているのが実情です。

ここでは、『フリーランス白書 2024』をもとに、特に期待値が高かったポイントを中心に見ていきましょう。

契約条件の明確化・取引先の意識向上

契約書に明記されるべき内容を曖昧にされた経験を持つ人は少なくありません。フリーランス新法によって契約条件の書面化が義務づけられることで、法務知識の乏しい発注者にも意識改革が促されることが期待されています。

契約の基本が最低限守られるという前提が整うことは、大きな安心につながるでしょう。

不当な契約変更・解除の防止

フリーランスとして働くにあたって、発注側の都合で突然契約が打ち切られたり、報酬が一方的に減額されたりする不安を抱える人は多いです。

フリーランス新法ではこれらの行為が禁止され、契約解除には30日前の通知または正当な理由の提示が必要になりました。

ただし、解除そのものが禁止されているわけではなく、30日前の通知または正当な理由があれば契約の終了は可能です。民法651条1項では、「各当事者は、いつでも委任を解除することができる」ことが定められており、業務委託契約もこれに該当します。任意解除そのものが法的に制限されるわけではないため、過度な期待をしすぎないよう注意が必要です。

支払い遅延の解消・取引の健全化

納品から日にちが経っているにも関わらず、なかなか報酬が支払われないといった声は少なくありません。フリーランス新法では支払い期日を定め、遅延には罰則があるため、健全な取引慣行の定着が期待されています。

特に資本金の少ない企業との取引では、大きな抑止力になるでしょう。

育児・介護への配慮

フリーランスには、子育てや介護をしながら働いている人もいます。子供がまだ幼く、体調不良の際の対応に追われ、頭を抱えているケースもあります。子育てや介護と両立しながら働くフリーランスにとって、柔軟な働き方への配慮は切実な課題です。

フリーランス新法の施行によって、6ヶ月以上の契約では、こうした事情に応じた業務配分を発注者に求めることが可能になります。このように、声を上げにくかった状況が制度によって後押しされることに、期待が寄せられています。

どんな契約トラブルが防げるの?

ここでは、フリーランス新法によって具体的にどのような契約トラブルの防止につながるか、なぜ防げるようになるのかについて深掘りします。

口頭契約や曖昧な契約条件によるトラブル

フリーランスという働き方の特性上、契約が曖昧になりやすく、口頭でのやりとりや条件の不明確さによるトラブルが目立っていました。

『令和4年度フリーランス実態調査結果』によると、「主な契約において、業務を開始する前に、依頼者から、取引条件が書面・メール・SNS・規約など形に残る方法(保存・記録可能な方法)で十分に示されていますか」という質問に対し、条件が十分に示されていないと感じるフリーランスは、約4割にのぼっています。

フリーランス新法では、契約前に発注者が契約条件を「書面または電子データ」で明示することが義務化されました。これにより、口頭だけでの契約や曖昧な取り決めを避ける仕組みが整います。そのため、「言った・言わない」といったトラブルの防止や、契約時点での認識ズレの減少が見込めるでしょう。

報酬の未払いや遅延

フリーランスの取引では、報酬の支払い遅延や未払いなどのトラブルも少なくありません。支払いスケジュールが明確に定められていなかった、「後で払う」といったあいまいな対応をされた、などの声も聞かれます。

こうした問題に対応するため、フリーランス新法では、報酬の「支払い期日」を契約時に明記することが発注者に義務づけられました。

さらに、報酬は原則として60日以内に支払うことが定められており、トラブルが起きた際にも法的根拠に基づいて催促しやすくなっています。「いつ支払われるのか」が明確になることで、フリーランス側の安心感にもつながります。

一方的な契約解除や報酬減額

一方的な契約解除や報酬減額もよく見られるケースです。これを受けて、6ヶ月以上の契約を解除する場合は、事前の通知や正当な理由の開示が求められるようになりました。また、報酬の一方的な減額や変更も禁止されており、突然の契約変更に対する歯止めが期待されています。

契約内容が明文化されることで、フリーランス側が不利益を被りにくくなる仕組みが整います。こうした規定によって、クライアント側の不誠実な対応を抑制する効果も期待できるでしょう。

ハラスメントや不当な要求

正規雇用ではないことから「外注」として軽視され、不当な扱いを受けるケースは後を絶ちません。

納品した成果物に対して、過度な修正を求められたり、必要以上に厳しいフィードバックを受けたりするといった声も多く聞かれます。単発や短期契約が多いため、関係性を築きにくいのも要因の1つです。

フリーランス新法では、発注者によるハラスメント防止措置も義務の1つとされています。業務に関係のない私的な連絡や高圧的な言動、過度な修正要求なども、対象になり得る行為です。働くうえでの安心感を高めると同時に、フリーランスが泣き寝入りせず、適切な対応を求めやすくなることが期待されます。

契約内容の不透明さと交渉のしにくさ

業務委託という立場柄、報酬や工数について意見を伝えにくいと感じるフリーランスは少なくありません。

また、契約内容の不透明さに対する不安の声も多く聞かれます。契約内容の不透明さに契約条件の文書やデータによる明示が義務化されることで、交渉の土台が明確になります。

これによって、曖昧なスタートや、「とりあえずやってみてから相談」といった取引のあり方が減ることが想定されます。また、発注側の認識も改まり、交渉が前提となる習慣への一歩につながるでしょう。

フリーランスが条件提示や質問をしやすくなる環境が、少しずつ整備されることが期待されます。

 【発注側】クライアント側の対応はどう変わる?

フリーランス新法の施行により、発注者にはいくつかの義務が課されるようになりました。従業員を使用しているかどうかによって義務の範囲は異なりますが、すべての発注者に契約条件の明示が求められます。

さらに、報酬支払いルールの明確化やハラスメント対策など、発注側の責任が明文化された点も特徴です。

ここでは、主に発注側が対応すべき義務について見ていきましょう。

契約条件の書面化と明確化

発注者は、契約前にフリーランスへ業務内容や報酬などの条件を文書や電子データで明示する義務があります。

これにより、口頭でのあいまいな取り決めや「言った・言わない」のトラブルを防ぐことが目的です。情報を形として残すことが、安心して業務を進める土台になります。

報酬の支払い期日の設定・期日内の支払い

報酬の支払いは、最大60日以内に支払うことが原則となりました。契約時点で具体的な期日を明記することが義務化され、報酬遅延の防止につながります。支払いのタイミングが明確になることで、フリーランスにとっても安心材料となるでしょう。

禁止行為の明確化

フリーランス新法では、禁止行為も明確化されました。発注者は、フリーランスに対して不当な契約変更や報酬の減額、返品の強要などを行ってはなりません。

これらは禁止行為として明示されており、違反した場合は是正勧告や企業名の公表などの対象となります。フリーランスの立場を守るための明確なラインが設けられた形です。

ハラスメント防止措置の義務化

クライアントによるパワハラやモラハラの防止も、発注者の義務として明文化されました。これには、業務上の指導を超えた言動や、過度な修正要求、プライベートへの干渉などが該当します。発注者は、適切な対応を講じることが必須です。これにより、フリーランスが安心して働ける環境づくりが求められています。

募集情報の正確性の確保

求人や業務委託の募集においても、発注者は内容を正確に記載する義務を負います。誤解を招く曖昧な表現や実態と異なる条件を提示することは、フリーランス新法の違反にあたる可能性があります。

そのため、初期段階から誠実な情報の提供が必須です。

育児・介護と業務の両立に対する配慮

6ヶ月以上の契約では、フリーランス側の申し出に応じて、育児や介護との両立に配慮した業務配分を行う義務があります。

働く環境やライフスタイルに合わせて柔軟な働き方を実現しやすくなる制度です。多様な働き方を支えるための新たな仕組みとして、注目されています。

長期契約時の契約解除ルールの明示

6ヶ月以上の契約を中途解除する場合は、あらかじめ定められた期間前の通知(事前通知)や、正当な理由の開示が必要です。

急な打ち切りによる不利益を防ぎ、安定した受注環境を整えることが目的です。継続的な契約ほど、こうしたルールの整備が安心感につながります。

【受注側】フリーランスは実際に何をすればいい?

フリーランス新法の施行によって、発注者に義務が課されるようになりましたが、受注側も内容を理解し、自衛する姿勢が必要不可欠です。

ここでは、契約書の確認や報酬の支払い期日、トラブル対応など、フリーランス自身がやるべき基本的なポイントを整理します。

契約書を必ず受け取り、内容を確認する

業務委託契約は、口頭ではなく必ず書面または電子データで取り交わしましょう。

業務範囲や報酬額、支払い方法に加え、納品形式や工数についての確認も重要です。たとえば、ライターなら修正回数、翻訳者ならフォーマットや提出方法、報酬が税込価格か税抜価格かなど、見落としがちなポイントがトラブルの原因になります。

想定以上に工数が多く、「思っていたよりも負荷が重い」と不満を抱えるフリーランスは少なくありません

フリーランスはアルバイトや正社員のように時給や月給制ではなく、成果物やプロジェクト単位で報酬が支払われることが多いため、最初の段階で工数や条件を明確にしておくことが重要です。

また、途中解約や違約金の有無についても、事前に確認しておくと安心です。

報酬の支払い期日を確認する

フリーランス新法では、報酬の支払い期日を明記する義務があります。

支払いのタイミングが契約書に記載されていない、もしくは不明瞭な場合は必ず確認しましょう。原則として、業務の完了または給付の受領から60日以内の支払いが求められます。

不当な契約解除や報酬減額に注意する

契約期間中に一方的に契約を解除されたり、報酬を減額された場合は、違法となる可能性があります。6ヶ月以上の契約では、事前通知や正当な理由の説明が必要です。

契約内容をしっかりと記載・保管し、不当な対応には適切に対応しましょう。

ハラスメント被害に対処する

業務と関係のない連絡や高圧的な言動、過度な修正要求などは、ハラスメントに該当する場合があります。

発注者側には防止措置の義務があるため、問題を感じた場合は相談窓口の活用も視野に入れましょう。

たとえば、「個人LINEではなくSlackやChatworkなどのビジネスチャットを使う」「やりとりはDMではなくオープンなチャンネルで行う」といった工夫も有効です。不快なやりとりがあった場合に備えて、日頃から記録や証拠を残しておくとよいでしょう。

フリーランス新法はすべてのフリーランスに適用されるの?

「フリーランス新法」という名前から、すべてのフリーランスが対象だと思われがちですが、実はそうではありません。発注者や契約の条件によって、適用の有無が変わる仕組みになっています。

それでは、一体どのようなフリーランスに適用されるのでしょうか。

発注者が「特定業務委託事業者」の場合に適用される

フリーランス新法は、発注者が「特定業務委託事業者」に該当する場合、より多くの義務が課されるようになっています。

「特定業務委託事業者」とは、フリーランスに業務委託を行う事業者のうち、以下のいずれかに該当するものを指します。

  • 法人であって、2人以上の役員がいる、または、従業員を使用している事業者
  • 個人事業主であって、従業員を使用している事業者

つまり、従業員を使用しているか、一定の組織体制がある発注者が「特定業務委託事業者」となります。ただし、従業員を使用していない事業者であっても、「業務委託事業者」として契約条件の明示義務など一部の義務は共通で課されるため、完全に対象外というわけではありません

一方、受注者側である「特定受託事業者(=フリーランス)」は、以下のいずれかに該当する人を指します。

  • 個人であって、従業員を使用していない者
  • 法人であって、1人代表のみ、かつ従業員を使用していない者

この定義には業種の制限はなく、ライター、エンジニア、一人親方、フードデリバリー、弁護士なども含まれます(いずれも従業員を使用していない場合に限ります)。

なお、フリーランス同士の取引であっても、発注側が「事業者」として業務を行っていれば、明示義務などが適用されるケースがあります

参照:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法) Q&A|内閣官房

働き方によって適用範囲が変わる可能性がある

契約上は業務委託でも、実態として発注者の指揮命令下で働いているケースなど、労働者性が強い場合は、労働基準法などの労働関係法令が適用される可能性があります。

この場合、フリーランス新法ではなく、雇用に近い立場として別の法制度が適用されるため、注意しましょう。働き方の「実態」によって判断される点が、ポイントです。

フリーランス同士の取引でも適用されるケースがある

発注者がフリーランスであっても、事業者として業務を委託していれば、法律の適用対象となる場合があります。従業員を使用していない場合は、「特定業務委託事業者」には該当しませんが、契約条件の明示義務など一部の規定は適用されます。

取引形態よりも事業者性が判断基準となるため、注意してください。

単発案件や短期間の取引でも適用される場合がある

契約期間の長さにかかわらず、契約内容が業務委託に該当し、発注者が事業者であればフリーランス新法の適用対象となります。

一方で、発注者が個人で業として行っていない場合(例:一般消費者など)は対象外です。あくまでも事業者としての発注かどうかが重要です。

フリーランス新法の今後の課題は?

フリーランス新法には、契約トラブルを減らす仕組みが盛り込まれていますが、課題が残っているのも事実です。ここでは、施行後に見えてきた運用面での懸念や、今後の改善点について見ていきましょう。

契約書の義務化が形骸化する可能性

契約書の書面交付が義務化されても、実際の運用が形式的にとどまる懸念があります。実際に、株式会社みらいワークスが実施した『フリーランス・副業プロフェッショナル人材への働き方とキャリアに関する実態調査』によると、約7割の人が、フリーランス新法施行後に「特に大きな変化は感じていない」と回答しています。

また、テンプレをそのまま流用したり、実態と異なる条件が記載されるケースも想定されます。フリーランスが本当に守られるには、契約書の中身に目を通し、必要があれば交渉することが重要です。

報酬未払いや遅延の実効性

報酬支払いのルールは整備されましたが、未払いへの対応がフリーランス任せになりやすい点が課題です。泣き寝入りを防ぐには、支払い遅延の事実を示す証拠の記録や、相談窓口の利用も視野に入れる必要があります。

制度があっても、実効性を持たせるためのサポート体制が求められます。

フリーランスが交渉力を持てるとは限らない

法的なルールが整っても、実際の取引現場では「言いづらい」「断られるかもしれない」といった心理的ハードルが残っています。『令和4年度フリーランス実態調査結果」では、20%のフリーランスが「交渉の余地はあったが、実際には交渉を行わなかった」と回答しているのが実情です。制度を活かすには、交渉することが当たり前になる環境づくりも必要となります。

フリーランス側の意識や知識が追いつかない可能性

制度が整備されても、「知らなかった」「契約書をよく読まなかった」という状態では、守られる権利も活かしきれません。最低限の法律知識や契約の読み方を理解することが、自衛の第一歩となります。

フリーランス新法をきっかけに、フリーランス自身が契約への意識を高めることが求められています。

発注側の法順守が徹底されない可能性

『令和4年度フリーランス実態調査結果』によると、約4人に1人のフリーランスが「契約書に明記されていた条件が、後から一方的に変更されたことで不利益を受けた」と述べています。

制度があっても、発注者側の意識や理解が不十分なままでは、トラブルは防ぎきれません。法の順守を促す周知や、違反事例の公開が重要になっていくでしょう。

発注側が発注を控える可能性

制度によってフリーランスが守られるようになる一方で、発注する側が面倒と感じて発注自体を控える可能性も懸念されています。

人事と現場が離れている場合に、ルールを理由に契約を打ち切られてしまったケースなどが考えられます。

とくに大企業などで、法務や人事が厳格に動く場合、現場が柔軟に契約できなくなるケースも想定されるでしょう。制度の意義を正しく伝え、発注側にも理解とメリットを感じてもらう働きかけが求められます。

フリーランス新法は、うまく使えば心強い味方に

フリーランス新法は、私たちフリーランスの気持ちに寄り添い、守ってくれる、「フリーランスの味方」ともいえる制度です。

会社に属していない私たちは、これまで契約や仕事において「自己責任」を強いられることも少なくありませんでした。しかし、会社に守られていない働き方だからこそ、社会がルールで守る仕組みが必要です。

契約トラブルや報酬の未払いといった、長年見過ごされがちだった問題に対して、ようやくルールが整い始めました。契約条件の明示義務や報酬の支払期日の設定、ハラスメント防止措置など、これまで「空気」だったマナーが、明確な義務としてルール化された点は大きな進展です。

一方で、実態がいまだ偽装請負に近いと感じている声も多く、SNSなどでは「フリーランス新法施行後も、環境の変化を実感できない」「フリーランス新法を知らない人が多い」という意見も少なくありません。認知度は高くても、理解度や運用面でのギャップはまだ大きいのが現状です。

特に受注者側であるフリーランス自身の知識不足も、課題の1つです。制度の中身を知らなければ、たとえ不当な取引を受けていても気づけず、適切に対応できないまま泣き寝入りしてしまう可能性があります。

フリーランス新法は、上手に活用すれば私たちフリーランスの強い味方になってくれます。制度を形骸化させないためにも、法制度に頼りきるのではなく、フリーランス自身が理解や知識を深め、自衛意識を持つことが、今後さらに重要になっていくのではないでしょうか。

フリーランスの電子契約|導入ステップ・おすすめツール・契約締結の流れを具体的に解説

フリーランスにとって契約書はとても大切なもの。口頭やメールだけでの案件受注は報酬未払いなどのトラブルにつながるので、契約書を取り交わすのは非常に重要です。案件を数多く回すフリーランスにとって効率的に契約書をやり取りできるシステムの導入は大きなメリットがあります。

電子契約システムの特徴やメリット、各種サービスの比較などをまとめています。自身の仕事スタイルや取引先との関係性なども考慮しながらあなたに合ったものを選びましょう。

電子契約とは電子データのみをやりとりする仕組みで完結する契約

電子契約とは紙は使わずにオンラインで契約書確認や署名を行うことを言います。法的有効性を担保するために誰がサインしたのかを証明し、サインした日時をタイムスタンプで保存しておく手法が使われています。紙で契約書を作成する場合は作成、印刷、封入、先方へ郵送、ファイリングなどの作業が発生していましたが、電子契約ではボタンひとつで完結できます。

電子契約の改ざんされていないことを証明するための機能

オンラインの場合、本当の担当者が実際にサインをしたものなのかどうかわからないという不安があるかもしれません。電子契約のサービスでは、契約書が改ざんされていないことを証明し、その信頼性を確保するためのさまざまな手段が使われています。

電子契約では「誰が」「何を」作成したか証明する電子署名

電子署名は、誰が送ったかを証明するための「公開鍵暗号方式」と改ざんされていないデータだと証明する「ハッシュ値」という、2つの仕組みから成り立っています。それぞれの暗号データを電子文書に添付して相手先に送信することで不正を防ぐことができます。

「いつ」「何を」作成したか証明するタイムスタンプ

タイムスタンプとは、電子契約の時刻に関する信頼性を担保するための技術的な仕組みです。契約書の内容や署名が行われた日時を記録するため、契約書がいつ締結されたのか、文書の内容が改ざんされていないかを確認するために利用されています。

CHECK

・電子契約とはオンラインで契約書確認や署名を行うことを指す
・電子契約システムには改ざんを防止する様々な技術が使われている
・電子契約システムは署名の正当性が確保されている安心できるサービス

フリーランスが電子契約システムを導入するメリット

フリーランスや個人事業主だからこそ、電子契約システムの導入メリットが大きいのをご存じですか?事務作業の専任がおらず自分1人ですべての業務をこなさなければならない場合、自動化できるものはシステムに任せるのが効率的ですし、ミス防止にも役立ちます。契約内容がきちんと保存されるだけでなく、支払い条件や支払いスケジュールがわかりやすくなるなど多くのメリットがあります。

コンプライアンスの強化につながる

取引先との契約書類は電子帳簿保存法に従ったデータ保存が法律で定められています。真実性を確保する要件(データが削除・改ざんされていないことが確認できる状態を保っていること)と検索機能を確保する要件(誰もがすぐに確認できる状態を確保していること)を満たした電子契約システムによりコンプライアンス(法令遵守)強化になります。

書面契約での手間・時間を省く

紙ベースの契約書を印刷・郵送・署名・捺印する手間が省け、契約締結までの時間が大幅に短縮されます。また、紙の契約書の保管の手間やスペースも省くことができます。

報酬未払いなどトラブル防止の証拠を残す

いつまでに報酬を支払うかなど、取引先と合意して契約した内容は適切な保存が必要です。システム上で保存することで、契約内容をめぐるトラブル防止に役立ちます。

電子取引データの保管場所に困らなくなる

電子取引データは、契約書類が作成・受領されてから7年間保存することが義務付けられています。保存場所はパソコン上でもクラウドサーバー上でもどこでも問題ないのですが、電子契約システムを導入するとシステム上で保存されるので便利です。

どこでも契約書を発行できる

インターネットを介してどこからでも契約書を発行・確認ができるため、クライアントとすぐに契約を結ぶことができます。多くの電子契約システムはスマートフォンやタブレットでも利用可能なため、紙の契約書と比べると格段に手軽に契約書発行が可能になります。

印紙税がかからなくなる

同じ契約書でも紙で発行した場合は収入印紙が必要ですが、電子契約書では収入印紙は不要です。印紙税の節約になり、コストが削減できるというメリットがあります。

電子契約システム導入にはクライアントの同意が不可欠

契約とは自社と取引先の双方の合意の上で行うものです。取引先相手が電子契約システムを使うことに同意していないと契約締結ができません。もし紙でのやりとりを基本としている取引先と契約を交わす場合は、電子契約システムの仕組みやメリットを理解してもらうことからはじめ、契約がスムーズに進むように調整しましょう。

CHECK

・フリーランスにとって電子契約システムの導入は多くのメリットがある
・業務効率化やトラブル防止、コンプライアンス強化などにつながる
・電子契約システム導入には取引先の同意を得る必要がある

無料から使えるおすすめ電子契約サービス

業務のオンライン化に伴い電子契約システムを導入する企業が増えています。それに伴いさまざまなサービスが出てきているので、料金、機能、セキュリティ面、使いやすさ、などの視点からフリーランスとして使いやすいものを選びましょう。

クラウドサイン

弁護士ドットコムが提供する日本の法律に特化した弁護士監修のクラウド型電子契約サービス。シンプルなUIで誰でも使いやすく、契約締結から契約書管理まで可能にします。弁護士監修なので日本の法律に幅広く対応しており安心して始められます。

GMOサイン

月額料金8,800円と低コストで始められるクラウド型の電子契約サービスです。電子認証局を子会社に持つGMOが提供するサービスで、フリーランスのスモールスタートにも適しています。

freeeサイン

freeeサイン は契約業務をワンストップでカバーする電子契約サービスです。文書作成から締結。保管まで全てクラウド上で行うことができます。freee会計と連携させることで承認済みの申請を自動的に電子署名業務に繋げることができます。

Acrobat sign

アドビの電子サインサービス「Acrobat Sign」はPCやモバイルから署名ができるサービス。承認完了までの時間をスピーディーにするだけでなく、コスト削減や管理の手間軽減にも役立ちます。

BtoBプラットフォーム契約書

「BtoBプラットフォーム 契約書」はWEBだけで契約が完了する高度な電子契約システムです。企業間の契約締結・保管・共有を電子化で処理してくれます。

Dropbox Sign

あらゆるドキュメントに法的拘束力のある署名を追加でき、署名依頼の進捗を追跡も可能。Dropboxのアカウントと連携することにより、Dropboxのストレージ上にDropbox Signのフォルダが作成され、署名済みのドキュメントが自動で格納されて便利です。

CHECK

・まずは無料で使えるものから試してみよう
・会計ソフトなどほかのサービスとの連携しやすさも要確認
・導入することで契約業務の効率化と時間短縮につながる

フリーランス向けの電子契約システムの選び方

フリーランスにとって契約はとても大切なもの。自分にとっても取引先にとっても使いやすい電子契約システムを導入することがポイントです。

必要な契約書類形態に対応しているか

以下に挙げるような、企業が取り交わす文書・契約書のほとんどが電子契約で締結可能になっています。これらの中からフリーランスがよく使う秘密保持契約や業務委託契約書に対応していて使いやすいシステムを選びます。

使い続けるにあたり費用は適切か

電子契約システムの費用はさまざま。月額制と従量課金制があり、オプションによって料金が追加されるものもあるので、じっくりと比較し、事業規模に合わせた費用感のシステムから使い始めましょう。まずは無料でテスト利用してみるのもおすすめです。

取引相手が活用しているツールであるか

電子契約を結ぶ際に相手にも負担がかからないシステムを選ぶことが大切なので、頻繁にやりとりする取引先が使っているツールを優先して導入すると良いでしょう。

数ある電子契約システムの中から、自分に合ったサービスを見つけて契約業務を効率化させましょう。トラブルの防止になるだけでなく、業務効率化、コスト削減などビジネスの進行をスムーズにしてくれます。

Exit mobile version