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フリ転編集部 柿本

Webライター兼コンテンツディレクター。20年以上の人事キャリア経験をもとに、現在はHR分野からビジネス系インタビュー記事まで幅広く執筆中。

インボイス制度は、2023年10月から開始された消費税の仕入税額控除に関する新制度で、免税事業者だったフリーランスに特に影響が大きいものです。インボイスに登録しない場合、取引先との関係に支障が出る可能性がある一方、登録すれば消費税の納税義務と事務負担が増すデメリットもあり、慎重な検討が求められます。

インボイスに登録するかどうか、登録するとしたらどのタイミングで登録するかなどは、取引先の状況、自身の業務内容や今後のビジネス展開などを総合的に考慮して決めましょう。

目次

インボイス制度は全フリーランスに降りかかる問題

インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、特に免税事業者だったフリーランスに大きなインパクトがあります。取引先が仕入税額控除を受けるには「インボイス(適格請求書)」が必要となり、フリーランスがその発行者かどうかが取引継続の判断材料になるためです。インボイスについて詳しくみていきましょう。

そもそもインボイス制度の仕組みとは

インボイス制度とは、2023年10月1日から始まった消費税の仕入税額控除に関する仕組みです。従来、取引の請求書や領収書があれば仕入税額控除が可能でしたが、制度開始後は「適格請求書(インボイス)」がなければ控除が認められなくなりました。インボイスを発行するためには税務署に「適格請求書発行事業者」として登録する必要があります。

インボイス制度の対象者の具体要件は

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の対象者は、消費税の仕入税額控除を受けるために「適格請求書発行事業者」として登録された事業者です。課税売上高が1,000万円を超える課税事業者が対象となります。

課税売上高1,000万円以下の事業者であっても、取引先が仕入税額控除を受けるために適格請求書の発行を求められることがあり、取引先との関係性を維持するために「適格請求書発行事業者」として登録をする場合もあります。

CHECK

・インボイス制度とは消費税の仕入税額控除の仕組み
・適格請求書(インボイス)の発行が必要になる
・課税事業者(適格請求書発行事業者)としての登録が必要

インボイス制度、フリーランスにどう影響する?

インボイス制度は、フリーランスが「免税事業者」のままでいるか、「課税事業者(適格請求書発行事業者)」になるかによって大きく変わります。

免税事業者の場合に仕事が減る可能性も

免税事業者のままでいる場合、切り替えの手続きをせずに今まで通りの請求書の発行を続ければ良いことになります。この場合、取引先が課税事業者で仕入税額控除を受けるために適格請求書を希望している場合に免税事業者であるあなたとの取引を減らしたり、見送ったりする可能性があります。

取引先が課税事業者の場合に値引きを求められる場合も

免税業者のまま課税事業者の取引先との取引を続けようとする場合、取引先が仕入税額控除できない消費税分を発注金額から差し引く形で値引きを要求してくるケースがあります。

適格請求書での受発注業務の対応が必要に

適格請求書発行事業者になった場合、記載要件を満たした適格請求書を発行し、その写しを保存する義務が生じます。適格請求書として認められるには、以下6つの記載事項が必要になります。

① 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号

② 取引年月日

③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)

④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)および適用税率

⑤ 税率ごとに区分した消費税額等

⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要

課税事業者への変更で確定申告時の消費税の申告が必要に

免税事業者が新たに課税事業者となった場合、毎年3月15日までに提出する所得税の確定申告を行ったうえで消費税の申告も必要になります。消費税の確定申告書の提出期限は毎年3月31日までになっています。国税庁の「e-Tax」や会計ソフトで申告書を作成、提出します。

経費精算で領収書の振り分けが必要に

仕入れや経費の支払いにおいて、受け取った請求書や領収書が適格請求書であるかどうかを確認し、仕分けて経理処理を行う必要があります。

CHECK

・免税事業者か、課税事業者になるかで大きく変わる
・課税事業者になると会計処理が複雑になる
・免税事業者の場合に仕事が減る可能性も

インボイスの導入での価格変更や取引停止は下請法や独占禁止法に抵触

フリーランスが不当な扱いを受けないように保護する法律として、「下請法(フリーランスなどの下請事業者が、発注元から不当な扱いを受けないように保護する法律)」や「独占禁止法(取引先がフリーランスに対して不当に不利な条件を押しつけることを禁じる法律)」が定められています。企業側がインボイス制度への対応を理由として一方的に取引停止をしたり価格変更をすることは法律で禁止されています。

フリーランスのインボイス制度における選択肢・取るべき対応は?

フリーランスのインボイス制度における対応としては登録して適格請求書発行事業者となるか、登録しないで免税事業者でいるか、のどちらかです。それぞれのメリットとデメリットは以下のとおりです。

インボイス制度に登録して適格請求書発行事業者となる

メリット

① 取引先との継続的な関係を維持できる

インボイス請求書の発行により取引先が仕入税額控除を受けられるため、取引先との契約継続がスムーズになります。

② 取引単価の維持

取引先が控除を受けられなくなることもないので、取引単価も今まで通りで進められます。

③ 信頼性の向上

適格請求書発行事業者として登録されていることで、税務面での信頼性が取引先から評価されやすくなります。

デメリット

① 消費税の納税義務が発生

消費税の課税業者となることで消費税を納める必要があり、その分手取りが減少します。

② 会計・経理の負担が増える

インボイス対応請求書の発行手続きや、消費税の確定申告が追加で必要となり、帳簿管理や確定申告がより複雑になります。

③ 年間のコスト増加

納税に加えて、経理処理や申告対応にかかる時間的・金銭的コストが増える可能性があります。

インボイス制度に登録しないで免税事業者となる

メリット

① 消費税の納税義務がない

消費税は免税されるため支払い義務がなく、実質的に手取りが多くなります。

② 会計や税務の負担が軽い

消費税の申告が不要なので、帳簿や確定申告の手間が少なくなります。

デメリット

① 取引先にとって不利になる

インボイス対応請求書を発行できないため、取引先が仕入税額控除を受けられず実質的なコスト増になります。

② 仕事や契約を断られる可能性

インボイス請求書に対応していない場合、取引先によっては取引終了となるなど案件数が減るリスクがあります。

③ 報酬が減額されることも

取引先が控除できない分、消費税分(10%)を報酬から差し引かれることがあるため、実質的な手取りが減る可能性があります。

フリーランスがインボイス発行事業者になるとどうなる?

インボイス発行事業者の登録は取引先との信頼性を高める一方で、消費税の納税義務と会計処理の複雑さが伴います。

売上1000万円以下でも消費税を払うことに

フリーランスがインボイス発行事業者になると、売上1,000万円以下でも消費税を払う必要が出てきます。適格請求書発行事業者となった場合、売上から消費税を納めなければならず、インボイス登録前と同じ売上だったとしても消費税分がマイナスとなります。

複雑な会計処理から税理士への依頼が必要なことに

インボイス発行事業者になると消費税の計算が加わり会計処理が複雑になります。売上に含まれる消費税と、仕入れにかかる消費税の差額を計算して納税する必要があるため、帳簿の管理や確定申告が難しく、税理士に依頼が必要になることが多いです。

売上1000万円以下のフリーランスはインボイス制度に登録すべき?

売上が1,000万円以下の免税事業者は、インボイス制度への登録義務はありません。ただし、取引先の要望や今後の事業拡大を見据えた場合、インボイスへの登録を検討したほうが良い場合もあります。登録すれば適格請求書を発行できますが、同時に消費税の納税義務も発生します。

インボイス制度の対応をとらない場合に考えられる末路

企業が仕入税額控除を受けるためにはインボイス請求書が必要であり、取引先の企業側としてはインボイス対応をしている業者との取引を優先します。インボイスに対応していない場合、値下げ交渉や契約の打ち切りなどのリスクがあります。特に広告、IT、デザイン業界で法人クライアントとの契約が多い場合、インボイス対応をするのが好ましいでしょう。

主要取引先の種別(課税事業者・免税事業者)で考えられる末路

取引先が課税事業者か免税事業者かによって、フリーランスがインボイス対応しない場合の影響は大きく異なります。課税事業者の場合は、インボイスに対応していない場合、取引が減る可能性があります。相手が免税事業者の場合は特に問題はありません。

インボイス制度の経過措置が終わるまで待つという選択肢

免税事業者との取引の際に、インボイス対応の請求書でなくても一定割合の仕入税額控除を受けられる措置があります。2026年9月末までは消費税の納税額を売上にかかる消費税額の2割に、2029年9月末までは5割に軽減することが可能です。制度の影響を見極めつつ、この期間に準備・判断するというのも選択肢の一つです。

CHECK

・インボイスに登録することで得られるメリットは大きい
・取引先が免税業者の場合はインボイスに登録しなくても問題ない
・経過措置制度期間中は様子を見てみるという選択肢もあり

インボイス制度の特例的な負担軽減措置とは?

インボイス制度が導入された2023年10月1日以降、免税事業者との取引がある課税事業者の急激な負担を軽減するため、6年間の仕入税額控除の経過措置が設けられています。これにより、一定の割合の仕入税額控除を受けることができます。

2割特例(小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置)

2割特例とは、インボイス制度に対応して課税事業者になった元・免税事業者の小規模事業者に対する、消費税納税額の軽減措置です。売上にかかる消費税額の2割だけを納税することとしています。2023年10月の制度開始と同時に導入され、2026年9月30日までの3年間限定で適用されています。

少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)

少額特例とは、一定規模以下の事業者(中小企業・個人事業主・フリーランスなど)に対する事務負担の軽減措置です。税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイス対応でなくても帳簿への記載のみで仕入税額控除が認められます。2029年9月30日までの6年間限定で適用されています。

返還インボイスの交付義務免除

返還インボイス交付義務免除の措置は、税込1万円未満の返品や値引きに対して、返還インボイスの交付を義務付けないというものです。この免除措置により、小規模な取引や少額の返品・値引きがあった場合、返還インボイスを発行する必要がなくなります。この措置には期限は定められていません。

CHECK

・インボイス制度には負担軽減措置がある
・少額特例は2029年9月30日まで
・フリーランスの税込1万円未満の課税仕入れも控除可能

結局、いつからインボイス制度に登録すべき?

フリーランスがインボイス制度に登録するタイミングは、事業の規模や取引先との関係、税務上のメリット・デメリットを考慮して慎重に決める必要があります。インボイス登録を遅らせることで負担を軽減できる場面もありますが、早期に登録することで得られるメリットもありますので慎重に検討しましょう。

年間売上が1000万円を超える見込みの場合

売上が1000万円を超える場合は課税事業者に当たるため、早めにインボイス発行事業者としての登録も済ませておくのがスムーズです。

取引先からインボイス制度への登録の督促がある場合

法人企業が取引先の場合、インボイスの登録を求められるケースが多いです。取引継続のためにはインボイスへの登録を前向きに進めましょう。

・インボイス制度に登録するべきタイミングを見極める

・年間売り上げが1000万円を超える場合は登録が必要

・取引先から登録を求められるケースもある

職種ごとのフリーランスのインボイス制度の登録のタイミング・判断軸は?

フリーランスがインボイス制度に登録するタイミングは決められているわけではありません。職種や働き方によって判断が異なり、適切なタイミングで対応することでビジネスチャンスを広げたり、クライアントからの信頼を高めたりするきっかけにもつながります。

Webデザイナーはクライアントワークが始まったら登録すべき

Webデザイナーの主な仕事は、Webサイトのデザインやバナー制作、ランディングページ制作などです。

クライアントワーク中心であるWebデザイナーにとって、取引先の多くが課税事業者である可能性が高く、インボイス制度への登録は取引の継続性や新規案件の獲得において大切な要素となります。インボイスに対応しているデザイナーのほうが選ばれやすいため、クライアントとの取引が始まったタイミングで登録をするのがおすすめです。

Webエンジニアは複数の取引が始まったら登録すべき

Webエンジニアは、Webアプリケーションの開発、システム構築、サーバー管理など幅広い業務を行い、仕事の多くは企業からの直接依頼やプロジェクト単位での参加となり、BtoB取引が中心です。

特定の企業と継続的な取引が始まったタイミングや、複数の企業から安定的に案件を受注できるようになった段階で、インボイス登録を具体的に検討しましょう。特に、月額での準委任契約や長期プロジェクトへの参画が決まった場合は、速やかな対応が望ましいです。

Webライターは作家業以外の仕事を受けるなら登録すべき

Webライターは個人のブログ運営やnoteなどでのコンテンツ販売、小説やエッセイ執筆などの作家業のほかに、企業のオウンドメディアの記事執筆、SEOコンテンツ作成、広告コピーライティングといった、明確に企業をクライアントとする仕事もあります。

企業クライアントとの取り引きをメインで行う場合は、インボイス登録を行うと良いです。

Webディレクター・マーケターは独立したら登録すべき

WebディレクターやWebマーケターは、クライアント企業のWeb戦略立案、プロジェクト管理、広告運用、SEO施策など企業のWeb活用を多岐にわたって支援する役割を担います。

多くの場合、ある程度の規模を持つ企業がメインターゲットとなり、取引先企業の多くが課税事業者となるため、フリーランスとして独立・開業するタイミングでインボイス登録を行うことが望ましいです。

具体的に、インボイス制度の登録はどう進める?

「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出する方法はオンライン(e-Tax)と郵送でのどちらでも可能です。申請後、税務署から届く「登録番号」を請求書に記載し、会計ソフトを使っている場合はインボイス対応に設定を変更します。

e-Taxからの申請する場合

マイナンバーカードとインターネット環境があれば、自宅からオンラインで申請できます。

準備するもの

  • マイナンバーカード(またはID・パスワード方式)
  • ICカードリーダー または マイナンバー対応スマートフォン

手順

  • 国税庁のe-Taxサイトにアクセスし、ログインする
  • 「申請・届出」→「適格請求書発行事業者の登録申請」画面に進む
  • 画面の指示に従って申請書に入力する
  • 入力内容を確認し、電子署名を行って送信すれば完了

郵送での申請方法する場合

登録申請書を国税庁のウェブサイトからダウンロード・印刷する

必要事項を記入の上、管轄のインボイス登録センターへ郵送

不安や懸念点は政府の相談窓口に

フリーランスとしてインボイス制度に不安や疑問がある場合は、公的な相談窓口を活用できます。

インボイスコールセンター(インボイス制度電話相談センター)|国税庁

電話番号: 0120-205-553(通話料無料)

受付時間: 平日 9:00~17:00(土日祝・年末年始除く)

制度の概要や登録方法、免税事業者の対応、軽減措置についてなど、基本的な質問に丁寧に対応してくれます。

CHECK

・インボイス制度の登録判断軸は職種によっても異なる
・インボイス制度の登録はオンラインもしくは郵送で手続き可能
・迷ったら政府の相談窓口を活用しよう

インボイス制度はフリーランスに大きな影響を及ぼします。登録しない場合、取引の継続や報酬維持が難しくなるケースがあります。制度には経過措置(2割特例・少額特例)もあるためタイミングも合わせて慎重な判断を行いましょう。

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