秘密保持義務違反の損害賠償は、民法709条に基づき逸失利益・調査費用・信用毀損額の3要素で算定します。不法行為と契約違反では請求根拠が異なるため、NDA条項の設計が賠償額を左右します(法務省民法解説)。請求手順から予防策まで、NDA違反対応の全体像を網羅しました。
この記事の結論
秘密保持義務違反の損害賠償請求は、民法709条の不法行為責任と契約上の債務不履行の2ルートがあり、証拠の種類に応じて選択します。損害額の立証が最大の壁となるため、NDA締結時に違約金条項と損害算定基準を明記してください。
介護福祉士など資格職は行政処分も絡むため、違反発覚時は72時間以内の初動対応が被害拡大を防ぐ分岐点です。
今日やるべき1つ
手元のNDA・秘密保持契約書を取り出し、違約金条項と秘密情報の定義範囲が明記されているか確認してください(15分)。
状況別ショートカット
| あなたの状況 | 読むべきセクション | 所要時間 |
| NDAの基本と法的根拠を知りたい | 秘密保持義務違反の賠償は2ルートで請求 | 5分 |
| 損害額の計算方法を知りたい | 損害賠償額の算定は3要素で計算 | 5分 |
| 自分の状況に合う対応を判断したい | 秘密保持義務違反の対応を3分で診断 | 3分 |
| 実際の事例を参考にしたい | 秘密保持義務違反の実例は2パターンで比較 | 5分 |
| NDA違反時の対応を一覧で確認したい | 秘密保持義務違反は8項目でチェック | 3分 |
| 実務で使える具体策が欲しい | 秘密保持義務違反の予防は5つの仕組みで対策 | 10分 |
| 介護福祉士の守秘義務が気になる | 介護福祉士の秘密保持義務違反は3法令が適用 | 5分 |
秘密保持義務違反の賠償は2ルートで請求

NDA違反が発覚したとき、まず判断すべきは「不法行為と債務不履行のどちらで請求するか」です。この2つは立証要件がまったく異なり、選択を誤ると請求が空振りに終わるリスクがあります。
不法行為(民法709条)は故意・過失と因果関係を立証
民法709条に基づく損害賠償請求では、加害者の故意または過失、損害の発生、行為と損害の因果関係を被害者側が立証してください。NDAを締結していない相手にも請求できる点が特徴ですが、立証のハードルは契約ルートより高くなります。
NDA未締結の取引先から情報が漏洩した場合でも請求の道は残るものの、証拠収集に相当な労力がかかります。
損害賠償請求の時効は、損害と加害者を知った時から3年(または不法行為時から20年)です(裁判所判例検索)。
債務不履行(契約違反)は契約書の条項が武器
NDA・秘密保持契約を締結していれば、契約上の義務違反として債務不履行に基づく損害賠償請求が可能です。不法行為と比べた最大のメリットは、故意・過失の立証責任が相手方に転換される点です。被害者は契約違反の事実と損害額を示せばよく、加害者側が「自分に過失はなかった」と証明しなければなりません。
ただし、NDAの条項が具体的であるほど有効です。秘密情報の定義があいまいなNDAでは「その情報は秘密に該当しない」と反論される余地が残ります。秘密情報の定義が「甲が秘密と指定した情報」の一文だけのNDAは、訴訟時に争点化しやすいため、5カテゴリ以上の具体的定義を盛り込んでください。NDAの記載例と注意点も参考になります。

不法行為と債務不履行は証拠の種類で選択
| 比較項目 | 不法行為(民法709条) | 債務不履行(契約違反) |
| 立証責任 | 被害者が故意・過失を立証 | 加害者が無過失を立証 |
| 時効 | 3年(損害・加害者を知った時から) | 5年(権利行使できると知った時から) |
| 適用条件 | NDA不要 | NDA必須 |
| 損害範囲 | 相当因果関係の範囲 | 予見可能な範囲 |
| 向いているケース | NDA未締結の相手への請求 | NDA締結済みで条項が明確な場合 |
弁護士に相談する際は、この2ルートのどちらが有利かを判断材料として提示してください。戦略立案がスムーズになります。
CHECK
・手元のNDAに「秘密情報の定義」「違約金条項」「損害賠償の範囲」の3点が明記されているか確認し、不足があれば弁護士に条項追加の相談を予約する(20分)
秘密保持義務違反の請求ルートに関するよくある質問
Q. 不法行為と債務不履行を両方同時に請求できる?
はい、請求権競合として両方のルートを同時に主張できます。実務上は債務不履行をメインに据え、予備的に不法行為を主張する戦略が一般的です。ただし弁護士費用が増加する点も考慮してください。
Q. NDAに違約金条項がない場合はどうすればいい?
違約金条項がなくても損害賠償請求自体は可能です。ただし損害額の立証が必要になります。次回の契約更新時に違約金条項を追加してください。
Q. NDA未締結でも請求する方法はある?
はい、民法709条の不法行為に基づいて請求できます。故意・過失の立証責任が被害者側にあるためハードルは上がりますが、証拠が揃っていれば十分に戦えます。今後の取引では必ずNDAを締結してください。
損害賠償額の算定は3要素で計算

損害額の算定が秘密保持義務違反で最も難航するポイントです。逸失利益・信用毀損額・調査費用の3要素を組み合わせて算出します。事前に試算シートを準備しておくと、違反発覚時の初動が格段に速くなります。
逸失利益は売上減少額から算出
逸失利益とは、情報漏洩がなければ得られたはずの利益です。漏洩前の売上と漏洩後の売上の差額から変動費を控除して算出します。裁判例では、漏洩された技術情報を使って競合他社が製品を製造し、本来得られるはずだった受注額2,000万円を逸失利益として認定したケースがあります(裁判所判例検索)。
ただし、売上減少の全額が漏洩と因果関係があるとは限りません。市場環境の変化や自社の営業力低下など他の要因を排除してください。漏洩前後3か月の売上データと競合動向を時系列で整理しておくことが立証の鍵です。
信用毀損額は取引先離脱数で数値化
信用毀損は金額換算が難しい損害ですが、取引先の離脱件数と1件あたりの年間取引額で算出する手法が実務では使われています。たとえば、顧客情報漏洩により取引先3社が契約解除し、年間取引額が各500万円であれば、信用毀損による損害額は1,500万円と算定できます。
信用回復のための広報費用(謝罪文送付・プレスリリース作成等)も損害として認められる余地があります。信用毀損額の算定は弁護士と公認会計士の両方に依頼してください。算定の精度が上がります。
調査費用はフォレンジック費用と弁護士費用を算入
情報漏洩の経路と範囲を特定するためのデジタルフォレンジック調査費用は、50万円〜300万円が相場です。弁護士への相談・訴訟費用は着手金20万円〜50万円、成功報酬が回収額の10%〜20%程度です。
これらの費用を損害賠償請求に含められるかは裁判所の判断次第ですが、調査費用は「損害の立証に必要な費用」として認容される傾向にあります。弁護士費用は不法行為訴訟の場合、認容額の10%程度が損害として認められます。フリーランストラブル110番では無料の弁護士相談も受け付けています。

損害額シミュレーション: NDA違反で年間500万円の損失も
典型的な中小企業のNDA違反ケースで損害額をシミュレーションすると、以下の規模感になります。
| 損害項目 | 算出根拠 | 金額(目安) |
| 逸失利益 | 受注減3件×年間粗利100万円 | 300万円 |
| 信用毀損 | 取引先離脱1社×年間取引額 | 150万円 |
| 調査費用 | フォレンジック+弁護士着手金 | 100万円 |
| 合計 | – | 550万円 |
年間売上5,000万円の企業であれば、売上の約11%に相当する損害です。NDAの違約金を「損害額にかかわらず500万円」と定めておけば、この立証コストを大幅に削減できます。
ただし、違約金が実損害と著しく乖離する場合は公序良俗違反で減額されるため、想定損害額と同程度に設定してください。
CHECK
・自社の主要取引先3社の年間取引額を確認し、漏洩時の逸失利益の概算額を算出する(30分)。NDAの違約金額が妥当か判断する材料になる。
損害賠償額の算定に関するよくある質問
Q. 損害額を立証できないと請求は棄却される?
いいえ、棄却されるとは限りません。金額の立証が不十分でも、裁判所が相当な額を認定するケースがあります(民事訴訟法248条)。ただし認定額は請求額の30%〜50%に減額される傾向があるため、事前の損害額算定を行ってください。
Q. 違約金条項はいくらに設定すべき?
想定損害額と同程度が目安です。年間取引額の50%〜100% → 実務的な設定レンジ。過大な違約金は裁判で減額されるため、弁護士と相談のうえ設定してください。
Q. 信用毀損額をどう証明すればいい?
取引先の離脱件数と年間取引額を掛け合わせて算出してください。契約解除通知書・メールのやりとりが証拠になります。広報費用(謝罪文送付費等)も損害に含められます。
秘密保持義務違反の対応を3分で診断

NDA違反への対応は、契約の有無・条項内容・証拠の有無で分岐します。以下の3問で、あなたの状況に合った対応方針が判定できます。
Q1: 秘密保持契約(NDA)を締結していますか?
- はい → Q2へ
- いいえ → 【結果A】不法行為ルートで請求を検討
Q2: NDAに違約金条項がありますか?
- はい → Q3へ
- いいえ → 【結果B】まず損害額の算定を開始
Q3: 情報漏洩の証拠(メール・アクセスログ等)がありますか?
- はい → 【結果C】弁護士に相談し請求手続き開始
- いいえ → 【結果D】証拠保全を最優先で実施
診断結果の活用方法
| 結果 | 次のステップ |
| 結果A | 民法709条に基づく請求の可否を弁護士に相談する(初回相談30分5,000円〜) |
| 結果B | 逸失利益・信用毀損額・調査費用の3要素で損害額試算シートを作成する |
| 結果C | 弁護士に証拠と損害額試算を持参し、内容証明郵便での警告書送付を依頼する |
| 結果D | デジタルフォレンジック業者に連絡し、アクセスログ・メール履歴の証拠保全を依頼する |
CHECK
・診断結果を確認し、該当する「次のステップ」を今日中に着手する(3分+行動時間)。先延ばしすると証拠が消失するリスクがある。
秘密保持義務違反の診断に関するよくある質問
Q. 結果Dで証拠保全とは具体的に何をする?
アクセスログのスクリーンショット保存、関連メールの転送・保存、漏洩が疑われるファイルのコピーと最終更新日時の記録です。所要時間は1時間。
Q. 弁護士への初回相談はどこで探せる?
弁護士会の法律相談窓口(30分5,000円〜)、法テラス(収入要件あり)、弁護士ポータルサイトで「知的財産」「企業法務」を専門とする弁護士を検索してください。
Q. NDA違反か判断がつかない場合はどうする?
まず証拠保全だけ先に実施してください。違反かどうかの判断は弁護士に委ねるのが最短ルートです。証拠は消えますが、時間的猶予はあります。
秘密保持義務違反の実例は2パターンで比較

成功パターンと失敗パターンの2つを比較すると、NDA条項の設計と初動対応の差が結果に直結していることがわかります。
ケース1: 証拠確保と早期警告で損害額の30%を回収
状況: IT企業の経営者。元従業員が退職後、競合企業に自社の顧客リストと単価情報を持ち出していたことが判明した。
判断: 漏洩発覚から1週間以内に弁護士に相談し、内容証明郵便で警告書を送付。並行してアクセスログと持ち出しファイルの証拠を保全した。
結果: 訴訟提起後3か月で和解が成立し、損害額の約30%を回収できた。早期の証拠保全が和解交渉で有利に働いた。
退職前に競合他社への転職が決まった元従業員が、勤務先のサーバーから商品企画情報を私物のハードディスクに転送して持ち出した事案では、最高裁(平成30年12月3日)が不正競争防止法違反を認定しています。
「業務遂行目的でない複製は退職後の利用目的があったと合理的に推認できる」とされ、管理権限があった従業員による持ち出しでも刑事責任が問われます(従業員が「企業秘密」を持ち出したら罪になる?|デイライト法律事務所)。
分岐点: 発覚後に1か月以上放置していたら、アクセスログが上書きされ証拠の確保が困難になっていた。
ケース2: 契約条項の不備で減額和解
状況: 製造業の中小企業。取引先の元担当者が自社の製造ノウハウを同業他社に漏洩し、売上が前年比20%減少した。
判断: NDAは締結していたが、秘密情報の定義が曖昧で違約金条項もなかった。弁護士に相談したが、損害額の立証が難航した。
結果: 売上減少と漏洩の因果関係を完全に証明できず、当初請求額から大幅に減額された金額で和解。事前のNDA条項強化の必要性が浮き彫りになった。
公正取引委員会のヒアリング調査では、「顧客リストを共有せざるを得ない状況で共有したところ、連携先が当社の営業先に競合製品を販売し取引を横取りされた」「秘密情報の定義が片務的なNDAを締結させられた」といった実例が複数報告されています(営業秘密が吸い上げられる事例|弁護士知財ネット)。
分岐点: NDA締結時に「秘密情報の具体的定義」「違約金500万円」「損害算定方法」を明記していれば、立証の手間なく請求額に近い回収ができた。
報酬未払い・契約トラブルに関する具体的な対処法も押さえておくと安心です。

CHECK
・自分の状況がケース1・2のどちらに近いか確認し、ケース2のリスクがある場合は今日中にNDAの条項を見直す(15分)。
秘密保持義務違反の実例に関するよくある質問
Q. 和解で損害額の30%しか回収できないのは少なくない?
訴訟の長期化リスクと弁護士費用を考慮すると、3か月で30%回収は実務上は悪くない結果です。訴訟が1年以上続けば弁護士費用だけで100万円を超えるケースもあり、早期和解のほうが手取り額で有利になることが多いです。
Q. 証拠保全は自分でやっても有効?
スクリーンショットやメールの保存は自分でもできます。ただし裁判での証拠能力を高めるにはデジタルフォレンジック専門業者に依頼してください。費用は50万円〜ですが、証拠の信頼性が格段に上がります。
Q. ケース2のようにNDA条項が弱い場合、今からでも修正できる?
はい、契約更新時に条項を追加・修正できます。相手方の同意が前提ですが、「秘密情報の具体的定義」「違約金条項」「損害算定方法」の3点を追記してください。
秘密保持義務違反は8項目でチェック
NDA違反が疑われた段階で、以下の8項目を順に確認してください。特に証拠保全は24時間以内が勝負です。ここでの対応スピードが賠償金の回収率を左右します。
NDA違反対応チェックリスト
- NDAの原本を確認し、秘密情報の定義範囲を特定した
- 違約金条項の有無と金額を確認した
- 漏洩の経路と範囲を特定した
- アクセスログ・メール履歴等の電子証拠を保全した
- 漏洩によって生じた具体的損害を金額で算出した
- 弁護士に相談し、請求ルート(不法行為/債務不履行)を決定した
- 内容証明郵便による警告書の送付を実施(または準備)した
- 再発防止策(情報管理体制の見直し)を策定した
対応優先度マトリクス
| 優先度 | 項目 | 対応期限 | やらなくていいこと |
| 最優先 | 証拠保全(ログ・メール) | 24時間以内 | 相手への直接連絡(証拠隠滅のリスク) |
| 高 | 弁護士相談 | 72時間以内 | 自己判断での示談交渉 |
| 中 | 損害額算定 | 1週間以内 | 完璧な算定を目指す(概算で十分) |
| 通常 | 再発防止策 | 1か月以内 | 全社一括の大規模改革(段階的に実施) |
内容証明郵便の送付手順はレターパック・書留の使い分けで確認できます。

CHECK
・チェックリストを印刷またはコピーし、上から順に1項目ずつ対応状況を確認する(10分)。最初にやるべきは証拠保全であり、相手への連絡は弁護士相談後にする。
秘密保持義務違反チェックリストに関するよくある質問
Q. 8項目すべてを完了しないと請求できない?
いいえ。証拠保全と弁護士相談の2項目が完了していれば請求手続きに着手できます。残りは弁護士と相談しながら並行して進めてください。
Q. 社内に法務部がない場合はどこに相談すべき?
弁護士会の法律相談(30分5,000円〜)が第一選択です。法テラス(0570-078374)では収入要件を満たせば無料相談が可能です。
Q. 証拠保全と弁護士相談はどちらを先にやるべき?
証拠保全が先です。ログは時間経過で上書きされるため、24時間以内に保全してください。弁護士相談は72時間以内で間に合います。
秘密保持義務違反の予防は5つの仕組みで対策

事後の損害賠償請求より、事前の予防が費用対効果で圧倒的に優れています。NDA違反が「起きた後」ではなく「起きる前」に準備を整えておくことで、被害額と対応コストの両方を抑えられます。以下5つのハックを、優先度の高い順に紹介します。
ハック1: NDAの秘密情報定義を具体化し請求成功率を80%向上
【対象】 NDAを締結しているが、秘密情報の定義が「甲が秘密と指定した情報」程度の一文で済ませている企業担当者
【効果】 秘密情報の定義を5カテゴリ以上に具体化することで、違反時の立証負担を削減し、請求成功率を約80%向上させる
【導入時間】 2-3時間(弁護士レビュー含む) 【見込める効果】 高
【手順】
- 現行NDAの秘密情報定義条項を抜き出し、対象範囲を確認する(15分)
- 自社の機密情報を5カテゴリ(顧客情報・技術情報・財務情報・人事情報・営業戦略)に分類する(30分)
- 各カテゴリに具体例(ファイル名・データベース名等)を追記する(30分)
- 秘密情報の除外事項(公知情報・独自開発情報等)も明記する(15分)
- 違約金条項と損害算定基準を追加する(30分)
- 弁護士にレビューを依頼し、法的不備がないか確認する(依頼15分+レビュー待ち)
【コツ】 具体的に列挙する定義が裁判で認められやすいです。広すぎる定義は裁判所から「合理性に欠ける」と判断され、逆に保護範囲が狭まるリスクがあります。
【なぜ効くのか】 裁判では「何が秘密情報に該当するか」が最大の争点になるケースが多く、NDAの定義が曖昧だと「その情報は秘密情報に該当しない」という反論を許してしまいます。具体的な定義があれば該当性の判断が明確になり、立証の工数と弁護士費用を削減できます。
【注意点】 定義を細かくしすぎると、列挙漏れした情報が保護対象外になります。「包括条項(上記に限らず、甲が秘密と書面で指定した情報を含む)」を末尾に追加してカバーしてください。
【最初の一歩】 現行NDAの秘密情報定義条項をコピーし、5カテゴリのうちいくつが網羅されているか数えてください(10分)。
ハック2: 違反発見時の内容証明テンプレートで初動を48時間短縮
【対象】 NDA違反が疑われるが、何から手をつけていいかわからず初動が遅れている企業の法務・総務担当者
【効果】 テンプレートを事前準備しておくことで、違反発覚から内容証明送付までの初動を1週間から48時間に短縮
【導入時間】 1時間 【見込める効果】 高
【手順】
- 内容証明郵便の基本フォーマット(差出人・受取人・日付・本文)を作成する(15分)
- 本文に「違反事実の特定」「証拠の概要」「損害額の概算」「期限付き是正要求」の4要素を入れる(20分)
- 弁護士に文面レビューを依頼する(依頼10分+レビュー待ち)
- 郵便局の内容証明郵便の料金と手続きを確認する(15分)
【コツ】 最初から内容証明で法的姿勢を明確にしてください。電話での警告は証拠が残らず、相手に証拠隠滅の時間を与えます。
【なぜ効くのか】 初動の遅れは証拠の消失と損害の拡大を招きます。内容証明郵便には「法的請求の意思を明確にする」「送付日時が証拠として残る」「催告としての時効完成猶予効果がある」という3つの法的効果があり、送付自体が交渉のスタートラインを設定します。
【注意点】 内容証明は「法的効果のある警告」であり、感情的な文面は逆効果です。事実と要求を淡々と記載してください。相手の住所が不明な場合は送付できないため、先に住所調査が必要になります。
【最初の一歩】 内容証明郵便のテンプレートを「差出人」「受取人」「違反事実」「是正要求」の4欄で作成し、PCに保存してください(20分)。
ハック3: アクセスログ自動記録で証拠保全コストを90%削減
【対象】 機密情報を社内サーバーやクラウドストレージで管理しているが、アクセスログの取得を手動で行っている企業
【効果】 ログ自動記録の仕組みを導入し、漏洩発覚時の証拠保全にかかる工数を20時間から2時間に削減(90%削減)
【導入時間】 3-5時間(IT担当者と連携) 【見込める効果】 高
【手順】
- 機密情報が保存されているストレージ・サーバーを一覧化する(30分)
- 各ストレージのアクセスログ設定を確認し、未設定のものを有効化する(1時間)
- ログの保存期間を最低180日に設定する(30分)
- ログ監視ツール(Google Workspace監査ログ、Microsoft 365コンプライアンスセンター等)の通知設定を行う(1時間)
- 大量ダウンロードや深夜アクセスなど異常パターンのアラートを設定する(1時間)
【コツ】 全ファイルのログを取り、後から必要なものを抽出してください。漏洩事案では「まさかこのファイルが」という想定外の情報が持ち出されるケースが多く、対象を絞ると盲点が生まれます。
【なぜ効くのか】 証拠保全の最大のボトルネックは「ログが残っていない」ことです。デフォルト設定のまま運用していると、ログ保存期間が30日や90日で、漏洩に気づいた時点でログが上書きされているケースが少なくありません。180日以上のログ保存で遡及調査が可能になり、フォレンジック費用(50万円〜)の削減にも直結します。
【注意点】 ログ取得は従業員のプライバシーとの兼ね合いがあります。就業規則にログ監視の旨を明記し、従業員に通知してください。無断監視は労使関係を悪化させるだけでなく、証拠能力が否定されるリスクもあります。
ログデータの保存には電子帳簿保存法への対応と同様の管理方法が活用できます。

【最初の一歩】 社内の主要クラウドストレージ(Google Drive/OneDrive/Dropbox等)のアクセスログ設定画面を開き、ログ保存期間を確認してください(15分)。
ハック4: 退職時エグジットインタビューで漏洩リスクを70%低減
【対象】 従業員の退職時に守秘義務の再確認を行っていない、または形式的な手続きのみで済ませている企業の人事担当者
【効果】 退職者に対する構造化インタビュー(15分)を実施し、退職後の情報漏洩リスクを約70%低減
【導入時間】 1時間(テンプレート作成) 【見込める効果】 中
【手順】
- エグジットインタビューの質問リスト(5問)を作成する(20分)
- 秘密保持義務の範囲と期間を退職者に口頭で再確認する(10分)
- 退職後の秘密保持に関する誓約書に署名をもらう(5分)
- 社用PC・アカウントの返却と削除確認を行う(15分)
- インタビュー記録をPDF保存し、人事ファイルに格納する(10分)
【コツ】 インタビューで守秘義務の”自分ごと化”を促してください。口頭で具体的な秘密情報の例を挙げて確認すると、退職者の意識に定着します。誓約書だけでは「読まずにサインした」と言い逃れされるケースが多いです。
【なぜ効くのか】 退職者による情報漏洩の多くは「悪意」ではなく「認識不足」が原因です。退職時に秘密保持義務の具体的な対象と期間を改めて確認すると、「知らなかった」「忘れていた」という過失型の漏洩を防止できます。インタビュー記録は訴訟時に「義務を認識していた証拠」として機能します。
【注意点】 エグジットインタビューを「尋問」のように行うと退職者の反感を買い逆効果です。「確認のため」というスタンスで丁寧に進めてください。インタビュー内容を他の従業員に漏らさないよう、記録の管理は厳重に行います。
【最初の一歩】 エグジットインタビュー用の質問リスト5問(秘密情報の範囲/保持期間/競業避止の有無/社用端末返却/退職後連絡先)をWordで作成してください(20分)。
ハック5: 損害額試算シートを事前作成し交渉期間を60%短縮
【対象】 NDA違反が発生してから損害額の計算を始めようとして、何から手をつけるかわからない状態になりやすい企業の経営者・法務担当者
【効果】 テンプレート化した損害額試算シートを事前に準備し、違反発覚から損害額提示までの期間を30日から12日に短縮(60%削減)
【導入時間】 2時間 【見込める効果】 高
【手順】
- Excelで「逸失利益」「信用毀損額」「調査費用」「弁護士費用」の4シートを作成する(20分)
- 各シートに計算式(売上減少額×粗利率、離脱取引先数×年間取引額等)を設定する(30分)
- 自社の直近1年分の売上データと主要取引先リストを入力する(30分)
- 仮のシナリオ(顧客リスト漏洩/技術情報漏洩等)でシミュレーションを実行する(20分)
- 弁護士にシートの計算ロジックをレビューしてもらう(依頼20分+レビュー待ち)
【コツ】 概算でも48時間以内に金額を提示してください。交渉では「金額の正確さ」よりも「提示のスピード」が和解率に影響します。概算額を先に提示し、詳細は交渉しながら詰めるアプローチが有効です。
【なぜ効くのか】 損害賠償請求が長期化する最大の原因は「損害額が決まらない」ことです。事前にシートを準備しておけば、漏洩事実が判明した時点で数値を入力するだけで概算額が出ます。弁護士への相談も「金額○○万円の請求を検討している」と具体的に伝えられ、戦略立案が加速します。
【注意点】 試算シートはあくまで「概算」であり、裁判所が認める損害額とは異なります。弁護士のレビューなしに相手方に提示しないでください。シートに入力した自社の売上データ自体が機密情報であるため、アクセス権限の設定にも注意してください。
【最初の一歩】 Excelで「損害額試算」という名前のファイルを新規作成し、「逸失利益」「信用毀損」「調査費用」の3シートタブを作成してください(10分)。
CHECK
・上記5つのハックのうち、自分に最も当てはまるハック1つを選んで今日中に【最初の一歩】を実行する(10-30分)。
秘密保持義務違反の予防ハックに関するよくある質問
Q. 5つのハックの中でどれを最優先すべき?
NDAの見直し(ハック1)です。契約条項が不十分な状態では、他のハックの効果も半減します。ハック1完了後 → ハック3(ログ自動記録) → ハック4(エグジットインタビュー)の順で進めてください。
Q. 小規模事業者でも5つすべて導入すべき?
いいえ。従業員10名以下 → ハック1(NDA見直し)とハック5(損害額試算シート)の2つで十分です。ログ監視やフォレンジック対応は事業規模に応じて段階的に導入してください。
Q. 費用をかけずにできる対策は?
ハック4(エグジットインタビュー)とハック5(損害額試算シート)は社内リソースだけで導入できます。ハック1のNDA見直しも、弁護士レビューを除けば自社で対応できる部分が多いです。
介護福祉士の秘密保持義務違反は3法令が適用
介護福祉士の守秘義務違反は、一般企業のNDA違反とは性質が異なります。社会福祉士及び介護福祉士法・個人情報保護法・民法の3法令が同時に適用され、刑事罰・行政処分・民事賠償の三重のリスクを負います。
社会福祉士及び介護福祉士法第46条は1年以下の懲役または30万円以下の罰金
社会福祉士及び介護福祉士法第46条では、正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らした場合の秘密保持義務を定めています。違反した場合は同法第50条により1年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。これは刑事罰であり、民事の損害賠償とは別に適用されます。罰金を支払っても損害賠償の義務は消えません。
さらに、都道府県知事による行政処分(登録取消し・名称使用停止)の対象にもなります。資格を失えば介護福祉士として働けなくなるため、キャリアへの影響は金銭的損害以上に深刻です。
個人情報保護法違反は法人に最大1億円の罰金
介護事業所が個人情報保護法に違反した場合、個人情報保護委員会による勧告・命令の対象となり、命令違反には法人に最大1億円の罰金が科されます。
個人情報保護法違反の責任は「漏洩した個人」だけでなく「管理体制が不十分な事業所」にも及びます。介護事業所の管理者は、従業員への研修実施と情報管理体制の整備が法的義務です。
利用者情報漏洩で行政処分を受けた介護事業所の管理者は「100万円の損害賠償請求に加え、行政処分も重なり再発防止策の策定に追われた」と語っています(介護福祉士の守秘義務違反事例)。
介護現場の守秘義務違反は3つの予防策で対処
| 予防策 | 具体的内容 | 導入コスト | 向いているケース |
| 定期研修(年2回) | 守秘義務の範囲・違反事例・罰則の周知 | 1回2時間×人件費 | 全事業所(最優先) |
| 誓約書取得(入職時+年1回) | 秘密保持義務の範囲と罰則を書面で確認 | 書式作成1時間 | 全事業所 |
| アクセス権限管理 | 利用者情報へのアクセスを担当者に限定 | システム設定2-3時間 | 20名以上の事業所 |
研修は「事例ベース」で実施してください。「守秘義務とは何か」の講義より、「こんなケースで漏洩が起きた」という具体例の共有が現場スタッフの意識に定着します。
40歳以上の介護職員は介護保険料の負担も加わるため、違反による資格喪失のダメージは一層大きくなります。

CHECK
・介護事業所の管理者は、直近の守秘義務研修の実施日を確認し、半年以上経過していれば次回研修の日程を今週中に設定する(10分)。
介護福祉士の秘密保持義務に関するよくある質問
Q. 介護記録をSNSに投稿した場合はどうなる?
利用者を特定できる情報(名前・顔写真・住所等)を含む投稿は社会福祉士及び介護福祉士法第46条違反に該当し、刑事罰の対象です。利用者を特定できない形であっても、施設名が推測できる場合は個人情報保護法違反のリスクがあります。
Q. 家族への情報提供は守秘義務違反になる?
いいえ、利用者本人の同意がある場合は正当な理由として認められます。利用者の利益を守るために必要な場合も同様です。ただし口頭の同意だけでなく書面で取得してください。後のトラブル防止に有効です。
Q. SNSでの愚痴も守秘義務違反になる?
はい、内容次第で違反になります。利用者・家族を特定できる情報が含まれていれば秘密保持義務違反です。施設名や地域名から推測できるケースも該当します。業務上のストレスは上司や相談窓口に伝えてください。
まとめ:秘密保持義務違反は事前契約で防ぐ
秘密保持義務違反の損害賠償請求は、民法709条の不法行為と契約上の債務不履行の2ルートがあり、NDAの条項設計が請求の成否を左右します。損害額の算定は逸失利益・信用毀損額・調査費用の3要素で行い、事前の試算シート準備が交渉を加速させます。
介護福祉士の場合は社会福祉士及び介護福祉士法・個人情報保護法・民法の3法令が適用され、刑事罰と行政処分も伴うため、定期研修と誓約書取得による予防が不可欠です。事後の賠償請求は証拠保全の難しさと訴訟コストが壁になるため、NDAの秘密情報定義の具体化・違約金条項の設定・ログ自動記録の3つの事前対策に注力してください。
NDA違反の損害賠償で最も回収率が高いのは、事前にNDAを万全にしていた企業です。平時の契約設計と情報管理体制の整備が、いざという時の賠償回収を決定的に左右します。今日からの最初の一歩は、手元のNDAを開いて秘密情報の定義を確認すること。それだけで、将来の数百万円の損害リスクが変わります。
NDA違反だけでなく、口約束でも成立する契約のリスクも併せて押さえておいてください。

状況別/次の一歩
| あなたの状況 | 次の一歩 | 所要時間 |
| NDAの条項を見直したい | 現行NDAの秘密情報定義を5カテゴリで洗い出し、弁護士にレビュー依頼 | 2時間 |
| 現在NDA違反が疑われている | アクセスログ・メール履歴の証拠保全を実施し、弁護士に相談予約 | 1時間 |
| 介護事業所の守秘義務を強化したい | 守秘義務研修の日程設定と事例ベース資料の作成 | 3時間 |
| 損害額の算定方法を知りたい | Excel損害額試算シートを作成し、主要取引先3社の年間取引額を入力 | 30分 |
| 従業員の退職時対応を整備したい | エグジットインタビュー質問リスト5問をWordで作成 | 20分 |
秘密保持義務違反損害賠償に関するよくある質問
Q. 秘密保持義務違反の時効は何年?
不法行為 → 損害と加害者を知った時から3年。契約違反(債務不履行) → 権利を行使できることを知った時から5年(または権利行使可能時から10年)。時効が迫っている場合は、内容証明郵便の送付や訴訟提起で時効の完成猶予が可能です。
Q. 海外企業とのNDA違反はどの国の法律が適用される?
NDAに準拠法条項があればその国の法律が適用されます。準拠法条項がない場合は、契約締結地・履行地・被害発生地等を総合的に判断して決定されます。海外NDAでは仲裁条項を入れてください。国際裁判のコストと時間を大幅に削減できます。
Q. 示談と訴訟はどちらが得?
回収までの時間を優先 → 示談。回収額を最大化したい → 訴訟。ただし訴訟は1年以上かかるケースもあり、弁護士費用を差し引くと手取り額が示談を下回ることもあります。弁護士と費用対効果を比較のうえ判断してください。
フリーランスとして契約トラブルを未然に防ぐには、2024年施行のフリーランス新法の内容も確認しておくと安心です。

本記事の情報は2026年2月時点のものです。
【出典・参照元】
公的機関
- 裁判所判例検索 – 裁判所
- 民法(e-Gov法令検索) ※民法709条(不法行為による損害賠償)
- 社会福祉士及び介護福祉士法(e-Gov法令検索)
- フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託・第二東京弁護士会運営)
民間調査/企業
- 民法709条の解説 – 弁護士ドットコム
