報酬が支払われない、契約内容が曖昧、取引先からの理不尽な要求…。
フリーランスとして働いていると、こうしたトラブルに遭遇する可能性は決して低くはありません。「どこに相談すればいいか分からない」「弁護士に頼むとお金がかかる」と、泣き寝入りしてしまうケースも多いのが現実です。
実は、厚生労働省が実施する「フリーランストラブル110番」という無料相談窓口があります。弁護士に無料で相談でき、トラブル解決に向けた具体的なアドバイスから和解斡旋まで受けられる制度です。2024年秋には特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス保護新法)も施行され、法的保護はさらに強化されました。
この記事の目的は、フリーランスの方がトラブルに巻き込まれた際に適切な相談先を見つけ、泣き寝入りせずに解決への一歩を踏み出せるよう支援することです。
この記事でわかること
- フリーランストラブル110番の具体的なサービス内容と利用方法
- 相談できるトラブルの種類と実際の解決事例
- 相談前に準備すべき書類と効果的な相談の進め方
フリーランストラブル110番は厚生労働省の無料法律相談窓口
フリーランストラブル110番は、フリーランス・個人事業主が取引先とのトラブルに巻き込まれた際、弁護士に無料で相談できる窓口です。厚生労働省が実施し、第二東京弁護士会が運営を受託しています。
このサービスが設置された背景には、働き方の多様化があります。副業解禁や企業のアウトソーシング拡大により、業務委託契約で働く個人事業主が急増しました。でも、フリーランスは労働基準法上の「労働者」に該当しないため、労働基準監督署に相談しても対応してもらえないケースが多く、トラブルが頻発していました。
フリーランストラブル110番の主な特徴は以下の3点です。
| 特徴 | 内容 |
| 完全無料 | 相談料・手続き費用すべて無料 |
| 専門家対応 | 法律の専門家である弁護士が対応 |
| 多様な相談方法 | 電話・メール・対面・オンライン対応可 |
この窓口は、報酬の未払い、契約の曖昧さ、ハラスメントといったフリーランス特有のトラブルに特化しており、単なる法律相談だけでなく、和解斡旋という実際の解決手続きまでサポートしてくれます。
CHECK
厚生労働省実施で弁護士に無料相談できる窓口
労働基準監督署では対応困難なフリーランス特有のトラブルに対応
相談だけでなく和解斡旋による実際の解決まで支援
フリーランストラブル110番で相談できる3つのトラブル類型
フリーランストラブル110番では、フリーランス・個人事業主が業務上直面しやすい主要なトラブルに対して相談を受け付けています。
ここでは、公式に対応が明示されている3つのトラブル類型について、具体的な事例とともに解説します。
①曖昧な契約に関するトラブル
契約内容が不明確なまま作業を進めてしまい、後からトラブルになるケースです。フリーランスと発注者の間では、正式な契約書を交わさず口頭やメールだけでやり取りを始めることが少なくありません。
典型的な事例
プログラマーのAさんは、得意先から紹介されたクライアントから「信頼できる人だから大丈夫」といわれ、契約書を交わさずにシステム開発を開始しました。納品後、クライアントから「イメージと違う」と受け取りを拒否され、報酬も支払われませんでした。
契約書がないため、どこまでの作業範囲が合意されていたのか、納品物の仕様が何だったのかを証明できず、途方に暮れています。
こうしたケースでは、以下の点が問題になります。
契約の曖昧さが引き起こす具体的な問題
- 作業範囲(スコープ)が明確でない
- 報酬額や支払い時期が書面で確定していない
- 納品物の仕様・品質基準が合意されていない
- 修正回数や追加作業の扱いが不明確
- 著作権や成果物の権利帰属が決まっていない
2024年秋に施行されたフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、発注者には業務委託契約において書面またはメールでの条件明示が義務付けられました。契約が曖昧な状態で困っている場合、この法律に基づいて発注者側に書面交付を求めることが可能です。
フリーランストラブル110番では、こうした新法の解釈や具体的な交渉方法についても相談できます。
②ハラスメントに関するトラブル
企業内の上司・部下間のパワハラとは異なり、取引先(発注者)からフリーランスに対して行われるハラスメントが対象です。業務委託契約という立場上、フリーランスは「断ると今後の仕事がなくなるかもしれない」という不安から、理不尽な要求を受け入れざるを得ない状況に置かれがちです。
典型的な事例
WebデザイナーのBさんは、あるクライアントから度重なる修正依頼を受けていました。当初の契約では「修正2回まで」となっていたにもかかわらず、10回以上の修正を無償で求められ、「これができないなら今後の依頼は考え直す」といわれました。
また、深夜や休日にも頻繁に連絡があり、即座の対応を求められています。
フリーランスに対するハラスメントには、以下のようなパターンがあります。
| ハラスメントの種類 | 具体例 |
| 過剰な要求 | 契約外の無償作業を繰り返し要求される |
| 圧力的な言動 | 「仕事を出さない」と脅される/暴言を吐かれる |
| 不当な要求 | 深夜・休日の対応を当然のように求められる |
| 人格否定 | 能力や人格を否定する発言をされる |
フリーランス保護新法では、発注者によるハラスメント行為も規制対象となりました。具体的には、正当な理由なく著しく低い報酬額を定めること、受領拒否、報酬の減額、不当な給付内容の変更などが禁止されています。
フリーランストラブル110番では、自分が受けている扱いがハラスメントに該当するかどうかの判断から、具体的な対応策まで相談できます。
実務において重要なのは、ハラスメントの証拠を残すことです。メールやチャットツールでのやり取り、電話の内容を記録したメモ(日時、相手、内容を詳細に記載)などが、後の交渉や和解斡旋の場で有力な証拠となります。
ATTENTION
証拠収集に関する注意事項:
自己防衛目的での通話録音は一般的に適法とされていますが、使用目的や公開の有無により法的評価が異なる場合があります。証拠収集方法については、弁護士に相談することをお勧めします。
③報酬の未払いに関するトラブル
フリーランスのトラブルで最も多いのが、報酬の未払いや一方的な減額です。納品したにもかかわらず支払いがされない、当初の約束より低い金額しか支払われない、支払い期限を過ぎても連絡がつかないといったケースが該当します。
典型的な事例
ライターのCさんは、記事を納品した後、クライアントから「方向性が違う」といわれ、一方的に報酬を減額されました。当初の契約では1記事50,000円だったものが、「この内容では30,000円しか払えない」と通告され、修正を求めても「もういい」と受け取りを拒否されています。
結局、時間をかけて制作した記事の対価を十分に受け取れない状況です。
他にも以下のように、報酬未払いのパターンは多岐にわたります。
報酬トラブルの主なパターン
- 納品後に連絡が取れなくなる
- 「クオリティが低い」などの理由で一方的に減額される
- 支払い期限を過ぎても振り込まれない
- 追加作業を理由に支払いを先延ばしにされる
- 「資金繰りが厳しい」といわれて支払いを拒否される
下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、発注者と受注者の資本金規模によって適用対象が限定されています。一方、フリーランス保護新法では資本金要件がないため、下請法の対象外となっていたフリーランスも法的保護を受けられるようになりました。報酬の支払い期限は、原則として成果物を受領した日から原則60日を超えない期間でとされています。
フリーランストラブル110番では、報酬未払いに対して以下のような支援を受けられます。
まず、契約内容や納品の事実を証明する書類(メール、納品物のスクリーンショット、請求書など)をもとに、法的に有効な請求方法をアドバイスしてもらえます。
次に、発注者との交渉が難航している場合は、和解斡旋という手続きを通じて第三者の弁護士が間に入り、双方の主張を調整して解決を図ることも可能です。
たとえば、映像制作のフリーランスの事例では、「すべて任せる」といわれて制作したにもかかわらず、「欲しいものと違う」と受け取りを拒否され、報酬も支払われなかったケースがありました。こうした場合でも、制作過程でのやり取りや納品の事実を証明できれば、法的に報酬請求が認められる可能性があります。
CHECK
契約の曖昧さ、ハラスメント、報酬未払いの3類型に対応
フリーランス保護新法により発注者の書面交付義務が明確化
証拠の記録・保存が後の解決手続きで重要な役割を果たす
フリーランストラブル110番のサポート内容と特徴
フリーランストラブル110番は、単なる法律相談窓口にとどまらず、トラブルの解決に向けた実践的なサポートを提供しています。
ここでは、利用できる5つの主要なサービスについて、その内容と活用方法を詳しく解説します。
①弁護士による専門的な法律相談
法律の専門家である弁護士が直接対応するため、フリーランス特有の法律問題について正確なアドバイスを受けられます。フリーランス保護新法、下請法、民法上の契約不履行、著作権法など、複数の法律が絡み合う複雑な問題にも対応可能です。
弁護士相談では、以下のような内容を確認できます。
相談で明らかになること
- 自分の状況が法的にどう評価されるか
- 発注者の行為が違法または不当に該当するか
- どのような法的手段が取れるか(交渉、和解斡旋、訴訟など)
- 証拠として有効な書類は何か
- 今後同様のトラブルを防ぐための予防策
相談の際には、感情的にならず事実関係を冷静に整理して伝えることが重要です。「腹が立った」「許せない」という感情は理解できますが、弁護士が法的判断を下すには、「いつ」「誰が」「何をした」という客観的な事実が必要です。
②完全無料での利用
厚生労働省の委託事業として運営されているため、相談料や手続き費用は一切かかりません。通常、弁護士に相談する場合、初回相談だけで30分5,000円〜10,000円程度の費用がかかることが一般的ですが、この窓口ではすべて無料で利用できます。
無料で利用できる範囲には以下が含まれます。
| 無料で利用できるサービス | 内容 |
| 初回相談 | 電話・メールでの相談 |
| 対面・オンライン相談 | 予約制での詳細相談 |
| 和解斡旋手続き | 第三者弁護士による調整 |
| 他機関の紹介 | 適切な相談先の案内 |
報酬未払いが数万円〜数十万円の場合、弁護士費用が回収額を上回ってしまい、泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくありません。完全無料のこのサービスは、少額のトラブルでも安心して相談できる貴重な窓口です。
③秘密厳守の徹底
相談内容や個人情報は厳格に管理され、第三者に漏れることはありません。弁護士には職務上の守秘義務があり、相談者の同意なく情報を開示することは法律で禁止されています。
特にフリーランスの場合、「相談したことが発注者に知られたら、今後の仕事に影響するのでは」という不安を持つ人も多いでしょう。でも、相談段階で発注者に通知されることはなく、和解斡旋などの正式な手続きに進む場合も、相談者の意向を確認したうえで進められます。
秘密厳守により安心して相談できる内容には以下のようなものがあります。
- 現在進行中の案件での不満や懸念
- 発注者の実名を挙げた具体的な相談
- 契約書がない、証拠が不十分といった不利な状況
- 過去に似たようなトラブルを経験したこと
相談したからといって必ず正式な手続きに進む必要はなく、「今の状況が法的にどうなのか知りたいだけ」という相談にも乗ってくれるでしょう。
④多様な相談形態への対応
対面、オンライン、電話、メールという4つの方法から、自分に合った相談形態を選べます。新型コロナウイルスの感染拡大以降、非対面での相談体制が充実し、全国どこからでも気軽に相談できるようになりました。
相談形態別の特徴と活用シーン
| 相談方法 | メリット | 向いているケース |
| 電話 | すぐに相談できる、気軽 | 緊急性が高い、概要を聞きたい |
| メール | 時間を問わず送信可能、記録が残る | 詳細な状況を整理して伝えたい |
| 対面 | 書類を直接見てもらえる、詳細な相談 | 複雑な案件、和解斡旋を検討中 |
| オンライン | 移動不要、画面共有で資料を見せられる | 遠方在住、書類を見せながら相談したい |
初めて相談する場合は、まず電話かメールで概要を伝え、必要に応じて対面・オンライン相談の予約を取るという流れが一般的です。
実務上の効率的な相談手法として、最初にメールで状況を詳しく説明し、その後電話で補足質問に答えるという方法があります。メールで時系列や関係者、問題点を整理して送ることで、弁護士側も事前に内容を把握でき、限られた電話相談の時間をより有効に使えます。
それに、複雑な契約書や大量のメールのやり取りがある場合は、オンライン相談で画面共有機能を使うと、その場で書類を確認しながら具体的なアドバイスを受けられるため、理解が深まります。
⑤和解斡旋手続きの提供
和解斡旋は、裁判よりも簡易で迅速な紛争解決手段です。経験豊富な弁護士が「和解斡旋人」として、双方の主張を聞き、利害関係を調整しながら解決案を提示します。
和解斡旋の主な特徴
- 申し立てが簡単(複雑な書類作成が不要)
- 解決までの期間が短い(数週間〜数か月程度)
- 非公開の手続き(裁判と違い公開されない)
- 柔軟な解決策を模索できる
- フリーランストラブル110番経由の場合は無料
裁判では白黒をはっきりつける判決が下されますが、和解斡旋では「お互いに少しずつ譲歩する」形での解決を目指します。たとえば、報酬未払いのケースで、満額の支払いは難しいが分割払いなら可能、といった現実的な解決策を見出すことができます。
和解斡旋が特に有効なケースは以下の通りです。
- 発注者側にも一定の言い分があり、完全な勝訴は難しい
- 継続的な取引関係を維持したい(完全に関係を断ち切りたくない)
- 裁判ほどの時間とコストをかけられない
- 相手方が話し合いに応じる意思を示している
ただし、和解斡旋は相手方の同意がなければ成立しません。相手が話し合いを拒否する場合や、明らかに悪質で刑事事件に発展する可能性がある場合は、裁判所での手続きや他の機関(労働基準監督署、公正取引委員会など)への相談が適切です。
フリーランストラブル110番では、和解斡旋が適さないケースについても、適切な相談先を紹介してくれます。
CHECK
弁護士による専門的な法律相談から和解斡旋まで無料で利用可能
相談内容は厳格に管理され、秘密厳守が徹底される
電話・メール・対面・オンラインから選べる柔軟な相談形態
相談前に準備すべき4つのポイント
フリーランストラブル110番への相談を効果的に進めるためには、事前準備が重要です。限られた相談時間の中で適切なアドバイスを受けるために、以下の4つのポイントを押さえて準備しましょう。
①相談内容の明確化
「何について相談したいのか」を明確にすることが、効果的な相談の第一歩です。漠然と「困っている」だけでは、弁護士も具体的なアドバイスを出しにくくなります。
明確化すべき事項
- どんなトラブルが発生しているか(報酬未払い、契約の曖昧さ、ハラスメントなど)
- 何が問題だと感じているか(法的に問題があるのか、道義的に納得できないのか)
- どのように解決したいか(報酬を回収したい、関係を修復したい、今後の予防策を知りたい)
- 緊急性はどの程度か(支払い期限が迫っている、すぐに判断が必要など)
相談内容を明確にする実務手法として、A4用紙1枚に「問題の概要」「自分が困っている点」「知りたいこと・解決したいこと」の3項目を箇条書きにまとめる方法があります。このメモを作成する過程で、自分の中で問題が整理され、相談時にスムーズに説明できるようになります。
それに、このメモを電話相談の際に手元に置いておくと、話しているうちに本題から逸れることを防げます。
②時系列での出来事の整理
法律相談において、「いつ何が起きたか」という時系列の整理は極めて重要です。法的判断は、出来事の順序や時期によって大きく変わるためです。
時系列で整理すべき情報
- 最初の接触・契約の成立時期
- 作業開始日と納品日
- 報酬の支払い予定日と実際の支払い状況
- トラブルが表面化した日時
- 発注者とのやり取り(重要な連絡の日時)
- 現在までの経過
時系列の整理には、以下のような表形式が有効です。
| 日付 | 出来事 | 証拠 |
| 2024年8月1日 | メールで案件の打診を受ける | メール保存 |
| 2024年8月5日 | 口頭で条件合意(報酬100,000円) | 録音なし |
| 2024年8月10日 | 作業開始 | – |
| 2024年9月20日 | 納品 | 納品メール保存 |
| 2024年10月20日 | 支払い予定日(未払い) | 請求書控え |
| 2024年10月25日 | 催促メール送信 | メール保存 |
| 2024年11月1日 | 「資金繰りが厳しい」と返信 | メール保存 |
弁護士は、この時系列をもとに「契約がいつ成立したか」「納品義務は果たされたか」「支払い期限はいつか」を判断します。特に、フリーランス保護新法では成果物受領から原則60日を超えない期間での支払いが義務付けられているため、受領日の特定が大切です。
③質問事項のリスト化
相談時間は限られているため、聞きたいことを事前にリストアップしておくことで、聞き忘れを防げます。
質問リストの作成例
- 自分の状況は法的に問題があるか
- 発注者の行為は違法か、どの法律に違反するか
- 報酬を回収する方法はあるか、成功の見込みはどの程度か
- 和解斡旋と裁判のどちらが適しているか
- 証拠として有効な書類は何か、今から集められるものはあるか
- 今後同じトラブルを避けるためにどうすればいいか
- 相手方と交渉する際の注意点はあるか
質問は、優先順位をつけて番号を振っておくと良いでしょう。相談時間が足りなくなった場合でも、最も重要な質問から答えてもらえます。
実務上のコツとして、「オープンクエスチョン」(どうすればいいですか?)と「クローズドクエスチョン」(これは違法ですか?)を組み合わせる方法があります。
まずクローズドクエスチョンで法的評価を確認し、その後オープンクエスチョンで具体的な対応策を聞くという流れが効果的です。
加えて、「仮に○○だった場合はどうなりますか?」という仮定の質問を用意しておくと、複数のシナリオに備えられます。
④証拠・資料の収集
法律相談では、口頭での説明だけでなく、客観的な証拠が重要です。自分では「これは証拠にならないだろう」と思うものでも、法的には重要な証拠になることがあります。
集めるべき証拠・資料
- 契約書(正式な契約書がなくても、メールやチャットでのやり取り)
- 見積書、発注書、請求書
- 納品物(成果物のデータ、納品確認のメール)
- 発注者とのやり取り記録(メール、LINE、Slack、Chatworkなど)
- 電話での会話の記録(日時、相手、内容を詳細に記載したメモ)
- 作業日報、タイムシート
- 同様のトラブルに関する過去の事例記事やニュース
証拠は、できるだけ原本または正確なコピーを用意します。メールは印刷またはPDF化し、削除されないようバックアップを取ります。LINEやチャットツールのやり取りは、スクリーンショットを撮影して日付が分かる状態で保存します。
証拠の保存方法
| 証拠の種類 | 保存方法 |
| メール | 印刷またはPDF化、削除防止のためバックアップ |
| LINE・チャット | スクリーンショット撮影(日付が見える状態) |
| 契約書・請求書 | 原本またはスキャンデータ |
| 電話の内容 | 日時・相手・内容を詳細に記載したメモ |
証拠収集における実務ノウハウとして、「時系列フォルダ管理法」が効果的です。
時系列フォルダ管理法の手順
| ステップ | 内容 |
| ①フォルダ作成 | パソコン上に「フリーランストラブル_証拠」フォルダを作成 |
| ②サブフォルダ分類 | 「01_契約関連」「02_納品関連」「03_報酬関連」「04_やり取り記録」「05_その他」に分ける |
| ③ファイル名の工夫 | 先頭に日付を付ける(例:20240820_見積書.pdf) |
| ④活用 | 時系列でもソート可能、弁護士への提示時に即座に取り出せる |
この方法により、弁護士に資料を提示する際に「○月△日の契約書です」とすぐに取り出せ、相談時間を有効活用できます。
証拠がない場合でも、記憶をもとに「いつ・誰が・何をいった」をメモにまとめておくことで、後の交渉や手続きに役立ちます。完璧な証拠がなくても、まずは相談してみることが大切です。
CHECK
相談内容の明確化により限られた時間を有効活用できる
時系列表と証拠の整理が法的判断の基礎となる
質問リストの事前準備で聞き忘れを防止できる
実際の相談から解決までの流れ
フリーランストラブル110番を利用する際の具体的な流れを、ステップごとに解説します。初めて利用する人でも安心して相談できるよう、各段階でのポイントと注意事項をまとめました。
STEP1:トラブルの発生と初回連絡
トラブルが発生したら、まずフリーランストラブル110番に連絡します。「こんな小さなことで相談していいのか」と迷う必要はありません。トラブルが大きくなる前に早めに相談することで、解決の選択肢が広がります。
初回連絡の方法
- 電話:公式サイトに掲載されている専用ダイヤルに電話
- メール:公式サイトの相談フォームから申し込み
電話の場合、受付時間内(平日の日中が一般的)に連絡する必要があります。メールの場合は24時間いつでも送信でき、数日以内に返信が来ます。
初回連絡では、以下の情報を簡潔に伝えます。
- 自分の名前と連絡先
- フリーランスとして行っている業務の種類
- トラブルの概要(報酬未払い、ハラスメント、契約の曖昧さなど)
- いつ頃から問題が発生しているか
- 相談方法の希望(電話、対面、オンライン)
この段階では詳細を説明する必要はなく、「報酬が支払われず困っている」「契約書がなく不安」といった簡単な説明で構いません。受付担当者が状況を聞き取り、適切な相談方法を案内してくれます。
STEP2:詳細相談の予約と実施
初回連絡の後、必要に応じて対面またはオンラインでの詳細相談が設定されます。電話やメールだけで解決の方向性が見える場合もあれば、複雑な案件では弁護士との直接面談が必要になることもあります。
詳細相談の準備
- 前述の「相談前に準備すべき4つのポイント」に従って資料を整理
- 時系列表、質問リスト、証拠資料を持参(対面の場合)またはデータで用意(オンラインの場合)
- 相談時間は通常30分〜1時間程度なので、要点を絞って説明できるようにする
詳細相談では、弁護士が法的な観点から状況を分析し、以下のようなアドバイスを提供します。
| 相談で得られるアドバイス | 内容 |
| 法的評価 | 発注者の行為が違法・不当に該当するかの判断 |
| 証拠の評価 | 手持ちの証拠で立証可能かどうかの見極め |
| 解決手段の提示 | 和解斡旋、裁判、他機関への相談など選択肢の説明 |
| リスクの説明 | 各手段のメリット・デメリット、成功見込み |
| 今後の対応 | 相手方との交渉方法、追加で集めるべき証拠 |
相談の結果、「まずは内容証明郵便で正式な催促をしてみる」「和解斡旋の申し立てを検討する」「証拠が不足しているので追加収集する」といった具体的な方針が決まります。
STEP3:解決手段の選択と実行
詳細相談を経て、具体的な解決手段を選択します。主な選択肢は以下の通りです。
1.和解斡旋の申し立て
フリーランストラブル110番で無料で利用できる手段です。第三者の弁護士が間に入り、双方の主張を調整しながら、数週間から数か月程度での解決を目指します。相手方が話し合いに応じる意思を示している場合に特に有効な手段です。
2.他機関への相談・申告
状況に応じて、以下の行政機関に相談できます。
- 実態が労働者に近い場合:労働基準監督署
- 独占禁止法違反の疑いがある場合:公正取引委員会
- 下請法違反の疑いがある場合:中小企業庁
- フリーランス保護新法違反の疑いがある場合:各都道府県の労働局
3.裁判所での手続き
法的手続きとして、以下の方法があります。
- 60万円以下の金銭請求:少額訴訟
- より高額または複雑な案件:通常訴訟
- 未払い報酬の回収:支払督促
4.自力での交渉継続
弁護士のアドバイスをもとに、自分で発注者と交渉を続ける方法もあります。内容証明郵便を送付したり、証拠を揃えたうえで改めて請求を行うといった対応が考えられます。
和解斡旋を選択した場合、フリーランストラブル110番が手続きをサポートします。申立書の書き方、必要書類、和解斡旋の進め方について具体的な指導を受けられます。
STEP4:フォローアップと予防策
トラブルが解決した後も、フリーランストラブル110番では今後の予防策についてアドバイスを受けられます。具体的には、契約書のテンプレート作成と活用方法から、業務委託基本契約書と個別発注書の使い分け、メールでのやり取りを契約書代わりにする方法まで、実践的な指導が受けられます。
主なトラブル予防策
| 予防策の分野 | 具体的な内容 |
| 契約書の整備 | 契約書のテンプレート作成と活用方法 |
| 契約形態の使い分け | 業務委託基本契約書と個別発注書の使い分け |
| 簡易的な契約確認 | メールでのやり取りを契約書代わりにする方法 |
| 報酬条件の明確化 | 報酬の支払い条件を明確にする交渉術 |
| 品質基準の合意 | 納品物の検収基準を事前に合意する重要性 |
| 権利関係の明示 | 著作権や成果物の権利帰属を明示する方法 |
実務における予防的な取り組みとして、「契約チェックリスト」を作成し、新規案件ごとに確認する方法があります。このチェックリストには以下のような項目を盛り込みます。
契約チェックリストの主な確認項目
- 報酬額と支払い時期は書面で確定したか
- 作業範囲(納品物の仕様)は明確か
- 修正回数の上限は決めたか
- 著作権の扱いは合意したか
- キャンセル時の対応は決めたか
案件開始前にこのリストを確認する習慣をつけることで、契約の曖昧さに起因するトラブルを大幅に減らせます。
加えて、発注者との重要なやり取りは必ずメールで記録に残すことをお勧めします。電話で合意した内容も、後から「本日の電話で○○について合意しました」とメールで送信する「確認メール」の習慣が効果的です。
こうした記録は、万が一トラブルが発生した際に、契約内容や合意事項を証明する重要な証拠となります。
フリーランス保護新法の施行により、発注者側には書面交付義務が課されましたが、実際にはまだ徹底されていないケースもあります。自分から積極的に契約書やメールでの条件確認を求めることで、発注者にも法令遵守を促す効果があります。
CHECK
初回連絡から詳細相談、解決手段の選択まで段階的にサポート
和解斡旋、裁判、他機関相談など状況に応じた選択肢を提示
解決後も契約書整備など予防策の指導を受けられる
フリーランス保護新法(2024年施行)の重要ポイント
2024年秋に施行されたフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、フリーランスの法的保護が大幅に強化されました。
特に重要なポイントを押さえておきましょう。
発注者の主な義務と禁止行為
| 項目 | 内容 |
| 書面交付義務 | 業務内容、報酬額、支払期日等を書面(メール含む)で明示 |
| 支払期日 | 成果物受領から原則60日を超えない期間での支払いが原則 |
| 禁止行為 | 受領拒否、報酬減額、買いたたき、ハラスメント等 |
| 継続取引の保護 | 6か月以上の継続契約では30日前予告なしの解除禁止 |
発注者がこれらに違反した場合、行政機関(厚生労働省、公正取引委員会、中小企業庁)に申告できます。フリーランストラブル110番では、新法の適用や具体的な交渉方法についても相談可能です。
ATTENTION
重要な注意事項:
法律の施行日や詳細な適用要件については、厚生労働省の公式サイトや専門家に確認することをお勧めします。本記事の情報は執筆時点のものであり、法改正により変更される可能性があります。
CHECK
2024年秋施行のフリーランス保護新法で法的保護が強化
書面交付義務と原則60日を超えない期間での支払い原則が明確化
違反事例は行政機関への申告が可能
よくある質問(FAQ)
Q1:フリーランストラブル110番は誰でも利用できますか?
フリーランス・個人事業主として業務委託契約で働いている人であれば、誰でも無料で利用できます。
副業でフリーランス業務を行っている会社員や、開業届を出していない人でも相談可能です。ただし、法人として契約している場合は対象外です。
Q2:証拠が少なくても相談できますか?
契約書や証拠が不十分でも相談は可能です。
弁護士が現状で何ができるか、追加でどのような証拠を集めるべきかをアドバイスしてくれます。記憶をもとにしたメモや、断片的なメールのやり取りでも、法的に有効な証拠となる場合があります。
Q3:相談から解決までどのくらい時間がかかりますか?
ケースによって異なりますが、和解斡旋の場合は申し立てから数週間〜3か月程度で結論が出ることが多いです。
裁判に進んだ場合は、少額訴訟で1〜2か月、通常訴訟では半年〜1年以上かかることもあります。内容証明郵便を送付しただけで支払いに応じる発注者もいるため、まずは相談して適切な初動対応を取ることが重要です。
まとめ:泣き寝入りせず、まずは相談を
フリーランス・個人事業主として働く中で、報酬の未払い、契約の曖昧さ、ハラスメントといったトラブルに遭遇することは決して珍しくありません。しかし、「弁護士に相談するとお金がかかる」「どうせ解決しない」と諦める必要はありません。
フリーランストラブル110番は、厚生労働省が実施し、第二東京弁護士会が運営を受託する完全無料の法律相談窓口です。専門家である弁護士に相談でき、和解斡旋という具体的な解決手段まで提供されています。
さらに、2024年秋に施行されたフリーランス保護新法により、フリーランスの法的保護はさらに強化されました。
トラブルが発生したら、まずは電話またはメールでフリーランストラブル110番に連絡してみてください。相談前には、時系列の整理、証拠の収集、質問事項のリスト化といった準備を行うことで、限られた相談時間を有効に活用できます。
今日から実践できる5つのアクション
- すべての取引で契約書またはメールでの条件確認を徹底する
- 報酬額、支払時期、作業範囲、修正回数を明確にする
- 納品物の検収基準を事前に合意しておく
- 重要なやり取りは記録に残す(メール、チャットツールの保存)
- フリーランス保護新法の内容を理解し、自分の権利を知っておく
一人で悩まず、専門家の力を借りることで、多くのトラブルは解決できます。フリーランストラブル110番を活用し、安心して仕事に集中できる環境を整えましょう。
出典・参照元
本記事は以下の情報源をもとに作成されています。
- 厚生労働省「フリーランス・トラブル110番」
- 公正取引委員会「2024年公正取引委員会 フリーランス法特設サイト」
- 第二東京弁護士会
- 中小企業庁「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」
※記事内容は2025年11月21日時点の税制・法令に基づいています。税制改正等により内容が変更される場合がありますので、最新情報は国税庁または税理士にご確認ください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。実際のトラブル対応では、必ず弁護士等の専門家に相談してください。法律や制度は変更される可能性があるため、最新情報は公式機関で確認してください。記事内の情報は執筆時点のものであり、その正確性や完全性を保証するものではありません。
