*

フリ転編集部

「フリ転」は、フリーランスクリエイター向けのコミュニティメディアです。 デザイナー・ライターやエンジニア・マーケターなどクリエイティブな冒険心を持つ仲間と、独立ノウハウ&最新ツール情報や著名人インタビューなど、豊富なコンテンツを提供します。

事業主貸には税法上の金額制限がありません。ただし、残高が大きいと銀行融資の審査でマイナス評価を受ける可能性があります。この記事では、事業主貸の正しい使い方と銀行評価への影響、適切な管理方法を解説します。

目次

事業主貸とは何か?

事業主貸とは、事業用の資金を個人的な用途に使った際に記帳する勘定科目です。ここでは、決算書のどこに表示されるのか、どのような場面で使うのかも含め、見ていきましょう。

事業主貸は「事業資金を個人的に使った」ことを示す勘定科目

個人事業主は法人とは異なり、事業資金と個人資金の境界が曖昧になりがちですが、会計上は明確に区別する必要があります。

これは、正確な事業成績を把握し、適切な税務申告を行うための重要な仕組みです。事業用口座からプライベート目的で資金を引き出した場合、単に「経費」として処理するわけにはいきません。経費にならない支出を経費として計上すれば、過少申告となり税務調査で修正申告を求められます。

たとえば、事業用口座から生活費として月20万円を引き出した場合、この金額は「事業主貸」として記帳します。また、個人の生命保険料や小規模企業共済の掛金を事業用口座から支払った場合も、これらは経費ではなく所得控除として扱われるため、事業主貸で処理します。

このように事業主貸は、預金残高を正確に管理しながらも、経費にならない個人的な支出を適切に区分するための勘定科目です。

事業主貸が決算書のどこに表示されるか

事業主貸は、青色申告決算書の4枚目「貸借対照表」の左側、資産の部に記載されます。損益計算書(決算書1枚目)には出てこないため、事業の利益計算や税額には直接影響しません。

これは重要なポイントです。事業主貸をいくら使っても、それ自体が節税につながることはありません。なぜなら、所得金額の計算は売上から経費を差し引いて算出されるものであり、事業主貸は経費ではないからです。

具体的には、貸借対照表の資産の部の下方に「事業主貸」という項目があり、年間の累計額が表示されます。一方、貸借対照表の右側、負債の部の下方には「事業主借」という項目があり、こちらは事業経費をプライベート資金で立て替えた場合に使用します。

年度末には、これらの残高が自動的に相殺され、翌年の「元入金」(個人事業主の資本金のようなもの)に反映される仕組みになっています。多くの会計ソフトを使用していれば、この処理は自動的に行われる設定になっているため、残高管理に神経質になる必要はありません。

事業主貸を使う具体的な3つのケース

事業主貸を使用する主なケースは、大きく分けて3つあります。それぞれについて、具体的な仕訳例とともに見ていきましょう。

1.生活費の引き出し

個人事業主には「給与」という概念がありません。事業で得た利益から生活費を捻出しますが、この引き出しを記帳する際に事業主貸を使います。

仕訳例:毎月20万円を生活費として引き出した場合

借方金額貸方金額
事業主貸200,000円普通預金200,000円

2.所得控除の対象となる支出

生命保険料や小規模企業共済の掛金、iDeCoなどは、必要経費にはなりませんが、所得控除として税額を減らす効果があります。これらを事業用口座から支払った場合も事業主貸で処理します。

3.家事按分のプライベート否認分

自宅兼事務所の家賃や車両費など、事業とプライベートで共用する支出については、事業利用分のみを経費として計上し、プライベート分は事業主貸で処理します。

このように、経費にならない個人的な支出であっても、事業用口座から支払った場合は必ず記帳が必要であり、その際に事業主貸を使用します。

事業主貸に税法上の金額制限がない理由

個人事業主と事業は法的に同一であるため、事業主貸に税法上の金額制限はありません。ここでは、なぜ制限がないのか、そして税額に影響しない理由を解説します。

個人事業主は事業と個人が一体である

個人事業主の最大の特徴は、事業主本人と事業が法的に同一であるという点です。これが、事業主貸に税法上の金額制限が設けられていない根本的な理由です。

法人の場合、会社と経営者(役員)は別人格として扱われます。そのため、会社の資金を役員個人が使用する際には「役員貸付金」として厳密に管理され、利息の計上が必要になったり、場合によっては役員賞与として課税される可能性もあります。

しかし個人事業主の場合、事業で得た利益は最終的にすべて事業主個人のものです。極端にいえば、事業用口座にある資金をすべて引き出しても、それは自分の資金を動かしているだけであり、税法上は何の問題もありません。

たとえば、年間売上が1,000万円、経費が700万円で所得が300万円だった場合、この300万円全額を生活費として引き出しても違法ではありません。ただし、事業継続のための運転資金が不足するという実務上の問題は生じますが、税法上の制限はないのです。

このように、個人事業主における事業主貸は、あくまで会計上の残高管理のための科目であり、引き出し額に税法上の制限は存在しません。

税額には影響しないという重要ポイント

事業主貸がいくら多くても、それが税額を増やすことも減らすこともありません。これを理解することが、不要な心配を避ける鍵となります。

所得税の計算は、「売上−経費=所得金額」という単純な式で算出されます。事業主貸は経費ではないため、この計算式には登場しません。つまり、生活費の引き出し額が月10万円でも月50万円でも、納める税金は変わりません。

これは国税庁の青色申告制度においても明確に定められています。青色申告決算書の損益計算書(1枚目)には事業主貸の項目は存在せず、あくまで貸借対照表(4枚目)の資産の部に記載されるのみです。

逆にいえば、事業主貸を少なく抑えても節税効果はゼロです。節税を考えるのであれば、適切な経費計上、青色申告特別控除の活用、小規模企業共済やiDeCoなどの所得控除を最大限活用することが重要です。

このように、事業主貸は税額には影響しませんが、銀行融資では評価対象となるため、適切な管理が必要です。

銀行融資を受ける際は事業主貸の残高に注意

事業主貸に税法上の制限はありませんが、銀行融資を検討している場合は話が異なります。ここでは、銀行がどのように事業主貸を評価するのか、法人との違いを踏まえて説明します。

金融機関は事業主貸の残高をどう見るか

事業主貸に税法上の金額制限はありませんが、銀行融資を検討している場合は話が変わってきます。金融機関は貸借対照表の事業主貸残高を、事業の健全性を判断する重要な指標の一つとして見ているからです。

銀行の融資担当者が決算書を見る際、事業主貸の残高が大きいと「事業資金を個人的に使い込んでいる」「資金管理が甘い」と判断される可能性があります。これは、事業の資金繰りに問題があるのではないか、という懸念につながります。

例えば、年間の所得が300万円に対して、年間の事業主貸合計が500万円の場合、『利益以上に引き出している』と判断され、資金繰りに懸念があると評価されます。ただし、事業主貸は年度末に元入金に相殺されるため、貸借対照表上の残高自体は翌期にリセットされます。

一方、事業主借(プライベート資金で事業経費を立て替えたもの)の残高が大きい場合は、「個人資金を事業に投入している」と見なされ、比較的好意的に評価されます。ただし、これも過度に大きいと「事業の資金繰りが厳しいのか」という懸念を持たれる可能性があります。

金融機関の評価は総合的なものですが、事業主貸の残高が膨らみすぎないよう管理することは、融資を受けやすくするための実務的な配慮として重要です。

法人の役員貸付金との違いを理解する

個人事業主の事業主貸と、法人の役員貸付金は似ているようで大きく異なります。この違いを理解することで、事業主貸への正しい向き合い方が見えてきます。

法人の場合、役員貸付金が発生すると認定利息の計上が必要です。利息を計上しないと役員賞与とみなされ、会社側で損金算入できず、役員個人には給与所得として課税されます。

また、役員貸付金の残高が大きくなると、金融機関の信用評価において明確なマイナス要因となります。銀行は「会社の資金を役員個人が流用している」と判断し、融資審査において大きく減点されるのが一般的です。

一方、個人事業主の事業主貸には、このような厳しい制約はありません。利息計上の義務もなければ、追加課税のリスクもありません。これは、前述の通り、個人事業主と事業が法的に一体であるためです。

ただし、金融機関の評価という点では、法人ほど厳しくはないものの、やはり事業主貸の残高が膨らみすぎることは好ましくありません。法人の役員貸付金ほどの深刻な問題にはなりませんが、融資審査においてはマイナス評価につながる可能性がある、という程度の認識を持っておくとよいでしょう。

事業主貸を適切に管理する3つの実践的な方法

事業主貸の残高を適切に管理するには、口座の完全分離と定額引き出しが効果的です。ここでは、すぐに実践できる3つの管理方法を具体的に解説します。

方法1:事業用口座とプライベート口座を明確に分ける

事業主貸の残高を適切に管理する最も基本的で効果的な方法は、事業用口座とプライベート口座を完全に分けることです。これは確定申告の作業効率を劇的に向上させるだけでなく、不要な事業主貸の発生を防ぐことにもつながります。

事業用口座には事業に関する入出金のみを記録し、プライベートな支出は行わないというルールを徹底します。そして、定期的に(例えば毎月25日など)必要な生活費を事業用口座からプライベート口座へ振り替えるのです。

この方法のメリットは明確です。会計ソフトに事業用口座のデータのみを連携させれば、ほぼ自動的に帳簿が完成します。プライベートな支出を一つひとつ「事業主貸」として仕訳する手間が省け、確定申告の作業時間を大幅に短縮できます。

生命保険料など、所得控除の対象となる支出を事業用口座から支払った場合は事業主貸で処理します。記帳の手間を省きたい場合は、これらをプライベート口座から引き落とすことも検討できます。会計データ入力の労力を減らすことは、個人事業主にとって大きな価値があります。

初期設定に少し手間がかかりますが、一度仕組みを作ってしまえば、その後の確定申告作業が驚くほど楽になります。事業開始時、または確定申告時期が終わった直後に、ぜひこの口座分離を実施してください。

方法2:定期的な生活費の引き出しルールを作る

事業主貸の残高を適切に管理するもう一つの方法は、毎月の生活費引き出し額を定額化することです。これにより、事業資金の使い込みを防ぎ、計画的な資金管理が可能になります。

具体的には、過去の生活費実績や家計簿をもとに、月々の必要生活費を算出します。たとえば月30万円が必要であれば、毎月25日に事業用口座からプライベート口座へ30万円を振り替えるというルールを設定します。

このルールの利点は、事業の資金繰りが可視化されることです。定額で引き出すことで、事業用口座に十分な残高があるかどうかが明確になり、無計画な引き出しによる資金ショートを防げます。

もちろん、事業の業績は月によって変動します。売上が好調な月もあれば、不調な月もあるでしょう。そのような場合は、数か月に一度、引き出し額を見直すこともできます。重要なのは、「その月の気分で引き出す」のではなく、「計画に基づいて引き出す」という意識を持つことです。

また、ボーナス的に追加で引き出す場合も、それを明確に記録しておくことで、年間の引き出し総額が把握しやすくなります。このような管理を続けることで、事業主貸の残高が無秩序に膨らむことを防げます。

方法3:家事按分は年末にまとめて処理する

家賃や車両費など、事業とプライベートで共用する支出の家事按分については、毎月細かく処理するのではなく、年末にまとめて処理する方法が効率的です。

通常、自宅兼事務所の家賃10万円を支払った際は、全額を「地代家賃」として経費計上します。そして年末の決算時に、プライベート使用分(例えば70%)を一括で事業主貸として否認するのです。

この方法であれば、毎月の会計入力は「地代家賃10万円」の仕訳だけで済みます。年末に12か月分をまとめて計算し、「事業主貸84万円(7万円×12か月)/地代家賃84万円」という仕訳を1本入れるだけです。

車両費、通信費、光熱費なども同様に処理できます。日々の記帳作業をシンプルに保ちながら、年末の決算処理で適切に按分します。この方法は、多くの税理士も推奨する効率的な処理方法です。

ただし、按分比率の根拠は明確にしておく必要があります。面積比、使用時間比、走行距離比など、税務調査の際に説明できる合理的な基準を持っておきましょう。その上で、年末にまとめて処理することで、日々の記帳負担を大きく軽減できます。

事業主借との違いと相殺の仕組み

事業主借は、プライベート資金で事業経費を立て替えた際に使う勘定科目です。ここでは、事業主借の使用場面と、年度末の自動相殺の仕組みを解説します。

事業主借は「プライベート資金で事業経費を立て替えた」もの

事業主貸と対になる勘定科目が「事業主借」です。こちらは事業主貸とは逆の概念で、事業経費を支払うためにプライベート資金で立て替えた場合に使用します。

最も一般的なケースは、個人名義のクレジットカードで事業経費を決済した場合です。事業用カードを持っている場合はそちらを使用し、個人カードと明確に分けることで記帳が楽になります。

仕訳例:プライベートカードで消耗品5,000円を購入した場合

借方金額貸方金額
消耗品費5,000円事業主借5,000円

この仕訳の意味は、「個人資金から事業資金を借りて経費を払った」ということです。実際には後日、クレジットカード会社からプライベート口座へ請求が来るため、事業用口座からの支払いは発生しません。

このように事業主借は、事業用の収支ではないものの、事業用口座の残高に影響がある取引を記録するための勘定科目です。

年度末に自動的に相殺される仕組み

事業主貸と事業主借の最大の特徴は、年度末に自動的に相殺され、翌年の元入金に反映される点です。この仕組みにより、残高管理の手間が大幅に軽減されています。元入金とは個人事業主の資本金に相当するもので、年度末に自動的に更新されます。

具体的な計算式は以下の通りです。

翌年の元入金=今年の元入金+今年の所得金額+事業主借−事業主貸

たとえば、以下のような状況を想定します。

今年の元入金500万円
今年の所得金額300万円
事業主貸250万円
事業主借50万円

この場合の翌年の元入金は以下の通りです。

500万円+300万円+50万円−250万円=600万円

この計算は会計ソフトが自動的に行うため、手動で計算する必要はありません。重要なのは、事業主貸と事業主借の残高は翌年に持ち越されず、リセットされるということです。

法人の場合、役員貸付金や役員借入金は残高が累積していきますが、個人事業主の場合はそうではありません。毎年リセットされるため、「事業主貸の残高が年々増えていく」という心配は不要です。

この仕組みがあるからこそ、日々の帳簿付けにおいて事業主貸と事業主借を厳密に区分する必要性は低く、極端にいえば「事業主勘定」という1つの科目だけを使うことも可能です。

よくある質問(FAQ)

Q1.事業主貸が多いと税務調査で指摘されることはありますか?

事業主貸の金額そのものが税務調査の対象となることはほぼありません。税務調査では売上の漏れや経費の妥当性が重点的にチェックされます。

ただし、事業主貸の内訳に経費として計上すべきものが含まれていないかは確認される可能性があります。

Q2.事業用口座とプライベート口座を分けていないのですが、今からでも分けるべきですか?

可能であればぜひ分けることをおすすめします。確定申告の作業効率が劇的に向上し、会計ソフトとの連携もスムーズになります。

年度途中からでも分離は可能です。新しい事業用口座を開設し、以降の入出金をそちらで管理するだけで効果があります。

Q3.銀行融資を受ける場合、事業主貸はどれくらいまでなら問題ありませんか?

明確な基準はありませんが、年間所得金額の範囲内に収めることが目安です。利益以上に個人的な引き出しをしていると、資金繰りに問題があると見なされる可能性があります。

融資を検討している場合は、事業主貸の残高が膨らみすぎないよう注意しましょう。

まとめ:事業主貸に法的上限はないが、年間所得の範囲内が目安

この記事では、「事業主貸はいくらまでOKか」という疑問に対する答えと、銀行評価、実践的な管理方法を解説しました。

事業主貸には税法上の金額制限がなく、税額にも影響しない会計上の勘定科目です。理論上は事業用口座の全額を引き出すことも可能ですが、銀行融資を検討している場合は、年間所得金額の範囲内に収めることが推奨されます。

利益以上に引き出していると、金融機関から「資金繰りに問題がある」と判断されるリスクがあるためです。

今日から実践できる4つのアクション

  1. 事業用口座を新規開設し、今日から事業の入出金をその口座に集約する
    既存の個人口座は生活費専用とし、事業用口座から月1回定額を振替確定申告の作業時間を大幅に短縮できます
  2. 毎月の生活費引き出し額を定額化する
    計画的な資金管理が可能になります
  3. 所得控除の支払いをプライベート口座から行う
    仕訳作業を減らせます
  4. 家事按分は年末にまとめて処理する
    日々の記帳負担を軽減できます

日々の実務では、事業用口座とプライベート口座を明確に分け、定期的に生活費を引き出すルールを作ることで、効率的な帳簿管理が可能になります。

事業主貸に法的上限はありませんが、銀行融資を検討する場合は年間所得の範囲内に抑えることが推奨されます。口座の分離と定額引き出しルールを実践することで、適切な資金管理と効率的な帳簿作成が両立できます。

出典・参照元

※記事内容は2025年10月25日時点の税制・法令に基づいています。税制改正等により内容が変更される場合がありますので、最新情報は国税庁または税理士にご確認ください。

すべてのクリエイターに捧ぐ。フリーランスのクリエイターコミュニティ。
クリエイターのスキルアップカンファレンスやクリエイター同士の縁を紡ぐイベントへの参加!
クリエイターのための専門リソースとネットワークを駆使したプロジェクト案件への挑戦!

新規メンバー続々増加中。
皆と一緒に今すぐ、冒険に飛び込もう! 
物語の主人公はあなた。

コミュニティへ参加

人気キーワード

目次