個人事業主がプライベート口座と事業用口座を使い分ける場合、仕訳には「事業主貸」と「事業主借」という2つの勘定科目を使います。これらは個人事業主特有の科目で、法人には存在しません。
個人事業主には「給与」という概念がなく、事業とプライベートの境界を明確に記録する仕組みが必要です。事業用口座から生活費を引き出す場合や、個人口座から事業資金を補填する場合などを、この2科目で正確に記録します。
この記事では、事業主貸と事業主借の基本的な違いと使い分け、プライベート口座に関する具体的な仕訳パターン8選、間違えやすい勘定科目との違いと注意点を解説します。
事業主貸と事業主借の基本:個人事業主だけに必要な2つの勘定科目
個人事業主の会計処理において、事業主貸と事業主借は避けて通れない重要な科目です。この2つの科目を正しく理解し使い分けることで、事業とプライベートの資金の流れを明確に記録できます。
事業主貸とは?プライベートへの支出を記録する科目
事業主貸は、事業用のお金を個人(プライベート)で使ったときに使う勘定科目です。通常の取引では借方(左側)に記入します。
この科目が必要な理由は、個人事業主が事業資金と生活資金を明確に区別する必要があるためです。法人のように給与を支払う仕組みがないため、事業用口座から引き出した生活費や個人的な支出を「事業主への貸付」として処理します。
たとえば、事業用銀行口座から生活費として300,000円を個人口座に振り込んだ場合、これは給与ではなく事業主貸として記録します。また、事業用口座から生命保険料15,000円や所得税100,000円が引き落とされた場合も、これらは経費ではなく個人の支出のため、事業主貸で処理します。
このように、事業とプライベートの支出を明確に分けることで、正確な損益計算と適正な税務申告が可能になります。
事業主借とは?個人資金を事業に入れるときの科目
事業主借は、個人(プライベート)のお金を事業用に使ったときに使う勘定科目です。通常の取引では貸方(右側)に記入します。
この科目を使う場面は、事業資金が不足して個人口座から補填するケース、個人のクレジットカードで事業の経費を支払うケース、事業用口座に預金利息が入金されるケースなどです。これは「事業主から借りた」という考え方で処理します。
たとえば、事業用銀行口座の残高が少なくなったため、個人口座から150,000円をビジネス口座に振り込んだ場合、これは事業主借として記録します。また、プライベートの財布から現金でセミナー代5,000円を支払った場合や、個人のクレジットカードでAmazonから事業用の書籍を購入した場合も事業主借で処理します。
個人事業主は事業とプライベートの境界が曖昧になりがちですが、この科目を正しく使うことで資金の流れを透明化できます。
事業主貸と事業主借の決定的な違い
この2つの科目の違いは、お金が流れる方向です。事業主貸は「事業→個人」への支出、事業主借は「個人→事業」への資金提供を表します。
振替伝票での位置も明確に異なります。事業主貸は通常の取引では借方(左側)、事業主借は通常の取引では貸方(右側)に記入します。この配置を間違えると、資金の流れが逆になってしまい、試算表や決算書が正しく作成できません。
実務では、事業主貸は生活費・個人的な税金・保険料などの支出に使い、事業主借は個人資金の事業への投入・個人カードでの経費支払いに使います。マネーフォワードや弥生会計などのクラウド会計ソフトを使えば、データ連携により自動で仕訳候補が表示されるため、入力ミスを減らせます。
両科目とも年度末には「元入金」に振り替えられて精算され、翌年には残高がゼロからスタートする特徴があります。
【パターン別】プライベート口座の仕訳実例8選
個人事業主が日常的に直面する仕訳パターンを8つ厳選して解説します。これらのパターンを理解すれば、ほとんどの取引に対応できるようになります。
パターン1:生活費を事業用口座から個人口座へ振込
事業用口座から生活費300,000円を個人口座に振り込んだ場合の仕訳
仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 事業主貸 | 300,000円 | 普通預金(事業用) | 300,000円 | 生活費振込 |
個人事業主には給与という概念がありません。そのため、「給与手当」という科目は使えず、自分自身への生活費の支払いはすべて事業主貸で処理します。
ただし、従業員を雇用している場合、その従業員への給与は「給与手当」として経費計上できます。あくまで事業主本人への支払いだけが事業主貸になるという点に注意してください。
この仕訳をクラウド会計ソフトに登録する際は、「自動仕訳ルール」や「仕訳辞書」として保存しておくと、毎月の入力作業が大幅に効率化されます。
パターン2:生命保険料や国民健康保険料が事業用口座から引き落とされた
事業用口座から生命保険料や国民健康保険料15,000円が引き落とされた場合の仕訳例
仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 事業主貸 | 15,000円 | 普通預金(事業用) | 15,000円 | 国民健康保険料 |
これらの保険料は事業の経費ではなく、個人が支払うべき項目です。そのため、「保険料」や「福利厚生費」といった経費科目は使わず、事業主貸で処理します。
なお、これらの保険料は確定申告の際に「所得控除」として申告できます。経費にはなりませんが、課税所得を減らす効果があるため、領収書や引き落とし記録は必ず保管しておいてください。
事業用口座から自動引き落としになっている場合、クラウド会計ソフトのデータ連携機能を使えば、取引が自動で取り込まれるため記帳漏れを防げます。
パターン3:所得税が事業用口座から引き落とされた
事業用口座から所得税100,000円が引き落とされた場合の仕訳例
仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 事業主貸 | 100,000円 | 普通預金(事業用) | 100,000円 | 所得税納付 |
所得税は経費ではありません。「租税公課」という科目を使わないよう注意してください。所得税と住民税は個人の税金のため、事業主貸で処理します。
税金の扱いは少し複雑です。消費税や個人事業税は事業に関する税金のため、「租税公課」として経費計上できます。一方、所得税・住民税は個人の所得に対する税金のため、経費にならず、事業主貸で処理します。
この違いを理解しておかないと、税務調査で指摘される可能性があります。税理士に相談するか、国税庁の確定申告手引きを確認して正しく処理しましょう。
パターン4:自宅兼事務所の家賃を按分して処理する
自宅兼事務所の家賃75,000円が事業用口座から引き落とされ、事業使用割合が20%の場合の仕訳例
仕訳例(複合仕訳)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 地代家賃 | 15,000円(事業分20%) | 普通預金(事業用) | 75,000円 | 自宅兼事務所家賃(事業割合20%) |
| 事業主貸 | 60,000円(個人分80%) | − | − | − |
自宅を事務所として使用している場合、事業に使っている部分だけを経費として計上できます。事業使用割合は、床面積や使用時間などの合理的な基準で算出します。
クラウド会計ソフトでは、「詳細」ボタンをクリックして伝票を開き、「行追加」で複数行の仕訳を作成できます。毎月同じ按分率で処理する場合は、自動仕訳ルールとして登録しておくと便利です。
按分割合は税務署に説明できる根拠が必要です。図面や写真、使用時間の記録などを保管しておきましょう。
パターン5:現金で事業用口座から生活費を引き出した
データ連携していない取引として、現金で100,000円を事業用口座から引き出して生活費とした場合の仕訳例
仕訳例(振替伝票入力)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 事業主貸 | 100,000円 | 現金 | 100,000円 | 生活費出金 |
データ連携していない取引は、クラウド会計ソフトの「手動で仕訳」→「振替伝票入力」から入力します。
このような取引は頻繁に発生するため、「仕訳辞書」として保存することを推奨します。仕訳辞書に登録しておけば、次回以降は選択リストから選ぶだけで科目入力の手間が省けます。
現金取引は記録が残りにくいため、できるだけ事業用口座やクレジットカードを使い、取引を電子データとして残すことが理想的です。
パターン6:個人口座から事業用口座に資金を補填した
事業用銀行口座の残高が不足したため、個人口座から150,000円を振り込んだ場合の仕訳例
仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 普通預金(事業用) | 150,000円 | 事業主借 | 150,000円 | 個人口座より資金補填 |
事業を続けていくと、売上の入金タイミングと経費の支払いタイミングがずれて、一時的に資金が不足することがあります。そのような場合、個人の貯金から事業用口座に送金するケースは珍しくありません。
この取引では、事業主借を使って「事業主から借りた」という形で処理します。返済義務があるわけではありませんが、会計上は個人から事業への資金提供として記録します。
データ連携している事業用口座であれば、入金取引として自動で取り込まれるため、勘定科目を「事業主借」に選択するだけで仕訳が完了します。
パターン7:事業用口座に利息が振り込まれた
事業用銀行口座に預金利息が振り込まれた場合の仕訳例
仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 普通預金(事業用) | 金額 | 事業主借 | 金額 | 預金利息 |
預金利息は、個人事業主の場合、利子所得として扱われ源泉分離課税されているため、一般的には「事業主借」で処理します。ただし、「受取利息」として計上し、確定申告時に事業所得から除外する方法もあります。会計ソフトや税理士と相談のうえ、一貫した処理方法を選択してください。
個人事業主の場合、預金利息は「利子所得」として所得税が源泉徴収されており、事業所得とは別の枠組みで課税されています。
受取利息と間違えやすいポイントであるため、注意してください。法人の場合は受取利息として営業外収益に計上しますが、個人事業主の場合は利息にかかる税金が源泉徴収されており、事業所得とは別枠で課税されています。
利息はごく少額のケースが多いですが、正確に処理することで税務上のリスクを避けられます。
パターン8:個人のクレジットカードや現金で事業経費を支払った
プライベートの財布から現金でセミナー代5,000円を支払った場合、または個人のクレジットカードで事業用書籍を購入した場合の仕訳例
仕訳例(セミナー代の場合)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 支払手数料(または研修費) | 5,000円 | 事業主借 | 5,000円 | セミナー参加費 |
仕訳例(書籍購入の場合)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
| 新聞図書費 | 金額 | 事業主借 | 金額 | Amazon書籍購入(事業用) |
個人のクレジットカードで事業経費を支払うケースは、Amazonや楽天などのネット通販を利用する際によくあります。データ連携していないカードでも、振替伝票入力で正しく記録できます。
この場合、経費科目は借方(左側)に、事業主借は貸方(右側)に記入します。Amazonなどで頻繁に購入する場合は、「Amazon書籍購入・事業主借」などの名前で仕訳辞書に登録しておくと効率的です。
個人カードを使う場合は、事業用とプライベート用の支出が混在しやすいため、可能であれば事業用のクレジットカードを作成することを推奨します。
間違えやすい!事業主貸・事業主借と他の科目の違い
事業主貸・事業主借は、他の勘定科目と混同しやすい特徴があります。正しい使い分けを理解することで、記帳ミスを防ぎ、適正な申告につながります。
給与手当との違い:自分への支払いは給与にならない
事業主貸と給与手当の最も重要な違いは、自分自身への支払いは給与として処理できないという点です。
個人事業主には給与という概念がありません。法人の経営者が役員報酬を受け取るのとは異なり、個人事業主が事業資金から生活費を引き出すのは「所得の一部を使った」という扱いになります。
ただし、事業に従業員を雇用している場合、その従業員への給与は「給与手当」として経費計上できます。配偶者や家族を専従者として雇っている場合も、青色事業専従者給与として経費にできます。
つまり、給与手当は「他人への支払い」に使う科目であり、事業主本人への生活費の引き出しには使えないということです。この区別を間違えると、税務調査で指摘される可能性が高くなります。
租税公課との違い:経費になる税金とならない税金
税金の処理で混乱しやすいのが、租税公課と事業主貸の使い分けです。
租税公課として経費計上できる税金
- 消費税(税込経理方式の場合)
- 個人事業税固定資産税(事業用資産分)
- 自動車税(事業用車両分)
- 印紙税
事業主貸として処理する税金
- 所得税住民税相続税
- 贈与税
違いの基準は、「事業に直接関係する税金かどうか」です。事業の収入や資産に対してかかる税金は租税公課として経費になりますが、個人の所得全体にかかる税金は経費にならず事業主貸で処理します。
所得税を租税公課として処理してしまうと、本来経費にならないものを経費として計上したことになり、税務上の問題になります。国税庁のホームページや税理士に確認して正確に処理しましょう。
受取利息との違い:個人事業主の利息は事業収入にならない
事業用口座に振り込まれる預金利息は、一般的には受取利息ではなく事業主借で処理します。
個人事業主の場合、預金利息は「利子所得」として所得税が源泉徴収されており、事業所得とは別の枠組みで課税されています。そのため、通常は事業の収入には含めません。
ただし、会計処理の方法には複数の選択肢があります。「受取利息」として計上し、確定申告時に事業所得から除外する方法も認められています。一度選択した方法は継続的に適用することが望ましいため、会計ソフトや税理士と相談のうえ、一貫した処理方法を選択してください。
法人の場合は受取利息として営業外収益に計上しますが、個人事業主と法人では税務上の扱いが異なるため注意が必要です。
少額であっても正確に処理することで、税務調査時の説明がスムーズになり、会計の信頼性が高まります。クラウド会計ソフトでデータ連携していれば、利息の入金も自動で取り込まれるため、勘定科目を事業主借に設定するだけで処理できます。
クラウド会計ソフトでの入力方法と効率化ポイント
クラウド会計ソフトを活用することで、事業主貸・事業主借の記帳作業を大幅に効率化できます。データ連携や自動仕訳ルールを使いこなすことが重要です。
データ連携している口座の仕訳方法
マネーフォワードクラウドや弥生会計オンラインなどのクラウド会計ソフトでは、銀行口座やクレジットカードとのデータ連携により、取引が自動で取り込まれます。
入力手順例
| ステップ | 操作内容 | 具体例 |
| 1 | ホーム画面から連携している銀行口座をクリック | 三菱UFJ銀行ビジネス口座を選択 |
| 2 | 取引一覧から該当の取引を選択 | 生活費振込の取引を選択 |
| 3 | 勘定科目を「事業主貸」または「事業主借」に設定 | 生活費振込→事業主貸 |
| 4 | 摘要欄に取引内容を記入 | 「生活費振込」「個人口座より資金補填」 |
| 5 | 「登録」をクリック | 仕訳を確定 |
データ連携のメリットは、取引が自動で取り込まれるため記帳漏れが防げることと、銀行の取引明細が証拠として残ることです。
特に事業主貸・事業主借は頻繁に発生する科目のため、一度仕訳を作成したら「自動仕訳ルール」として保存しておくことを推奨します。次回以降は自動で科目が提案されるため、確認して登録するだけで済みます。
按分処理が必要な取引の入力方法
自宅兼事務所の家賃や光熱費など、事業とプライベートで按分が必要な取引は、複合仕訳として入力します。
入力手順(マネーフォワードクラウドの例)
| ステップ | 操作内容 | 具体例 |
| 1 | 該当の取引を開き「詳細」ボタンをクリック | 家賃75,000円の取引を選択 |
| 2 | 伝票形式の入力画面が表示される | 複合仕訳の入力画面に切り替わる |
| 3 | 「行追加」をクリックして1行追加 | 借方に2行作成 |
| 4 | 1行目:地代家賃(または該当経費科目)で事業分の金額を入力 | 地代家賃 15,000円(20%) |
| 5 | 2行目:事業主貸でプライベート分の金額を入力 | 事業主貸 60,000円(80%) |
| 6 | 摘要欄に按分割合を記入 | 「自宅兼事務所家賃・事業割合20%」 |
| 7 | 「自動仕訳ルールとして保存」にチェックを入れて登録 | 次回から自動で按分処理 |
按分割合の計算基準
| 費目 | 計算方法 | 具体例 |
| 家賃 | 床面積比 | 事務所スペース10㎡÷総面積50㎡=20% |
| 光熱費 | 使用時間比または床面積比 | 1日8時間使用÷24時間=33% |
| 通信費 | 使用頻度・時間比 | 業務通話50%+プライベート通話50% |
| 車両費 | 走行距離比 | 業務走行5,000km÷総走行10,000km=50% |
按分割合は、床面積・使用時間・利用頻度などの合理的な基準で計算します。一度設定した按分割合は継続して使用するのが原則ですが、事業規模の変化などで見直しが必要な場合は、その理由を記録しておきましょう。
自動仕訳ルールとして保存しておけば、毎月の入力作業が大幅に効率化されます。
振替伝票での手動入力と仕訳辞書の活用
データ連携していない取引や現金取引は、振替伝票で手動入力します。
入力手順
| ステップ | 操作内容 |
| 1 | 左メニューから「手動で仕訳」→「振替伝票入力」を選択 |
| 2 | 借方(左側)に事業主貸または経費科目を入力 |
| 3 | 貸方(右側)に現金・事業主借などを入力 |
| 4 | 金額と摘要を記入 |
| 5 | 「仕訳辞書として保存」にチェックを入れて辞書名を記入 |
| 6 | 「登録」をクリック |
仕訳辞書に登録しておけば、次回以降は選択リストから選ぶだけで同じ仕訳を呼び出せます。科目選択の手間が省け、入力ミスも減らせます。
よく使う仕訳の例
- 生活費出金・事業主貸
- Amazon書籍購入・事業主借
- セミナー参加費・事業主借
- 個人口座より資金補填・事業主借
現金取引はできるだけ減らし、事業用の銀行口座やクレジットカードを使って取引を電子化することが、記帳の効率化と正確性向上につながります。
残高試算表での確認方法
仕訳を入力したら、必ず残高試算表で事業主貸と事業主借の内容を確認しましょう。
確認手順
| ステップ | 操作内容 | 確認ポイント |
| 1 | 左メニューから「会計帳簿」→「残高試算表」を選択 | 月次または年度の残高試算表を表示 |
| 2 | 「貸借対照表」タブをクリック | 資産・負債・純資産の一覧が表示される |
| 3 | 「事業主貸」をクリックして明細を表示 | プライベート支出の内訳を確認 |
| 4 | 「事業主借」をクリックして明細を表示 | 個人資金の投入履歴を確認 |
事業主貸の明細には、生活費・個人的な税金・保険料など、プライベートの支出が計上されているはずです。事業主借の明細には、個人資金の投入・受取利息・個人カードでの経費支払いなどが計上されます。
もし予期しない取引が含まれていたり、金額が異常に大きかったりする場合は、仕訳ミスの可能性があります。早めに確認して修正することで、決算時の混乱を避けられます。
月次で残高試算表をチェックする習慣をつけると、会計の精度が格段に向上します。
個人事業主がプライベート口座を使う際の注意点
プライベート口座と事業用口座を適切に管理することは、正確な記帳と税務リスク回避の基本です。以下の注意点を押さえておきましょう。
事業用口座とプライベート口座は分けるべき理由
事業用とプライベートの口座を分けることは、個人事業主にとって必須ではありませんが、強く推奨されます。
口座を分ける最大のメリットは、事業の収支が明確になり、記帳作業が圧倒的に楽になることです。すべての取引が混在していると、どれが事業でどれがプライベートかを毎回判断しなければならず、ミスや記帳漏れのリスクが高まります。
また、税務調査の際にも説明がしやすくなります。事業用口座だけを提示すれば済むため、プライベートな支出まで調査官に見られる心配がありません。
加えて、クラウド会計ソフトとデータ連携する場合、事業用口座だけを連携すれば自動で取引が取り込まれるため、記帳の効率が大幅に向上します。
個人事業主専用のビジネス口座を提供している銀行も増えています。屋号付きの口座を開設すれば、取引先からの信頼性も高まります。
事業主貸・事業主借は経費ではない
事業主貸と事業主借は、どちらも経費ではありません。これは個人事業主が最も間違えやすいポイントです。
事業主貸と事業主借は、どちらも「純資産の部」(または資本の部)に分類される科目です。損益計算書には表示されず、利益計算には影響しません。
つまり、事業主貸をいくら計上しても所得税は減りませんし、事業主借をいくら計上しても収入が増えるわけではありません。あくまで事業と個人の間の資金移動を記録するための科目です。
この誤解から、生活費を経費として計上してしまうミスが後を絶ちません。税務調査で指摘されると追徴課税だけでなく、過少申告加算税や延滞税などのペナルティが課される可能性があります。
正しい理解のもとで仕訳することが、適正な申告と節税の第一歩です。
年度末の処理:事業主勘定は自動精算される
事業主貸と事業主借は、年度末(12月31日)に自動的に精算され、翌年には残高がゼロになります。
具体的には、決算時に事業主貸と事業主借の差額が「元入金」という資本金に相当する科目に振り替えられます。多くの会計ソフトでは自動で行われますが、ソフトによっては手動設定や確認が必要な場合もあるため、使用する会計ソフトのマニュアルを確認してください。
たとえば、年間で事業主貸が5,000,000円、事業主借が1,000,000円だった場合、差額の4,000,000円が元入金から差し引かれます。これは事業から個人へ4,000,000円が実質的に移動したことを意味します。
翌年1月1日には、事業主貸と事業主借の残高はゼロからスタートします。そのため、前年の取引を気にせず、新しい年度の記帳を始められます。
この仕組みを理解しておけば、年度をまたいだ処理で混乱することはありません。
税務調査で指摘されないための記録管理
事業主貸と事業主借を正確に処理していても、税務調査では取引の根拠資料を求められることがあります。
保管すべき記録
- 銀行口座の取引明細(事業用・個人用とも)
- 個人のクレジットカード明細(事業経費を支払った分)
- 領収書・レシート(特に現金取引)
- 按分計算の根拠資料(図面・使用時間記録など)
- 生命保険料控除証明書、国民健康保険料の納付証明書
特に現金取引や按分処理は、客観的な証拠がないと否認されるリスクがあります。摘要欄に詳細を記録し、関連資料を整理しておくことが大切です。
クラウド会計ソフトには領収書のスキャン・保存機能がついているものもあります。電子帳簿保存法の要件を満たした方法で保存すれば、紙の領収書の保管が不要になる場合があります。
ただし、タイムスタンプの付与や検索機能の確保など、一定の要件を満たす必要があるため、詳細は国税庁のガイドラインや税理士に確認してください。
日頃から丁寧な記録管理を心がけることで、税務調査への不安を大きく減らせます。
よくある質問(FAQ)
事業主貸・事業主借の処理について、実務でよく寄せられる疑問をまとめました。正しい理解が適切な記帳と税務リスクの回避につながります。
Q1. 事業用口座を持たず、個人口座だけで事業をしても問題ありませんか?
法律上、問題ありませんが、記帳の手間と税務リスクが大幅に増えます。個人口座の取引をすべて確認して事業分とプライベート分を仕分けする必要があり、ミスや記帳漏れが発生しやすくなります。
また、税務調査では個人口座の明細も提示を求められる可能性があります。事業専用の口座を開設することをおすすめします。
Q2. 個人のクレジットカードで事業経費を支払った場合、引き落とし時にも仕訳が必要ですか?
購入時に「借方:経費科目/貸方:事業主借」と仕訳すれば、引き落とし時の仕訳は不要です。個人口座から引き落とされる分は個人のお金で支払ったとして既に処理済みだからです。
もし事業用口座から引き落とされた場合は、別途「借方:事業主貸/貸方:普通預金」の仕訳が必要になります。
Q3. 年度途中で按分割合を変更してもよいですか?
原則として、一度設定した按分割合は1年間継続して使用します。ただし、事務所スペースの拡大や事業時間の大幅な変更など、合理的な理由がある場合は変更可能です。
変更した場合は、その理由と新しい計算根拠を記録し、証拠資料を保管しておきましょう。
Q4. 事業主貸で計上したものを後から経費に変更できますか?
適切な経費であることが証明できれば、修正仕訳で変更可能です。ただし、確定申告後に変更する場合は「更正の請求」手続きが必要になります。
誤って事業主貸で処理してしまった経費は、早めに気づいて修正することが重要です。
Q5. 屋号付き口座は必ず開設すべきですか?
法的義務はありませんが、取引先からの信頼性向上に役立ちます。特に請求書に屋号を記載している場合、振込先も屋号付きの方が取引先にとってわかりやすくなります。
ただし、開設には個人口座より多くの書類が必要になることがあります。
まとめ:事業主貸・事業主借を正しく理解して確定申告をスムーズに
本記事では、個人事業主のプライベート口座と事業用口座の仕訳処理について、基本から実践まで解説しました。
個人事業主のプライベート口座仕訳では、「事業主貸」「事業主借」という2つの勘定科目を使います。事業用口座から生活費を引き出した場合は事業主貸、プライベート口座から事業資金を補填した場合は事業主借で処理します。
この2科目を正しく使い分けることで、事業とプライベートの資金の流れを明確に記録できます。
今日から実践できる4つのアクション
- 事業用口座とプライベート口座を分離する
既存口座は混在しやすいため、新規開設を推奨します。 - 月1回の生活費移動を習慣化する
毎月25日など固定日に一定額を振り込むルールを決めます。 - クラウド会計ソフトで自動仕訳ルールを設定する
頻繁に発生する仕訳を登録しておくことで、入力時間を90%削減できます。 - 按分割合の根拠資料を保管する
家賃や光熱費の按分は、図面や使用時間記録など客観的な証拠が必要です。
プライベート口座と事業用口座の仕訳は、基本を押さえれば対応できます。また、クラウド会計ソフトのデータ連携と自動仕訳ルールを活用すれば、記帳作業は大幅に効率化されます。
今日から口座の整備と正確な仕訳を始めて、確定申告への不安を解消しましょう。
出典・参照元
- 国税庁「個人事業者の帳簿の記帳・記録の保存について」
- 国税庁「所得税の基本的な仕組み」
- 国税庁「確定申告の手引き」
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答」
※記事内容は2025年10月25日時点の税制・法令に基づいています。税制改正等により内容が変更される場合がありますので、最新情報は国税庁または税理士にご確認ください。
