雇用翌日から10日以内に労働保険の届出が必要です。個人事業主が従業員を雇う場合、7つの手続きを期限内に完了しなければ追徴金や強制加入処理のリスクがあります。本記事では手続き期限一覧・税務への影響・節税活用まで実務ベースで解説します。本記事の情報は2026年3月時点のものです。
この記事の結論
個人事業主が従業員を雇う場合、雇用翌日から10日以内に労働保険の届出を行う必要があります。手続きは7種類あり、労働基準監督署・ハローワーク・税務署・年金事務所への届出を並行して進めなければなりません。給与は全額経費に算入でき節税効果がある一方、年末調整や社会保険の事務負担も増加するため、事前準備が成否を分けます。
今日やるべき1つ
採用が決まった当日中に「労働保険関係成立届」の様式を厚生労働省の公式ページからダウンロードし、雇用翌日から10日以内の提出スケジュールをカレンダーに入れてください。(所要時間:15分)
状況別ショートカット
| 状況 | 読むべきセクション | 所要時間 |
| 採用直後・何から手をつけるか知りたい | 従業員を雇う7つの必須手続き【提出期限一覧】 | 10分 |
| 雇うべきか費用面で判断したい | 個人事業主が従業員を雇うコスト試算 | 5分 |
| 確定申告・節税への影響を知りたい | 従業員を雇う所得税・確定申告への影響 | 7分 |
| 自分の状況が手続き対象か診断したい | 個人事業主の雇用手続きを3分で診断 | 3分 |
| 採用前に確認すべき項目を一括チェック | 雇用前チェックリストは10項目で確認 | 5分 |
個人事業主が従業員を雇える条件は1人から

個人事業主でも、法人と同じように従業員を雇用できます。正社員・契約社員・パート・アルバイトのいずれも可能で、必ずしも法人化は不要です。ただし、従業員を雇った瞬間から複数の法的義務が発生する点は見落としがちです。
雇用と外注は税務・保険の扱いが根本的に異なる
外注(業務委託)は成果物に対して報酬を支払いますが、雇用は労働時間に対して給与を支払います。雇用の場合のみ以下で説明する7つの手続きが必要になり、外注であれば手続き義務は発生しません。この違いを理解せずに「実態は雇用なのに業務委託契約を結ぶ」と、労働局の調査で偽装請負と認定されるリスクがあります。
なお、開業届を未提出のまま従業員を雇う場合は、開業届の提出を先に済ませてください。

手続き義務が発生するタイミングは雇用日当日
手続きの期限は「雇用した日」ではなく「雇用翌日」からカウントが始まります。採用内定後ではなく、実際に労務提供を開始した日が起点です。試用期間中でも同様に適用されるため、「試用期間が終わってから手続きしよう」という判断は期限超過につながります。
ある個人事業主は「手続きが複雑で、何から始めればいいかわからず、気づいたら期限を過ぎていた」と振り返っています(個人事業主の方、上手くいかないときにどうやって乗り越えましたか? – Yahoo!知恵袋)。
雇用形態別の義務適用一覧
| 雇用形態 | 労災保険 | 雇用保険 | 社会保険 |
| 正社員 | 必須 | 必須 | 5人以上で強制 |
| パート・アルバイト(週20h以上) | 必須 | 必須 | 条件次第 |
| パート・アルバイト(週20h未満) | 必須 | 不要 | 条件次第 |
CHECK
-> 雇用形態と週の労働時間を確認し、上表で必要な保険の種類を特定する(5分)
よくある質問
Q: 個人事業主でも従業員を1人から雇えますか?
A: はい、1人から雇用できます。雇用した翌日から労働保険の加入義務が発生します(厚生労働省|雇用保険の手続き)。
Q: 業務委託と雇用はどう判断しますか?
A: 指揮命令関係の有無・時間管理の有無・報酬形態(時給か成果報酬か)の3点で判断します。
個人事業主が従業員を雇うコスト試算


給与以外に発生するコストを事前に試算することが、経営判断の出発点になります。
給与月20万円の場合の総負担額
給与月20万円の従業員を雇うと、事業主の実質負担は給与以外に社会保険料・雇用保険料が上乗せされます。
| 項目 | 金額(目安) |
| 給与 | 200,000円 |
| 社会保険料(事業主負担・5人以上の場合) | 約28,000〜30,000円 |
| 雇用保険料(事業主負担) | 約1,700円(賃金の0.85%) |
| 労災保険料 | 業種により異なる(例:一般業種0.25%) |
| 月次合計(概算) | 約230,000〜232,000円 |
給与の約15〜16%が追加コストとして発生します。この試算を下回る粗利益しか出ない場合は、業務委託の活用や法人化の検討を先行させるのが賢明です。
雇うべきか判断する3つのチェックポイント
① 売上の安定性:一時的な繁忙ではなく、毎月安定した売上があるか確認してください。給与は売上ゼロの月も支払い続ける固定費です。
② コスト回収の試算:雇用後に生まれる追加売上が、給与総負担額を上回るか計算してください。追加売上が月23万円以上見込める場合のみ採算が取れます。
③ 代替手段との比較:繁忙期のみの単発業務委託・クラウドソーシングで賄えないか検討してください。週20時間未満の業務なら、雇用よりコストを抑えられます。
法人化と個人事業主の税負担差については法人・個人事業主の税金比較も合わせてご覧ください。

CHECK
-> 給与月額と上表の追加コストを合算し、雇用後の収支シミュレーションを1枚の表で作成する(20分)
よくある質問
Q: パートを1人雇う場合、社会保険は必要ですか?
A: 常時5人以上が強制適用の基準です。1〜4人のパートのみであれば社会保険は任意加入ですが、労災保険・雇用保険(週20h以上)は1人でも必要です。
Q: 試用期間中も手続きは必要ですか?
A: 必要です。試用期間も「雇用」に該当するため、労働保険の加入義務は雇用初日翌日から発生します。
従業員を雇う7つの必須手続き【提出期限一覧】



採用が決まったら、複数の手続きを並行して進める必要があります。期限の短い順に優先して着手してください。提出先・タイミングを整理すれば難しくありません。
手続き1:労働条件通知書の交付(採用決定時)
労働基準法第15条で義務付けられており、採用が決まったらまず作成して交付します。記載必須事項は労働時間・賃金・休日・退職に関する事項で、厚生労働省の公式テンプレートをそのまま利用できます。
2024年4月の法改正により、就業場所・業務の変更の範囲と無期転換申込の機会についても追加で明示が必要になりました。テンプレートを流用する場合は改正後の最新版を使用してください。
手続き2:労災保険の加入(雇用翌日から10日以内)
提出書類:「労働保険関係成立届」
提出先:所轄の労働基準監督署
期限:雇用翌日から10日以内
1人でも雇えばパート・アルバイトを問わず加入義務が生じます。期限超過時は追徴金(不正利得の徴収)が発生するため、採用が決まった当日に様式を準備してください。続いて「概算保険料申告書」を雇用翌日から50日以内に提出します。
手続き3:雇用保険の加入(10日以内+翌月10日まで)
加入条件:週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合
提出書類①:「雇用保険適用事業所設置届」→ハローワークへ(設置翌日から10日以内)
提出書類②:「雇用保険被保険者資格取得届」→ハローワークへ(翌月10日まで)
手続きを怠ると、後から強制加入処理と過去最大2年分の保険料遡及請求が行われます。雇用保険の仕組みの詳細は個人事業主の雇用保険3分類と手続きをご覧ください。

手続き4:給与支払事務所等の開設届出書(1ヶ月以内)
提出先:所轄の税務署
期限:雇用した日から1ヶ月以内
開業届に給与支払事務所等の開設を記載済みの場合は不要です。この届出を行うことで税務署から源泉徴収関係の書類が送付されます。
手続き5:源泉徴収の準備(初給与支払い前)
従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を回収し、毎月の源泉徴収税額を計算します。源泉徴収した所得税の納付期限は原則として徴収した月の翌月10日ですが、支給人員が常時10人未満の場合は「源泉所得税の納期の特例」を申請することで年2回(7月10日・翌年1月20日)にまとめて納付できます。
手続き6:社会保険(健康保険・厚生年金)の加入
強制適用:常時5人以上を雇う事業所(農林漁業・一部サービス業等を除く法定16〜17業種)
任意適用:5人未満の場合は任意加入が可能
強制適用の場合、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を適用事業所になった日から5日以内に年金事務所へ提出します(参考:協会けんぽ|適用事業所について)。保険料は事業主と従業員で折半(給与の約14〜15%)です。社会保険加入義務の判定は3条件でスッキリ判定も参考にしてください。

2022年10月の法改正で弁護士・公認会計士・税理士などの士業事務所も5人以上で強制適用対象となりました。見落としがちなポイントです。
手続き7:就業規則の届出(従業員10人以上の場合)
常時10人以上の従業員を雇用する場合は、就業規則を作成し所轄の労働基準監督署に届け出る義務があります。10人未満の場合でも労働トラブルを防ぐために作成を推奨します。「まだ少人数だから不要」という判断が、後のトラブルにつながるケースは珍しくありません。
CHECK
-> 手続き期限一覧(後述の表)を印刷またはカレンダー登録し、直近の期限(10日以内)から着手する(10分)
よくある質問
Q: 労働保険と雇用保険の手続き先はどこですか?
A: 労働保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークです。両者は異なる機関のため、それぞれに別途届出が必要です(参考:厚生労働省|雇用保険手続き)。
Q: 手続きを社労士に依頼できますか?
A: すべての手続きを社会保険労務士に委任できます。費用は地域や業務範囲により月1〜5万円程度が目安ですが、初回手続き一括依頼のスポット対応も可能です。
個人事業主の雇用手続きを3分で診断

「自分の状況に必要な手続きはどれか」を3分で判定できます。採用前の段階でもこの診断を活用することで、準備すべき書類を事前に把握できます。
Q1: 採用予定の従業員は週20時間以上働きますか?
- Yes → Q2へ
- No → Result Aへ
Q2: 31日以上継続して雇用する見込みがありますか?
- Yes → Q3へ
- No → Result Aへ
Q3: 現時点で同じ事業所に常時5人以上の従業員がいますか?
- Yes → Result Bへ
- No → Result Cへ
Result A:労災保険のみ加入(最小手続き)
週20時間未満または短期雇用の場合、必要な手続きは労働保険関係成立届の提出のみです。雇用保険・社会保険の加入義務はありません。
Result B:労災保険+雇用保険+社会保険(フル手続き)
7手続きすべてが対象です。期限の短い順(労働保険→雇用保険→給与支払事務所届→社会保険)に着手してください。
Result C:労災保険+雇用保険(社会保険は任意)
5人未満の場合、社会保険は任意加入です。労災保険と雇用保険の届出を10日以内に完了させてください。
CHECK
-> 診断結果を確認し、対象手続きを「手続きまとめ一覧表」で期限と照合する(3分)
よくある質問
Q: パート採用で「週20時間未満」を意図的に設定すれば雇用保険は不要ですか?
A: 契約上の時間が20時間未満でも、実態として恒常的に20時間以上となっている場合は加入義務が生じます。実態と契約を一致させてください。
Q: 季節的に繁忙期だけ短期雇用する場合は?
A: 31日未満の雇用見込みであれば雇用保険は不要です。ただし、更新を繰り返すと「31日以上の雇用見込みあり」と判断される場合があります。
手続きまとめ一覧表
| 手続き | 提出先 | 期限 | 必要条件 |
| 労働条件通知書の交付 | 従業員へ | 採用時 | 全員必須 |
| 労働保険関係成立届 | 労働基準監督署 | 翌日から10日以内 | 1人以上雇用 |
| 概算保険料申告書 | 労働基準監督署 | 翌日から50日以内 | 1人以上雇用 |
| 雇用保険適用事業所設置届 | ハローワーク | 設置翌日から10日以内 | 週20h・31日以上 |
| 雇用保険被保険者資格取得届 | ハローワーク | 翌月10日まで | 週20h・31日以上 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 1ヶ月以内 | 全員必須(※) |
| 社会保険新規適用届 | 年金事務所 | 5日以内 | 5人以上(強制適用業種) |
※開業届に記載済みの場合は不要
従業員を雇う所得税・確定申告への影響

従業員を雇うと、確定申告の内容が変わります。節税に活かせる要素が増える一方、年末調整などの事務負担も生じます。プラスとマイナスの両面をあらかじめ把握しておくことが重要です。
給与は全額経費になる
従業員に支払った給与・賞与・交通費(実費分)は全額「給与賃金」として経費計上できます。月20万円の給与なら年間240万円が所得から控除され、税率20%の場合は年間48万円の節税効果になります。ただし、経費増加で帳簿管理が複雑になるため、会計ソフトの導入を同時に検討してください。
確定申告の全体フローはフリーランスの確定申告ガイドをご覧ください。

家族を雇う場合は青色事業専従者給与が必要
配偶者や子どもなど生計を一にする家族を従業員として雇い給与を経費にするには、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出する必要があります(青色申告の場合)。白色申告の場合は専従者控除(最大86万円)が使えますが、実際の支給額にかかわらず控除上限が固定されます。青色申告での専従者給与のほうが節税効果が高いケースが大半です。
家族への給与を活用した節税の詳細はフリーランス家族の節税法をご覧ください。

年末調整の義務が発生する
従業員を雇った場合、毎年12月に年末調整を行う義務が生じます。各従業員から扶養控除等申告書を回収し、年間の源泉徴収税額を精算します。年末調整を誤ると従業員への過不足還付が発生するため、市販の給与計算ソフトを活用して処理精度を高めることを推奨します。年末調整をやらなくていいケース(従業員全員が副業収入がある場合など)もありますが、原則は事業主が実施します。
個別の状況によって税務処理が異なる場合があります。不明点は税理士へのご相談をお勧めします(国税庁|源泉徴収義務者)。
CHECK
-> 確定申告ソフト(freee・マネーフォワード等)に「給与賃金」科目を設定し、初回給与支払い前に登録を完了させる(30分)
よくある質問
Q: 専従者給与はいくらまで経費にできますか?
A: 「労務の対価として相当な金額」であれば全額経費になります。届出に記載した金額の範囲内であれば問題ありません。
Q: 給与支払いを始めると消費税の扱いは変わりますか?
A: 給与は消費税の課税仕入れに該当しないため、消費税計算には影響しません。
雇用前チェックリストは10項目で確認

採用が決まったら、以下を手続き着手前に確認してください。一度に全部やろうとすると混乱しやすいですが、リストに沿って順番に進めれば着実に完了できます。
- 労働条件通知書の作成・交付(採用日)
- 雇用契約書の締結(義務ではないが推奨)
- 労働保険関係成立届の提出(雇用翌日から10日以内)
- 概算保険料申告書の提出(雇用翌日から50日以内)
- 雇用保険適用事業所設置届の提出(設置翌日から10日以内)
- 雇用保険被保険者資格取得届の提出(翌月10日まで)
- 給与支払事務所等の開設届出書の提出(1ヶ月以内)
- 給与所得者の扶養控除等申告書の回収(初給与支払い前)
- 源泉所得税の納期の特例の申請(9人以下の場合、随時)
- 社会保険加入要否の確認(5人以上で強制適用業種は必須)
CHECK
-> 上記リストをプリントアウトまたはスプレッドシートに転記し、完了日を記録しながら手続きを進める(10分)
よくある質問
Q: 社会保険労務士に依頼する目安はいつですか?
A: 初めての雇用で手続きに不安がある場合や、3人以上を同時採用するケースでは最初から依頼するのが効率的です。手続き代行費用は初回5〜10万円程度が目安です。
Q: 手続き漏れが判明した場合はどうすればいいですか?
A: 発覚次第、管轄の機関(労働基準監督署・ハローワーク等)に自主的に申告してください。遡及加入と未払い保険料の精算は必要ですが、早期申告で追加ペナルティを最小化できます。
まとめ:個人事業主の雇用手続きは10日以内が勝負
雇用翌日から10日以内の労働保険届出が、個人事業主の雇用手続きで最優先すべき課題です。手続きは7種類ありますが期限順に着手すれば確実に完了できます。給与の全額経費化や家族雇用の節税効果を最大限に活かすためにも、手続きと税務対策を同時に整備することをお勧めします。
迷ったときは「10日以内に動く」を判断基準にしてください。手続きの不備は後から是正できますが、期限超過によるペナルティは避けられません。まず今日、労働保険関係成立届の様式をダウンロードするところから始めてください。
| 状況 | 次の一歩 | 所要時間 |
| 採用が決まった当日 | 労働保険関係成立届の様式をダウンロードし、翌10日以内の提出予定をカレンダー登録 | 15分 |
| 給与支払い前日 | 源泉徴収税額表と扶養控除等申告書を準備し、初回給与計算を完了 | 1時間 |
| 5人目を採用する前 | 業種が社会保険強制適用業種か確認し、年金事務所への届出スケジュールを確保 | 30分 |
個人事業主が従業員を雇うに関するよくある質問
Q: 個人事業主が従業員を雇う場合、開業届の変更は必要ですか?
A: 給与支払事務所等の開設届出書を税務署に提出すれば足ります。開業届の再提出は不要です。ただし開業届に給与支払事務所等の開設を記載していない場合のみ届出が必要です(参考:国税庁 No.2502)。
Q: アルバイトを短期間だけ雇う場合も労災保険は必要ですか?
A: 必要です。1日だけの雇用でも労働者を使用した瞬間から労災保険の加入義務が生じます。短期のアルバイトでも「一人親方の特別加入」とは異なる通常の労働保険手続きが必要です。
Q: 従業員を解雇した場合の手続きはありますか?
A: 雇用保険の「被保険者資格喪失届」をハローワークに提出する必要があります。退職の翌日から10日以内が期限です(参考:厚生労働省|雇用保険手続き)。
